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例えばそんな“番外”事情  作者: 弥生真由
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例えばそんな節分事情


ほのぼのなつもりで書き出したらかなりカオスな事になりました。


本編でリリィさんが参加して来たので番外にも出せるようになってきて面白いのですが、彼女はなかなかぶっ飛んだ事をして下さるので扱いに気を付けたい所です。



「あっ、柊。」

「ん?仁牙、何見てんだ?」

ある日の買い出し中、仁牙が植物を色々売ってる店の前で立ち止まった。

何か面白い物でもあったのかと思って近づくと、見てたのはただのチクチクしてて固そうな葉っぱ。

なんでこんな物見てんだ?

「仁牙、この葉っぱ何?」

「あぁ、これは柊と言って、俺達が居た世界で鬼避けに飾られる物なんだ。」

「“鬼”?」

『何だそれ』と言ったら、仁牙が小さな紙にササッと絵を描いてくれた。

そこには、真っ赤な身体に派手な短パン、そして頭にツノが2本生えた魔物が描かれてた。

「仁牙達の世界って魔物居ないんじゃないのか?」

「ははっ、居ないよ?ただ、物語の中に出てくる奴は色々居るんだな、これが。」

『さ、帰ろう。』って仁牙が言うけど、俺はまだちょっと気になることがあった。


「――……この魔物は、ただの葉っぱで倒せるのか?」

「えっ?」

ちょっと質問してみたら、仁牙が困ったように笑って、『実際にやって見た方が早いか』と言った。

そして、近くの店に言って豆(?)と柊って言うチクチクの葉っぱを買う。

とりあえず帰ろうって言うから帰るけど、実際にやってみるって何をやるんだろ?










―――――――――


宿として借りたペンション(であってるか?)に帰ると、翔が厚めの紙に赤いペンで何かを一生懸命描いてた。

近づいてみると……


「――……、何、これ。」


「ん?あぁ、レオはわかんねーよな。これは鬼って言って……」


「いや、そうじゃなくて!」


鬼の説明ならさっき仁牙に聞いたよ!

そうじゃなくて、この赤いヘニャンとした楕円形の丸と黄色と黒のトゲは何だって聞いてんだ!!

そう叫んだら、自分の部屋に居たらしい皆もリビングに来た。


「うるさいな……。何の騒ぎ?」


「お帰りなさい2人共、買い出しお疲れさま。」


「貴方達毎日元気よねー。で、何騒いでたのよ。」



不機嫌そうな朔也が、翔の描いていた不思議な赤い物の絵を取り上げる。

百合とリリィも覗き込んで、そのまま3人が固まった。


「――……何だこの独創的な赤い塊は。」


「えっ!?何って、俺が描いた……」


「……わかったわ、トマトね。」


リリィの予想に『違ーうっ!!!』と翔が叫ぶ。


じゃあ一体なんだろう、他に赤い物、赤い……。


「まっ、まぁまぁ、そんなに拗ねないで。とってもよく描けてるわ、その……、その……」


「何なのかわかんないなら中途半端な慰めは止めてくれ!!」


百合が何とか励まそうとしたら逆に怒られたっぽい。

でもこれ別に百合が悪い訳じゃないと思うんだ、だってこれハッキリ言って“絵”って言えるかどうかすら怪しいし。



なんて考えてたら、翔が朔也の手から紙を引ったくって食事の支度をしてる仁牙の方に走り出した。

それに気付いた仁牙が振り返って、翔が突きつけているその紙を受け取る。


「翔、どうした?」


「皆がさっきから俺が描いたそれをバカにするんだ!」



『仁牙なら何かわかるよな!?なっ!!』なんて翔に詰め寄られて、仁牙が苦笑いしながら数歩下がる。

他人から見たら、翔が仁牙に迫ってるみたいに見えそうだ。

……男同士だけど。


で、仁牙はと言うと、翔から受け取った謎の赤い物が描かれた紙をじっと見ている。

流石の仁牙でもわかんないだろうなぁ、あんな期待した目でみられて、可哀想に……。

と、思ったんだけど。


「――……あぁ、赤鬼かぁ。節分だもんな。」



謎の赤い物を見終えた仁牙が、小さく笑ってそう言った。

俺達は『あれが鬼かよ!!』ってツッコミたくなったけど、描いた本人の翔はわかって貰えたのが嬉しかったらしく仁牙に抱きつこうとして……あ、避けられた。


「何で避けんの!?」


「馬鹿、人の手をよく見ろ。俺、料理中なんだけど?」




呆れた顔でそう言って、仁牙が包丁でまな板をトントンと叩く。

うん、確かに刃物持った相手に抱きついたら危ない。



「そんな事より、なんで急に鬼の絵なんか描いてたんだ?」


そんな2人の様子を皆で見ていたら、朔也が翔が使っていた赤いペンを指先で回しながらそう尋ねた。

で、『よくぞ聞いてくれました!』と言わんばかりの翔が振り返り話し出した内容によると、どうやら“豆まき”とやらをする為らしい。


「……“豆まき”?」


「2月3日の節分に、煎った大豆を撒いて鬼を払い、福を呼び込む……何て言ったらいいかな。まぁ、イベントみたいな物だよ。」



仁牙がそう言って、翔の描いた鬼(笑)を手に取り、『その豆まきの際に、鬼の面をつけて扮する役があったりするんだよな』と笑う。

なるほど、お面を作るために描いてたのか。

でも……


「何で豆?」


「鬼は邪気や悪い気の具現だと言われ、豆には穀物の神が宿ってるから……ってのが定説だな。」


「神様のお力で、悪いものを退けるのよ。“鬼は外、福は内”って掛け声もあるの。」


百合も一緒になって説明してくれたが、結局よくわからない。

なんだってあんな小さな玉の中に神様が居るって話になるんだ?


