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崩壊序曲~another side story~

作者: 千月華音

天使音階→天使音階~after~→崩壊序曲→崩壊序曲~another~と続いておりますので順番に読むことをおすすめします。



 隣で眠る篝を起こさないように毛布をかけ、起き上がろうとした途端、激しい眩暈に襲われた。

「……っ、く、ぅっ」

 呻く声を口で押さえてなんとか抑える。

 なんとしてでも気絶するわけにはいかない。

 だが全身がおそろしく気怠く、眩暈ばかりか吐き気まで襲ってきた。

(あれだ……。空軍訓練の20G加速器を数倍にしたような……)

 当時は20Gでも数分耐えられるのがやっとだった。

 同じ傭兵の何人かは鼻血を出して目から出血して死んだりした者もいた。

 今は当時より多少上書きしているとはいえ、さすがにキツイ。

 だがこれくらいのことで耐えられなくてどうする。

 篝はまだ満足できていない。

 やっと気を失ってくれたけれど、最後までしがみついて離れようとしなかった。

(この分だと明日の晩も……)

 絶対に求められる。

 それどころか毎晩しなくてはならないかもしれない。

 毎晩この吐き気と眩暈に耐えるのは構わないとしても、夜しかレポートを仕上げることができない。

 時間が足りない。

 手伝いを要請しよう。

 もうなりふり構っていられない。

 資料と写真、データだけを送って、向こうでまとめた部分だけを添削すれば……。

(……いや、ダメだ)

 どうしても実体験者の自分の視点が必要になる。

 詳細なデータだけでは客観的な視点より俯瞰的な視点にどうしてもならざるを得ない。

 これは人類全体が使える技術でなければならないのだ。

 魔物使いの技術に関しては孤児院にいる彼らのほうが詳しい。そちらは任せられるとしても。

 超人の能力については自分しか書ける者がいない。

(せめてあと一人いれば……)

 ルイスの顔を思い浮かべる。

 彼を失ったことは親友としても戦友としても惜しかったが、何よりこれから先の地球には必要な人物だった。

 彼の能力をもっと分析できれば、おそらく狩猟系能力に関してはそのほとんどが解明できただろう。

(まてよ……)

 ルイスから以前聞いたことがある。

 とある諜報機関に捕らえられていたことがあると。

 それは確か……。

「…………」

 少しだけ光明が見えてきた気がして、瑚太朗は吐き気など吹き飛ばして携帯を掴んだ。

 全裸のままだったのを思い出し、シャツ一枚だけを引っ掛けてリビングへと向かう。

 ノートパソコンを起動させた。

 中国経由のサーバーから欧州とロシアのIPアドレスを取得。何箇所かダミーの足跡をつけてハッキング元がわからないようにしてから。

 目当ての英国情報部中枢サーバーへとアクセスした。

「…………」

 頭の中で当時彼が言っていたセリフを一言一句思い出し、手掛かりになりそうな部分を引っ張り出す。

 膨大なホストコンピューターのデータからそれに該当するものを見つけ出すまで、かなり手間はかかったが、ようやくそれらしき資料を見つけ出すことが出来た。

「これだ……」

 やはりあった。

 英国が彼を捕まえた本当の理由はこれだ。

(超人の人間兵器運用……)

 それもかなり以前からの構想らしい。起源は現女王体制化以前。ロイズも一枚噛んでいる。

 そればかりではなくかなりの人体実験も……。

(今はそんなのどうでもいい)

 このデータを告発すればそれだけで英国を揺るがすことができるが、そんなのに興味はない。

 ルイスに関するデータさえあれば。

 瑚太朗はルイスが割り振られたであろうシリアルナンバーを推測し、ようやくルイスであると確信できたデータを残らずダウンロードした。

 逆探知される数秒前に回線を切断する。

 PDFで開いたそのデータは驚くほど多岐に渡り、多角的に捉えられていた。

 そのデータを得るためにルイスに与えられたであろう精神的・肉体的苦痛と、人間の尊厳を残らず奪われたであろう経緯を、心を押し殺して無視をする。

(ルイス……。君の遺産、無駄にはしない)

