説明回なのですわ
シナリオや物語が思うように進まないのはよくある事(体験談)
人間の夢、VRゲーム。
世界初のタイトル『ロワ マージュ』の開発と配信決定が発表されてから、それが遂に現実になったとメディアは毎日のように報道を始めた。
トレーラーから見て取れる現実世界と変わらないリアルな造り込み。発表される自由度の高さとファンタジックな世界観。世界中が熱狂したと言っても過言ではない。
実際に、その筐体の販売となった時、凄まじい倍率だったという。
そしてサービスが開始され、期待値が最高潮に高まったその直後に事件は起きた。
「ログアウト……コマンドが無い」
色々と小説やアニメなどで取り上げられてきた古典ネタではあるが、実際に起きてしまったその事件に幸運にも凄まじい倍率を掻い潜ってきたユーザーたちは震撼した。
だが意外にも、デスゲームかと思われたその異常事態に終止符が打たれたのは事件が発覚してから1時間後だった。
――馬鹿プログラマーがバグと一緒に間違ってコマンドを消してしまいました。ごめんなさい。
伝説が生まれた瞬間だった。
運営の宣言と共に早急に復旧されたが、流石に洒落にならない事態と正式サービス開始は延期され、大目玉をくらった運営は必死で見直しと立て直しを余儀なくされたという。
まあ、実際のところは、開始と同時に凄まじいまでのクラッキングを仕掛けられて、意図的にゲームと外部を遮断した結果なんだが、それは一般には知られることは無い。
同時期に起きた、隣の大陸の国の政府系サーバーがダウン、政府機能が一斉にマヒした事を引き金に、内戦が勃発したという大事件と関連付けようとする陰謀論者もいるけれども、残念な事にそれ正解。米櫃に砂入れられた事に激怒したGMと変態技術者共が相当念入りに報復措置をとったらしい。
尚、事態が事態なだけに隠密裏に介入した日本政府の人間は自重しない奴らに対して相当引いていたらしい。まあ、『コイツら敵に回したらヤバい』と日本政府に思わせたからこそ、運営は実質的に御咎め無しで済んだらしいけれども。
では、一般的に出回る事が無いその裏事情をなぜ俺がそれを知っているかというと、俺も一応運営側の人間だからだ。
それなのに、何故伝聞かというと、俺はそのVR技術を確立したついでに一国を滅ぼした変態技術者のお仲間ではなく、世界観などゲームのシナリオにちょこちょこ携わった側の人間だからだ。親父は技術側の爆心地に近い人間だけれども。
流石に、高校中退の19歳の若造が世界最高峰の電脳技術者たちに混じって仕事するとかねーわ。ゲームはあまりやらなかったし、パソコンにしたってウィンドウSの強制アップデートに四苦八苦している程度の知識しかない。それに、シナリオライターと言ったって、運営があまりにも技術馬鹿ばかりだったので世界観の構成に行き詰っていた所に成り行きで参加しただけで、フリークエストのゲームでの仕事なんて多寡が知れている。メシスタントとしての働きの方が主だった気がするんだ。
まあ、そんなこんなで他の連中が死にもの狂いになっている中、テスターを手伝った程度で比較的のほほんと稼働再開の日を迎えた訳なんだが……その最後にとんでもない爆弾が落とされた。
「システム攻撃の際、大ダメージを受けた魔王システムの復旧調整が間に合わなかったから発案者の君が直接操作をやってくれ」
元々、魔王とは運営側内部での呼称で、正式な立ち位置はPCたちと共に成長していく、いわばライバルNPCの事だった。ロワ・マージュ=魔法王というタイトル名からして、誰もが魔法を使えると設定された世界で『魔王』とはおかしいのだが、俺が彼に関するシナリオやイベントを担当し、PCたちと対立する流れが多かったことから、正式に『魔王』へと昇格したというしょうもない流れがあったのだが、それはまあいい。
そのシステム調整が間に合わなかったという告白はかなりの衝撃だった。それも聞けば、おそらく攻撃側はこの魔王システムを乗っ取ってPCたちに嫌がらせをしようとした節もあるらしく、デフォルトに近い状態まで戻して調整をしなければならないという。下手すれば一年以上の遅れが生じるとの事だ。
俺が一番時間をかけて書き上げたシナリオは……始まる前にブレイクしていた。
しかし、このシステムをことさら気に入っていたGMは導入延期を好とはせず、結果、俺に白羽の矢が立ったのだ。
……中の人が俺だからと余計な突発イベントを挿入した上でなぁ!
