初戦闘と魔王スレ
不安定な足元に気を取られていると、左肩に衝撃が走った。思わず舌打ちをしながら、噛み付いてきたオオカミの腹へと掌を当てて魔法をぶっ放すと面白いように弾き飛ばされていった。ゴロゴロと転がっていくそのオオカミの身体に、3、4発と焔の弾丸の追撃が叩き込まれる。発動の速さの為に幾分か威力は抑え目にされているが、それがトドメとなったようだ。転がるのが止まったオオカミはそれっきりでピクリとも動かなくなった。
「すまん、ノチェ」
「ちょっと喰らい過ぎじゃないかい?」
「慣れるまでの辛抱だ」
「それまでに何回死ぬやら」
はぁ、とため息をつきながら前髪を掻き上げるノチェも大分神経をすり減らしているようだ。俺とノチェのコンビは攻撃手段の違いこそあれど、ともに役割はダメージディーラーであり回避盾だ。どれだけ敵の攻撃を喰らわずに完封できるかが課題になっていく。
「そっちは?」
「見ての通りさ。無傷だよ」
こうして共にゲームで戦うようになって思ったのだが、来実は位置取りがクレバーで巧い。全体を鳥瞰しているかのように把握し、死に戻りできる、と思わずに安全なルーチンをとって相手を追い詰めようとするので、俺は安心して最前線に突っ込む事が出来る。
「でも、思ったより火力は無いね。魔法という感覚にあまり慣れていないからかもしれないけど」
「始めたばかりでそれならば十分だろ。威力と発動速度のウェイトの振り分けは、βテスターでもまだ出来ない奴が多いはずだ」
「早撃ち出来ても、無駄撃ちできないから、弾幕張るのは控えたいけどね」
撃って走って、なんていうか、ノチェの戦い方はガンマンの決闘みたいな戦い方だよな。こんな高度な色物をぶっつけでやるんだから……これだから天才肌は。
「今の戦い方でも結構消費したのか?」
「ちょっと重たい、ね。正直もう少し抑え目にしたい」
まずしばらくは補給皆無だろうしなぁ。早くプレイヤーメイドのアイテムが手に入る様になればいいんだが……。
しかし、だからといって、戦う量を控えめにというのは無理そうだ。まず、ゲーム内における俺たちは戦う以外に活路がなく、存在意義が無い。
それに――と思いながら俺は周囲を見渡す。今は夜なので辺りは見辛いが、魔人の種族特徴に暗視があるので、見えないことは無い。背後を見れば、少し離れた距離に街の城門。正面は見渡す限りの砂と荒野が広がっている。当然足元も不安定なサラサラの砂だ。
始まり街から行けるフィールドは東西南北、四つの地域が存在するが、その中でもこの西門から続く、砂漠フィールドは一番難易度が高い。足元は悪く、環境が悪すぎる。かつ、このフィールドに出る敵はこのフィールドに住むため、自在に動いてくる。感覚としては、一番無難な東門から続く平原フィールドより難易度が二段階ぐらい上だ。当然、他のプレイヤーの姿は少ない。
つまり、獲物は多い。隠れる場所も無いし、思う存分戦いたい放題だ。それでもちらほらとプレイヤーの姿が見えるのは、先ほどの講習会で俺がオススメしたからだろう。
足元が悪い中での戦い方に慣れてくるという事は、レベル以上にプレイヤースキルが鍛えられる。今苦労しておけば、他のフィールドでの戦いが楽になるはずだ。特に俺たちみたいな機動型アタッカーズは。
ま、結構死に戻りしている奴が多いみたいだけど。
「さ、ノチェ。おかわりだ」
「団体様はお断りだよ」
そうこうしている内に、種族特徴で強化されている眼が、夜の砂丘を疾駆してくるオオカミの群れを捉えた。先ほどは1匹だったが、それでも少し苦戦した。今回は……3、いや4匹か。砂に足を取られない様に気を付けながら、前に出る。無駄弾は撃ちたくないと言っていたはずのノチェが牽制と掩護の為に焔の弾丸を飛ばした。
こんなだだっ広いフィールドで4匹全員引き付けて立ちまわれるか?多分無理だ。それでもやってみせるのが、俺の役目だ。
さあて、笑っちまうぐらいにピンチだ。
□ □ □
【集え】魔王()スレ1【戦士たちよ】
44 名無しの冒険者さん
攻撃パターンは近接のみみたいだけど、なんじゃ、あのバ火力は……
45 名無しの冒険者さん
というか、路地裏に逃げ込んで、数の差を埋めたり、戦い方が完全にストリートの喧嘩
46 名無しの冒険者さん
>>44
気が付いたら壁に叩き付けられ、死に戻りしていた。2、3発で落とされたからマジびびったw
47 名無しの冒険者さん
あれ、中身いるよね
48 名無しの冒険者さん
いちいち人間臭いから、いるだろうなぁ。多分、運営じゃね?
49 名無しの冒険者さん
あ、落ちた。意外と紙装甲?