 このデータさえあれば、人類に眠る未知の覚醒器官を呼び覚ますこともできる。

 望んで手に入れた能力ではない。

 今まで当たり前のように自分に与えられた神の恩恵でもあるように思っていたこの能力は、実は人の未来を切り開くための可能性を秘めていた。

 汎用化は可能だった。

 英国が隠したがっているのもわかる。

 彼らは自分しか大事ではない。犠牲を伴うことを躊躇うことはなくても、自ら犠牲になることは決して望まない。

 未知なる脅威は封印するしかないと考えている。

 だがこれからの地球で、そんな事を考えていてはもう生き残る手段すらなくなる。

 篝が望む『良い記憶』は、どんな犠牲を払っても命を賭けても、強い生への執着が必要なのだ。

「……今、詳細なデータを送った。そちらで分析して俺のほうに送ってくれ。使えるIDとパスを添付してある」

 海の向こうにいる情報分析担当の者に電話をかけると、向こうから心配そうな声がかけられた。

 ちなみに瑚太朗が今話しているのはアラビア語だった。

「俺の心配はしなくていい。二重三重の罠をあちこちに仕掛けて追跡不可能にしている。……うん、ありがとう。なるべく急ぎで頼む。報酬はすでに振り込んである。この回線は危険だからもう使わないでくれ。あとはヤスミンに詳細な指示を送るから。……違うって。自棄になんてならない。これは命より大事な彼の遺産だ。……ああ、あとはよろしく」

 携帯を切ると手で握り潰した。

 散らばった電子部品をかき集めて袋に入れ、中に薬品をかけて念入りに証拠隠滅する。

 いずれこのノートPCも処分しなければならないが、それは直前でも構わない。

(分析に半日……)

 それくらいはかかると言っていた。

 かなり優秀なスタッフだが、それでも半日で成し遂げてくれることに感謝せざるを得ない。

 あとは……。

(汚染系・伐採系能力は把握できているとはいえ……)

 自分自身の書き換え能力。

 こればかりは解明することができない。

 おそらくそのためには能力の限界まで上書きしなければならないが、そのときにはもう……。

「…………」

 瑚太朗は冷蔵庫から冷たいコーヒーを取り出し、それを持って篝のいる寝室へと向かった。

 まだ目が覚める気配はない。

 だがどうしても寝顔を見たかった。

「篝……」

 篝の頬を優しく撫で、髪を梳く。

 満ち足りた顔をしているとはとてもいえないが、頬をわずかに染めた赤みが瑚太朗を安心させた。

(いくらだって抱いてやる)

 篝が人間らしい感情を保ち続けてくれるのなら。

 鍵の本能が、滅びゆく星でも失われないのはなぜだろう。

 なぜ初めから人類への滅びの宿命を背負わせるのか。

 星の生存本能が鍵であるなら、篝がこうして人間に近づこうとしているのも、生存への道しるべなのか。

 だが……。

(篝が人間に帰属することは、……決してない)

 星とヒトは相容れない存在だ。

 篝に近づくにはヒトをやめなければならない。

 同じように篝がヒトに近づくには星を切り捨てなければならない。

 それは星そのものの破滅だ。

 プラスとマイナスの関係なのだ。

(いまの行為が、多分ぎりぎりの境界線なんだ……)

 瑚太朗はコーヒーを口に含むと、そのまま篝に口づけた。

 喉を鳴らして気持ちよさそうに飲む篝を愛しく思いながら、知らず涙が零れていた。

 自分でも何が悲しいのかよくわからなかった。






「よっ! 天王寺」

「今宮……」

 司令部から出た瑚太朗を待ち構えていたかのように声をかけられ、内心嫌な予感がした。

 こいつがこんなふうに気さくに声をかけてきていい思いをしたことなど一度もない。

「昼飯まだだろ? 奢ってやんよ」

「…………」

「そんな露骨に嫌な顔すんなって。もちろん下心があるわけだけど」

 瑚太朗は思わず吹き出した。

 こういう正直なところが憎めない部分でもあるのだ。

「じゃステーキでも」

「おまっ! 俺の懐事情わかってて言ってるな?!」

「わかってたら松坂牛の高級フィレステーキって言うけどな」

「容赦ねえな、おい!」

「わかったよ、クレイジービーフのステーキで手を打ってやる」

「あそこ潰れたぜ」

「マジかよ」

「やっぱり店の名前を変えるべきだったよな。ハングリータイガーでもいいか?」

「OK」

 パンッ、と今宮と手を打って本部を出る。外は綺麗な秋空が広がっていた。

 今宮と街中を歩きながら、自然と視線が繁華街の店へと向けられた。

(けっこうあちこち店が入れ替わってるな)