そうして、再稼働直前に慌てて専用PCを作った俺は現在ゲームの中でさながら魚市場での冷凍マグロのようにだらんと寝そべっていた。それも、リスポーン地点の噴水前のベンチでだ。
「イベント終了までに死に戻り……5回」
未だかつてここまでやられた魔王が居ただろうか、いや無い(反語)。
魔王の定義が知りたい今日この頃。痛覚はかなり抑えられているものの、流石に寄って集ってボコボコにされ続ければ心だって疲弊してくる。特に一度死に戻りしてからの能力ダウン状態リスタートは運営の殺意がハンパねぇぜ……そこはもうちょっと融通利かせてくれよ。
反面、俺もだいぶプレイヤーを返り討ちにしたけれども、大抵は削りきれずに死に戻りにさせたほどの者は少ない。まあ、それでもこんな場所で、無防備な姿を晒していても遠巻きに眺められる程度のインパクトは残せたようだ。
「あのー……」
「頼む~。せめて死に戻りのペナルティが抜けるまで平穏に過ごさせてくれー……」
「お、お疲れ様です」
意を決して俺に声を掛けてきてくれた3人のPCに率直な言葉を返すと、凄く同情された。おう、見た目年下っぽいな、少年少女共。おどおどした感じの男の子と、堅い感じの優等生っぽい男の子と勝気な目をした女の子。ゲームはじめてですって感じが初々しいぜ……見た目はな。見た目はな!(大事な事なのでry)
どうやら狩りの続きではないらしい。
尚、俺の回答に数人が吹いたのは心に留めておくよ。
「変な事訊きますけど、NPCですか?」
「本当に変な事訊くな……中身いるよ。死に戻りしてんじゃん」
「え?って事はNPCは……」
「死んだら終り。ああ、他意はないとは思うんだが一応言っておくな。このゲームを制御しているAIハンパねぇから、嫌われたら詰むぞ。NPC、NPCじゃないと訊かない方がいい」
「す、すみません……」
魔王様のLesson1
NPC……この世界の住人から有能なスキルを得る事が近道だ。色んな情報をあちこち仕込んであるし、交流は大切だぜ。
「運営の人なんですか?」
「一応な。シナリオ担当ー」
最初に質問してきたおどおどした男の子とは違う、勝気そうな目の女の子が問いかける。
言っちゃってよかったのだろうか?うん、このぐらいならばいいと思います。
「なら少し、このゲームについての質問をさせてもらってもいいですか?」
「内容によるなぁ……」
「このPCを作った時に、対応する魔法属性を選んだんですけど、先ほどどうも上手く使えなくて……貴方にやられてしまったんですけど」
語尾の辺りでジロリと睨まれる。うーん……こんな子いたっけかな?
……ごめんなさい。そんな睨まんといて下さい。
「連れの子も?」
「というより、自分たちは真っ先にやられました」
「あー。もしかして、一番最初に路地塞いでいた子ら?」
「は、はい」
淡々とした感じに優等生っぽい男の子が返事をし、おどおどした感じの子も小さくうなずいた。
あー、これ、恨まれているっていうより、トラウマになったかな。
「ジョブは?選んだ武器は?あと、最初に選んだ属性は?」
「私はジョブは騎士で、選んだ武器は斧。属性は火です」
「え?その初期装備で騎士?」
質問をしてきた女の子は動きやすそうな軽戦士用に用意された皮の装備に身を包んでいる。一応、初期装備は性能が同じでもある程度の用途のコーディネートは出来る。だから、選べた事はおかしいとは思わないのだが……騎士とは所謂、盾役用のジョブで攻撃より防御に比重を置いている。初期装備にだって騎士、重戦士用の重装備もあったんだが……やったら攻撃的な武器のチョイスといい、まさかとは思うが。
「いずれはハルバードに持ち替えて突撃する騎士を目指しています」
「実に俺好み!プレイヤースキルが物を言うようになってくるけど、やっぱ足を止めて殴り合いって一番絵になるよな!」
「でしょ!?ありがとう!」
騎士職の耐久力を恩恵に、最前衛で殴り合いを所望ですか、そうですか。ドストライクのビルド!俺様大歓喜!君とは親友になれそうだ。
「君は?優等生君」
「優等生君?確かに委員とかやってますけど、そういう訳では……えっと、自分は剣士で、選んだ武器はサーベル。属性は水です」
「前衛2人目!けど、タイプ違いだし、戦い方次第じゃ攻撃に厚みがあるからいいな。じゃあ、そこのオドオド君が回復役か?」
「ボクも剣士です。武器はツヴァイヘンダー。属性は土です。真っ先にやられましたけど……」
