『あせびの森』
過去作。実は古ーいPCではきちんと完結させてあったが、今思い返すと視点がバラバラでダメだったという。
これは冒頭のシーン。
主である目時博士にしか、くぐり抜けられないカモフラージュした馬酔木の森を若い男がやって来る。
春日大社や東大寺に初詣でに訪れた観光客が迷いこんだのだろうか。それにしては連れもなく、新年の晴着をまとっているわけでもない。
目時博士はつい一昨日に研究所のあるインド州から奈良の自宅へ戻ったばかりで、昨夜は不在だった五年間のニュースレターに目を通し、眠ったのは夜明け近くだった。就寝前にしたたか飲んだ酒がきいているのか、ソファで眠りこけている。
彼は庭の飛石をつたってゆっくりとした歩調でやってくる。そしてふと庭にただいっぽん植えられた椿に目を止めた。
ごく低い警告音を鳴らし、五十鈴は侵入者の眼前に警告ボードをオープンさせた。
「ココハ私有地デス。奈良公園デハアリマセン。春日大社ヘハ今キタ道ヲ戻リ左手ヘオ進ミクダサイ。シカシ、コレ以上ノ侵入ハ故意デアルトミナサレ、アナタハ家宅侵入罪ニ問ワレマス。即刻退去シテクダサイ」
彼は目の前のボードに目もくれずに、コートの内ポケットから身分証明カードを取り出すと、一気にまくしたてた。
「私はアジア版ニューサイエンス&ネイチャー日本支部の記者、筧というものです。事前の問い合わせもなく押し掛けた非礼はお詫びします。目時博士、どうかインタビューをお願いします」
「即刻退去シテク…インタビューならニューデリーでうんざりするほど受けた。それにそんな堅い雑誌が私を相手にするはずなかろう」
突然博士のメッセージが割り込んできた。警告音と筧の声で目を覚ましのだ。
「場所と日を改めるなら受けてやらないこともないが、ここは私的な場所だ。私の休暇を邪魔する権利はお前にはないぞ。さっさと帰れ」
「そんな…まず身分証明書を確認して下さい。五年ぶりの帰国とお聞きして、ぜひとも取材を」
そう言い募ってボードを無視し、どこの家にも装備されているカード用のスロットに彼は手にしていた身分証明カードをくぐらせた。とたんに博士の手元にはカードの情報が有無をいわさず映し出された。
『筧 操 カケイミサオ 二十一歳 男
ニューサイエンス&ネイチャー アジア版東京支部勤務』
実は、訊ねた先の博士と筧(本名は違う)は親子。
しかし筧の母は博士の精子を買って子どもを作ったので博士にとっては未知の「息子」
博士は忘れられない昔の恋人の面影を宿すアンドロイド「鈴」と暮らしている。
さて!!
博士という名の父親+息子+アンドロイド
今でも大好物。
鈴は、『ソラとカナタ』で使いました。