 この辺は地元に近い。中学時代に利用した店などひとつも残っていなかった。

 それだけ経済が活性化しているということなのだろうが……。

(もう経済なんて、なんの意味もなくなる)

 崩壊する世界から取り残されたような風祭市。

 いずれ滅びが世界を覆い尽くせばここだって例外ではなくなるだろう。

 こんなふうに歩けるのも今のうちだけだった。

「おまえって、そんな真面目な顔してたっけ?」

 今宮が瑚太朗の顔を覗きこんで言ってきた。

 失礼も甚だしいが、もともとこういう奴なので瑚太朗は気にすることもなく答えた。

「俺はいつだって真面目だよ」

「なぁーんか、上から見下してるような顔なんだよ。真面目っつーか、慇懃っつーか」

「おまえもだけどな。前半だけ」

「なんだとぉ?」

「真面目な話、こんなに平和でいいのかねって思ってた」

「平和が一番だろ」

「俺はそうは思わない」

「なんで?」

「生きるってのは過酷なことだからだよ」

 瑚太朗の言葉に今宮はきょとんとしていた。……どうせ理解できまい。

 店に入って食事をしても、今宮はずっと考えこむような顔をしていた。

 あのふざけ半分で生きているような今宮にしては珍しい、と思いながらもさっさと食べ終わる。

 結構美味かった。

「おまえさ……。なんかあったわけ?」

「は?」

「正直、おまえに聞こうと思ってたことあんだけど、それどうでもよくなったわ」

「なんだよ、聞こうと思ってたことって」

 そもそもそれが目的で瑚太朗を食事に誘ったわけだから、この際付き合ってやってもよかった。

 なにを訊かれても今宮相手ならのらりくらりとかわせる。

「じゃ、やっぱ聞くけど。おまえ女と付き合ってるの?」

 瑚太朗は口を開けたまま目を見開いた。

 質問の意図がわからない。

 そもそもそんなこと、今宮にはまったく関係ないことだと思うが。

「付き合ってるけど」

 だから正直に言った。

 ここで誤魔化してもどうせこいつは追及してくる。

 そういう奴だと知っているから。

「マジ……で?」

「だったら、なに?」

「おまえが女と付き合うなんて、西が結婚するよりありえねえよ」

「失礼な奴だな。西九条に対して」

「だって、おまえ、今いくつ?」

「十九だよ。知ってるだろ」

「……ありえるか」

「さっきからなんなの、おまえ?」

「やることやってるわけ?」

「ほんっとになんなの? さすがにおまえに呆れてきた。帰る」

「ま、待て待てっ!」

 今宮が必死に瑚太朗の腕を掴んで引き止めた。

「悪かった。謝る。だけどこれだけ聞かせてくれ。……可愛い娘?」

 瑚太朗はため息をついて頭を抱えた。

 仕方なく席に戻って付き合ってやることにする。

 どうせ彼女いないんだろうし、気の毒だと思ってやることにする。

「言っとくけど、おまえが思ってるような巨乳じゃないからな」

「そうなのか? ……いやいや! そこは重要だろ!」

「重要じゃねえよ。いいか、今宮。女の魅力ってのは外見じゃない。好きになっちまえばそんなの関係ないんだ」

「ブス専か?」

「そうじゃねえよ、バカ! 俺の場合、出会ったときから好きになった。理屈じゃない。いろんな恋愛があると思うけどな。付き合っていくうちに好きになるとか。そんなの通り越してたから、ある意味ツイてたよ」

「……すげえな」

「別にすごくもなんともない。病気みたいなもんだから」

「で、やることはやってると?」

「……話をむしかえすなよ」

「実は、西がな」

「うん?」

「昨日、本部でおまえとすれ違ったとき、香水の移り香のようなものを感じたんだと」

 瑚太朗は息をとめた。

 隠したつもりだったが。

(そういや西九条のやつ……調香師の免許持ってた……)