50 名無しの冒険者さん
押し切った、って感じだったけどな。一列目が耐えながら削って。二列目にいた奴が思いっ切り飛び込んで刺してたし。
そんなワイ、中盤で高みの見物中。
51 名無しの冒険者さん
俺もだけどさ……
でも、あれ?クエストクリアになってないぞ?
52 46
うぉぉおおおおおおおお!??
寛いでたらリスポーン地点に魔王戻ってきた!?
53 名無しの冒険者さん
>>52
くっそフイタwww
54 名無しの冒険者さん
>>52
ご愁傷様www
つか、魔王様も死に戻り扱いかよw
55 名無しの冒険者さん
っていうか、魔王様に凸したらクリアしてるし、倒す必要ないんだけどな
考えてみれば、クエの内容「挨拶」だろ?
56 名無しの冒険者さん
>>52
大丈夫ですかー!ww
57 46
>>56
大丈夫じゃねぇよ!なまら怖かったよ!
58 名無しの冒険者さん
>>55
マジで!?え、じゃあ、普通に「こんにちわ」って挨拶すれば終わりだった?
59 名無しの冒険者さん
ダルマ屋さん乙。つか、よく書き込む余裕があったな
>>58
その発想は無かった……
60 名無しの冒険者さん
58がいい子過ぎて草
もっと早く気が付けよ……俺達。
61 46
>>59
ああ、うん。戻ってきて一瞬キョドってたけど、速攻でまた移動していったからね
ちなみに俺もクリア扱いになってたよー。だからわざわざ戦う必要も無いし。
62 名無しの冒険者さん
悲報
中盤ぐらいで高みを見物していたワイ。
事の重大さに気が付いた奴らが騒ぎだし、路地の渋滞に巻き込まれて圧死寸前
63 名無しの冒険者さん
揃いも揃ってアホすぎるwww
……俺もだけど。
64 名無しの冒険者さん
おい、つっかえてる路地の出口辺りでまた戦闘始まったみたいだぞ。
魔王様が「クソッタレどもが!御礼参りだ!」って叫んでる
65 名無しの冒険者さん
ああ……ごめんなさい、魔王様。
67 名無しの冒険者さん
こんな風に数センチのズレを重ねて世界は意味のない戦争を繰り返すんやな……
□ □ □
406 名無しの冒険者さん
今、ベンチでくたびれてる魔王様にとっこみかました勇者がいたんで、その会話をそれとなく聞いていたんだけど、やっぱ中身いるらしいぞ
@ベンチ近くの茂みの中
407 名無しの冒険者さん
つか、親切に魔法についての質問に答えてくれているしw
オフの時はメッチャいい人っぽいw
@噴水の中
408 名無しの冒険者さん
>>407
お前どこにおんねんwww
409 名無しの冒険者さん
つか、覗いてみたらマジでおるしw
410 407
此度、某はニンジャロールを少々……
411 名無しの冒険者さん
>>409
なら、もっとうまく忍べよw
筒からスーハースーハー呼吸音がうっさいねんwww
412 名無しの冒険者さん
お、なんか、講習会っぽいのやってくれるみたい
413 名無しの冒険者さん
ありがたやー。
今のところ、βテスターたちが何の情報も出してくれんからめっちゃ助かる
414 名無しの冒険者さん
突撃かました内の一人だけど、魔王軍入ろうか検討中。
中の人、リアル先輩だった上に、色々と逸話付きの地元の有名人だし。
415 名無しの冒険者さん
>>414
なんぞ?
リアル化け物なのか?
416 414
あんまりリアルの事を言うのは……だけど、一つだけ。
中の人、絶対魔王って性格じゃ無い。
やる事なす事間違いなく、通りすがりの正義の味方ポジ
417 名無しの冒険者さん
何でそんなのが魔王の中身やってんだよwww
418 名無しの冒険者さん
>>414
ダークヒーロー系?
419 416
>>418
ダイハード系
420 名無しの冒険者さん
ダイハード系wwwやべぇwww
がぜん、興味が湧いてきたw
421 名無しの冒険者さん
完全に通りすがりに巻き込まれる系やw
そして何故か解決する奴やwww
……あれ?そういえばさっきのクエストも、
422 名無しの冒険者さん
>>421 それ以上いけない。
しかし、リアル後輩からの評価が「“リアル”ジョン マクレー●」って……まあ、悪くは無い。悪くは無いんだけど……
423 名無しの冒険者さん
良くも無いなw
新手のマスコットかww
424 416
でも、そんなんだからな、付いていこうかなーって思うんだ。
ゲームだからかもしれないけど、こっちの方がはっちゃけてそう
425 名無しの冒険者さん
さっきの運営の罠クエストといい、まあ賑やかやろなw
退屈せーへんのは大事や
426 名無しの冒険者さん
アレだな。悪党じゃなくて、「悪役」って感じだな。
427 名無しの冒険者さん
悪役ロールは楽しいで。
ソースはTRPGやってた儂
428 名無しの勇者さん
皆!騙されるな!これは魔王の手先による印象操作だ!
429 名無しの冒険者さん
>>428
なん・・・だと・・・?