「………………………………お、おう」
うん。知ってた。彼、剣背負ってるからね。でも、ワンチャンあるかなーとは思ったんだよ。無かったけど。
……まさかの全員前衛とはやってくれるぜ、このパーティー。実はパーティーじゃないのかもしれないけれど、この流れは実に頭の中がパーティー状態だ。
「彼らはリア友で、一緒にやる予定だったんだけど、事前に決めるのを忘れていて被っちゃったのよ。でも、このゲーム、全員が魔法使えるでしょ?だから、なんとかなるかなーって思って」
そう、このゲームの特徴は全員が魔法を使える事だ。得手、不得手はあるものの、全員が魔法を使える世界において、PCだけが使えないなんてことはありえないからだ。
ちなみにこの全員が魔法を使える世界というのは、初期からのコンセプトで、理由づけや世界観を考えたのは他でもない俺だ。
だから、何故彼女たちが現在上手く魔法を遣えないかという理由は、他の誰よりもわかっている。
だが、紛いなりにも運営側の俺が言っていい事なのだろうか……。
「んー……ちょっと待て」
流石に勝手な判断は出来なかったので、GMコールのアイコンを呼び起こし、コールを掛けた。すぐさまオペレーターの女性の声が頭に響いてくる。
「いかがいたしましたか?」
「お疲れ様です。GMコードM-0、怜央です。統括GMかウチの親父に回してもらっていいですか?」
「コードM-0、認証いたしました。少々お待ちください」
「――なんだ?」
少しの間をおいて、聞きなれたウチの親父の低い声が響いてくる。聴く人間からすると、酷く冷たい声に聞こえるが、息子の俺には大分動揺が入っている事がわかった。
「GMは?」
「逃げた」
「……まあいいや。親父、魔導伝導率のマスクデータの件。ちょっと教えてもいいか?前衛職だけど魔法が使えますか、と問合せが来てるんだ」
「なんだ、そんな事か。以前会議で言ったと思うが、数値化するとステータスが凄まじく複雑化した所為で載せていないだけだから、別に構わんぞ」
「そっか、わかった」
「しかし、ステータス化反対派のお前からもそんな意見が出るとは、やはり次のアップデートではステータス上で確認出来る様にすべきか……」
その様子だと同じような問い合わせが幾つか来ているみたいだな。
「ライターとしての立場がから言わせてもらうと、世界観を壊さないよう、存在を明言した上で、数値はマスクで構わないと思うってだけだ。ただ、どうすれば前衛も魔法を使えるか、何故うまく使えないのか、ヒントは出すべきだと思う」
「会議でも言っていたな。ヒントは出してある。だが、ユーザーは随分とせっかちなようだ」
「ヒントがあります。足で探せ――って言っておけ。重ね重ね言うが、マスクの存在はばらしてもいいが、ステータス化は反対だ。ゲームとしては正しいかもしれないが、誰も彼もが数値だけを追うようになると世界観が崩れる」
「わかった。検討しておく――通信終り」
ふぅ……ちょっと仕事の話になってしまったが、これで問題は無い。ゲームである以上、数値化云々は仕方ないにしろ、それを追求するだけになってしまったらわざわざリアルに造る必要も無いので、ステータス化は反対、というのが俺のスタンスだ。
効率厨ども、数値だけで勝てると思うなよ?
「駄目でしたか?」
「いや……いいよ。とりあえず、あと1時間で死に戻りのペナルティが抜けるから、実践がてら教えてやろう」
「本当ですか!?」
「まあ、それまでちょっと雑談……ああ、自己紹介でもしておこうか。俺、レオナルド。レオナルド ダ ピンチ」
「その名前、天才の紙一重って奴かしら……」
「やかましい」
まさにその通りなんだけど。
「私はナツ。そして、サーベルの彼がロー。剣を背負っているのがマーシー。よろしく」
「ローです。よろしく」
「ま、マーシーです。2人とは幼馴染です」
「あいよ、よろしく。あー、フレンド飛ばしておくなー」
「……フレンド登録できるんだ」
できるんです。専用に作ったとはいえ、基本はPCのシステムをそのままコンバートしただけだから。
「ところで、君たち。魔王軍カッコカリに入らないか?」
「考えておきます……」
あ、一応考えてはくれるんや。
現状、俺一人だからまたタコにされたら堪ったもんじゃない。スカウトはこまめに、な。
ストック終わった……。
ちょっと間を置きます。
……その間にブクマ、コメントとかしてもいいのよ?