 以前ガーディアン本部にある個人情報をハッキングしたとき、データとして見たのに忘れていた。

 迂闊だった。

 これからはもっと慎重にせねば。

「で、ちょうどやってるときに呼ばれたんじゃねーかなと」

「……」

「それ、からかってやるつもりだったけど、今の話聞いたら、んなくだらねーこと考えてた自分がバカみたいだわ」

「今宮」

「悪いな、忘れてくれ。うまくやれよ。俺も早く彼女作るわ」

「おまえ正直すぎるよ。そういうの世渡り下手だから、彼女は無理だな」

「おいっ!」

「まあ、それを気に入る物好きな女がいれば話は別だが」

「そ、そうかな?」

 満更でもないような顔で笑う今宮を見て、少しだけ羨ましく思う。

 こいつはわかっていない。

 恋が苦しいだけのものであることを。

 知ってしまったら引き返せないものであることを。

 瑚太朗は今宮のアホ面がいつまでも続けばいいのに、と同情とも羨望ともいえない気持ちを抱いた。






 ちょうど今宮と別れた直後に携帯のアプリが着信の通知を鳴らした。

(このアドレスは……)

 瑚太朗が開発したそのアプリは、孤児院との連絡にしか使わない設定をしている。

 逆探も追跡も不可能で、なおかつ声紋すら電気的信号を加工して変換してあるため、最重要連絡にしか使わなかった。

 ビルの裏口からひとっ跳びして壁伝いに屋上を目指す。

 廃墟ビルの屋上に飛び移り、誰もいないことを確認してから通話ボタンをクリックした。

「ミドウか?」

『コタロウ。計画書を見た。いつでもやれる』

 瑚太朗は片言でも英語が喋れるようになったこの子供に驚嘆したが、それより通話から聞こえる雑音が気になった。

「おまえ今どこに?」

『バチカン。地下水道。ターゲットの真下』

 もうそこまで潜入したのか。

 早まった行為だが、そんなこと今さら言っても仕方ない。

「やるのは側近だけだ。枢機卿には手を出すな。奴は利用できる」

『了解。体内から水蒸気爆発させる』

「おまえ一人か?」

『計画書通りに動いてる。オレはαポイント。テンマはβ』

「……よし。手筈通りに動け。俺に報告はしなくていい」

『コタロウ』

「なんだ?」

『戻ってきて欲しい』

 瑚太朗は唇を噛みしめた。

「今は日本を離れるわけにはいかない。言っただろ?」

『コタロウに会いたい』

「我儘言うな。……なあ、ミドウ。おまえラーメン好きだったよな」

『うん。コタロウがよく作ってくれた』

「今度カップラーメンを空輸して送ってやるよ。今はそれで我慢してくれ」

『……うん』

「いい子だ。じゃ、もう切る。逃走手順はわかってるな?」

『大丈夫』

「協力してくれて感謝している。無茶だけはするなよ」

 通話を切った。

 こんなこと言ってもミドウの性格だ。どうせ無茶なことをするに決まっている。

 猫の手でも借りたいと思っていたが、猫どころか……。

 外人部隊並みの手際の良さだ。

 そういうふうに育ててしまったのは自分だった。

 身を守るための手段として教えこんだことが、こんなことに使わせて。

(……後悔したってはじまらない)

 時間がないのだ。

 使える手駒はなんでも使わないと。

 ビルから立ち去ろうと後ろを振り返ったとき、バサバサッと翼がはためく音が聞こえた。

 聞き覚えのある音に警戒したが、よく見るとそれは小鳥が使役している物見鳥だった。

 瑚太朗の傍に近寄って肩に降りてくる。

 足にある通信筒を見て、何かあったのかと思って開くと、そこには。

「……っ!」

 瑚太朗は階段とは反対方向に駆けながら指を噛んで血を流し、血液を糸状に結晶化させ、それを伝って飛び降りた。

 一瞬で凝固した血のロープだったが、瑚太朗が滑り下りた途端、跡形もなく霧散する。

 そのまま小鳥のいる森の方角まで走った。

(あのバカ……!)

 森には近づくなと言ったばかりなのに、あの子供は言うことなど聞きもしない。

 学校をさぼって森にばかり行っていたせいか、立入禁止区域の穴を見つけて侵入するのは得意のようだった。

 いま森は自治体が鳥獣有害指定区域として立ち入りを禁じている。

 ガイアとガーディアンの抗争が激化しているためだが、小鳥は認識攪乱の術が使える。

 その余裕が小鳥を窮地に追い込んでいた。

(装備を先に……!)