430 名無しの冒険者さん
汚いなさすが魔王きたない
431 名無しの冒険者さん
いや!これは魔王を貶めようとする正義側の罠なのは確定的に明らか
432 名無しの冒険者さん
またなっつい言葉使ってるのが急に来おったなぁw
せやけど、ネタぶっこむならどっちかに統一せぇや
433 名無しの冒険者さん
まあ、ノリがいいだけなんだろうけどw
434 名無しの冒険者さん
お前ら肝心な事を今見落としているぞ。
言葉遣いとかそういう細かい所じゃねぇ。
肝心なのは、預り知らぬ所でシンパとアンチの戦いに
巻 き 込 ま れ て る 魔 王 様
435 名無しの冒険者さん
ホンマやwwwwwwwwww
御本人は今目の前でメッチャ丁寧に説明してくれてるのにw
436 名無しの冒険者さん
やべぇ……これがダイハード系……
俺も魔王軍に入ろうかな
■ ■ ■
「おらよっと!」
わざとギリギリで立ち位置をズラすと、丁度飛び込んできたオオカミの頭にノチェの焔弾が当たった。すかさずその頭を右手で掴み、極縮した魔法を纏ったまま地面へと叩きつける。何度か団体様のお相手をして、大分喰らってきたが、その甲斐もあってようやく立ち廻り方が様になってきたようだ。
敵方の進行を妨げる事が出来ないのならば、動き回ってこちらにとって都合のいい位置まで誘導するしかない。いくつものタスクをいっぺんに考えて行動しなければならないから、達成感もひとしおだ。
「あ、レベル上がった」
「そろそろ潮時かもな」
ふぅ、と一息をついて、髪を掻き上げる。ステータスを見てみると、俺のレベルは15。ノチェが10。パーティーを組んでいるので経験値は同じはずなのに、差があるのは先ほどのイベントのせいだろう。あの時、結構稼いだんだな。
おそらく効率でいえば、順当に平原から段階を踏んで狩りまくった方がいいとは思う。一戦一戦に苦戦するために、回転率が悪すぎる。それでも、まあそこそこ上がった方だろう。
「レオ。あっち」
「んー?おー、なんだ。ナツとマーシーとローか」
ノチェの指さした方向へ目を凝らすと、後輩たちが手を振りながらこっちへと向かっているのが見えた。ちなみに、ノチェにも先ほど彼らがリアル後輩だと説明し、ついでにフレンド交換をしている。
「学生がこんな時間までゲームをしているのは感心しないね」
「いやいやいや、ノーチェ先輩も大学生ですよね!?あ、これ、差し入れです」
「いいの?ありがとう」
先制攻撃で皮肉を浴びせていたノチェは、贈られた賄賂で難なく陥落。勿論嫌っている訳でもなく、最初からその顔には穏やかな笑みが浮かんでいたから、彼女なりのコミュニケーションなのだろう。
俺にはあまり笑顔を向けてくれないくせに……。
「レオ。半分」
「お、もらうもらう。回復薬か。助かる」
オレンジとミント系ハーブが混じったような味の回復薬を飲み干して、ふぅ、ともう一息。正直言うと、これが無かったら結構厳しかった……。
「で、調子はどうよ?マーシー」
「え?まあ……ギリギリなんとかって感じです」
「なんとか使える様にはなった物の、まだちょっと魔法は効率が悪いですね。初歩魔法の“ウォーターバレット”を一つ撃つのに時間が掛かりすぎですよ」
「そりゃそうだ、ロー。ログイン一日目にチョロっと戦ったぐらいで魔法が使える様じゃ、魔法職がおまんま食い上げだ」
「ま、そうですね」
同じフィールドのどこかで戦っていたのか、やや疲労感はあるものの、3人に焦った様子は無い。今、このフィールドにいるということは、おそらく死に戻りもしなかったのだろう。先ほどは真っ先に死に戻りしていたが、中々骨のありそうな奴らだ。
「でも、お二人はよくこんな場所で動き回れますね。ボクたちは完全に捨て身カウンター狙いでしたよ」
「魔人の種族特徴で、住人からまともに補給が出来ないからね。避けるのは必然だよ、マーシー君」
「さっきのなんて踊っているようでしたよ」
オオカミが7匹いたからな。最初。最大数更新だ。だから、ナツの賞賛は素直に受け取っておくことにした。
「ノーチェ先輩。折角なんで、訓練の為にちょっと一緒にやってみませんか?」
「いいよ」
仲いいね、君たち。
そして、ノチェ。気が付いているか?お前、ナツの提案にあっさり頷いたけど、ナツたちも全員前衛だぞ?前衛4枚。中衛1枚。治癒師無し、代わりに悪役あり。ってどれだけ前のめりなパーティーやねん。
「そういえばレオ先輩」
「ロー。なんだ?」
「掲示板、見てないですよね?」
「うん?」
掲示板?ああ、ゲームの。
「今、割とマジで魔王軍が出来そうな勢いです」
「専用スレもあって、何人か志願者が」
「……おおう。マジか」
「どうします?本気で魔王軍作るんでしたら、自分たち三人も入らせて頂きたいな、と思っているんですが……」
あ、2人が視線をちょっとだけ背けたぞ。
なんかヤな予感がするな……。