 倉庫代わりに使っているアパートに寄り、AKと閃光弾、対魔物用シリンダー、救急医療キットをザックに詰める。

 サイレンサーを装着しナイフも数丁腰に差した。

 数十秒で用意してから再び森へと全力で駆ける。

 小鳥が指示した侵入口は、書かれていた通り結界が張られていた。

「…………」

 地面に残る子供の足跡。

 これじゃ結界なんて張っても意味がない。

 無理もない。小鳥はまだ子供だ。追跡を撒くことなどできるわけがない。

 瑚太朗は小鳥の足跡を消してから結界に入り、そこからほど遠くない樹木の上にいる小鳥に呼びかけた。

「俺だ。辺りに魔物がいる気配はないから降りて来い」

 小鳥はおそるおそる木の下を覗くと、瑚太朗を見て泣きそうな顔で言った。

「降りられないの。足を怪我して」

「飛び降りろ」

「無理!」

「俺が受け止めるから降りろ!」

 有無を言わさぬ勢いで言うと、小鳥は目を瞑って真下に落ちた。

 足から落下する小鳥を下から掬いあげるようにキャッチする。

 幸いそれほど重くはないので衝撃も少なかった。

 小鳥の足を見る。

 魔物に食われかけたのか、ふくらはぎが少し抉れていた。

 瑚太朗はザックに入れた救急用の麻酔と針を使い、軽く縫合してから消毒、包帯を巻いた。

「とりあえず応急処置だ。あとは病院に連れていくから診てもらえ」

「瑚太朗くん……」

「言っただろ、森には行くなって! なんで一人で勝手に来たんだ!」

 小鳥は怯えたような顔をしたが、やがてポケットから小さな小瓶を出して瑚太朗に渡した。

「これは?」

「篝に飲ませて。パワースポットから出るアウロラの結晶体。これだけしか取れなかったけど」

 小瓶の中は虹色の輝きを放っていた。

 量にすれば少ないかもしれないが、たったこれだけでどれほどのパワーを秘めているか、持つだけで伝わるようだった。

「まさかこれを取りに来たのか?」

「…………」

「危険を冒してまで……!」

「鍵を守るのがあたしの使命なんだもん!」

「おまえの使命なんてどうでもいい!」

「瑚太朗くん……!」

「もう二度と危ない真似はするな! おまえが死んだら寝覚めが悪いんだよっ!」

「……っ」

「……いや、すまん。ここまで言うつもりはなかった」

 小鳥の頭を抱きかかえて胸に押し当てると、小さく押し殺した泣き声が聞こえた。

(なんで俺はいつも……)

 巻き込んでしまってから後悔する。

 ミドウも。小鳥も。

 みな良かれと思ってしてくれたことが、そのまま瑚太朗の罪悪感となって跳ね返っていた。

「篝にこれを飲ませるとどうなる?」

 小鳥の泣き声がやむのを待ってから尋ねると、躊躇うような口調で言った。

「たぶん、少しはもつ……と思う。人間らしさとか」

「本当か?」

「鍵に自我がなくなると危険だから、滅びの直前まで少しずつ飲ませてたんだって。結晶化する技術はそのためのもので」

「どれくらい飲ませればいいんだ?」

「瑚太朗くんは危険だから触っちゃダメ。篝に瓶を開けて渡せば、必要な分だけ飲むはず」

「……助かる」

「まさか、……もう?」

「いや、自我は残ってる。残そうと努力してる。だから有難く貰うよ」

 小鳥を抱き上げると、瑚太朗は飛ぶ勢いで森を駆けた。

 余りの速さに息が苦しいのか、小鳥は瑚太朗の首にしがみついて胸に顔を預けていた。

(眠ってろ)

 目が覚めたら病院にいるはずだ。

 そのまま入院して欲しいくらいだが、こんな怪我では二、三日で退院してしまうだろう。

 だがこれ以上無茶なことはしないはず。

 こんなことはこれで最後にしてくれ、と瑚太朗は小鳥を抱きしめながら強く願った。



まさかのシリーズ化(笑)ここまで続けるつもりはなかったのですが……。

たぶんこれで終わりです。……たぶん。

序盤で瑚太朗が苦しんでるのはアウロラ酔いです。三半規管がしっちゃかめっちゃかになってます。

実は常に絶頂状態なので、気持ちいいのか苦しいのか。苦しくしてやりました。

空白部分の18禁はそのうち気が向いたら書きたいです。(終わる気配がない)

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