リリィもわかんないみたいで2人で首を傾げてたら、翔が『まぁ楽しければいいんだって!』って買ってきた物の中から豆を出した。


「実際にやってみりゃいいじゃん!」










―――――――――

「じゃ、お面は一応描いたから……誰が被る?」


仁牙が苦笑い気味にお手製の鬼の面を差し出す。

説明の時に描いてくれた怖い感じのじゃなく、ちょっと丸っこく描かれた可愛い感じの赤鬼だ。


「――……俺はやらないぞ。」


「俺もどうせなら投げる側がいいや。」


朔也と翔がそう言って、2人で仁牙をじっと見つめる。

仁牙は最初からわかってたのか、諦めきった様子で紐で頭にそのお面をくくりつけた。

覗き穴が開いていないので、顔に直接は被らない。


その事に2人が文句を言うのを百合が宥めて、和やかな感じで豆まきをした。

途中、翔が武器の魔法銃に弾の代わりに豆をつめて仁牙に向けて撃ちまくって、超楽しそうにしてた。

それを見た朔也が、『マシンガンでも買っとくんだったな……。』って呟いたのなんか、俺は聞いてない。

――……うん、聞いてないったら聞いてない。


ちなみに、百合は豆が踏まれて砕けて散らかっちゃう前に片付けながら一緒に豆まきしてた。

リリィは興味がなかったらしくて、全部終わったあと部屋から出てきた。












「えっ、これ食うの!?」


豆まきが終わったあと、仁牙と百合が食べる分の豆を軽く煎り直してくれた。



「自分の年の数だけ食べるのよ。」


「へー……。」


皿に盛り直された大豆を、皆でパリパリポリポリ食べる。

うーん、喉が渇くな。


そんなことを考えてたら、翔が数粒の豆を口に放り込みながら朔也と何か話し出してた。


「しかしあれだな、ガキの頃は自分だけ食べられる数少なくて損してる気分だったけど、大人になってくると年の分食う前に飽きるな。」


「まぁ、所詮味付けも何もないただの炒り豆だからな。」


そんな事を話しながら、2人が同時に17粒目を食べ終える。

これまでも何回も感じてたけど、どうしてこの2人はこんなシンクロしてんだろ。


「――……何。」


「なっ、何でもない。俺も食べよーっと!」


何となく向かいに座る2人を眺めてたら、朔也に鋭い目で睨まれた。

その視線から逃げるように、俺も大豆を口に入れた。

素朴だけど、何となく美味しい……気がする。



「――……ん?」


「あら、どうかしたの?」


「いや……、これってさ、ホントの年の数だけ食べなきゃいけないの?」


「え?いや、いけないことはないけど。」


俺の質問に仁牙達4人は不思議そうに首を傾げて、リリィだけは意味がわかったみたいで小さく咳払いをした。


それを聞いた翔が、何かに気づいたように思いっきり吹き出した。


「あっはははは!そうかぁ、レオとリリィは実年齢分なんかとても食えないよなーっ!!!」



ペンション中に翔の笑い声が響いて、皆も理解したのか『ああ……』って顔をする。

いや、実際“年の数”って精霊族や魔物には無理だよ。

何百粒食べりゃいいんだ!!?って話だ。



翔は何がそんなにおかしいのか、未だにゲラゲラと笑い続けている。


「――……ねぇ、この豆って撒いて良いのよね?」


「「「「「――……えっ?」」」」」



と、その笑い声を黙って聞いてたリリィが良い笑顔で豆の入った皿を掴む。

仁牙達は何かに気付いたように口を閉じるけど、空気が読めない翔はまだゲラゲラと笑い続けている。


そんな翔を見てニッコリ笑って、リリィが豆を握りしめた手を振り上げる。


「痛っ!?ちょっ、これそんな力一杯投げる物じゃ……痛い痛い痛い痛い痛い!!!」



「うわっ、なんだ!?」


「きゃっ、ちょっと……!」


「何これキモッ!!?」


リリィが翔に力一杯投げつけた豆からウネウネぐにゃぐにゃしたツタが伸びてきて仁牙以外の全員を拘束する。


「ちょっ、リリィこれ何!!?」


「――……女の年を笑うからよ。」


「答えになってない!」


唯一無事な仁牙が止めさせようと叫んでるけど、リリィはよっぽど怒ってるのかまだツタを操って……ん?


「ちょっ、何で俺脱がされてるの!!?」


「サービスショットよ。そのまま触手の海に呑まれなさい。」


「あーもう、止めろって!百合、大丈夫か!!?」


「えっと、私も何が何やら……。」



脱がされだす翔には目もくれずに、仁牙が百合を助けようと手を伸ばすけど、ツタの動きが早くてなかなか掴めない。



「あっ、仁牙!!」


「ーっ!!?」


と、バタバタしていた隙に仁牙もツタに足を絡めたとられる。

なんかこんな事態前にもあったな……(第一章、マリィ編参照)なんて考えてる場合じゃない!



プンスカして豆ツタを放置したまま出て行こうとするリリィを皆で呼び止める。


「ちょっ、待って!」


「リリィさん、これはちょっと絵的に良くないんじゃないかしら?」


「翔、とりあえずリリィに謝れ!」


「――……てか、仁牙が焼き切ればいいんじゃないのか。」




「――……ふんっ、一晩反省してなさい。」



でも、必死のストップも虚しくリリィがリビングから出ていく。


「えっちょ、マジで行っちゃったの!?」


翔が半裸にされたまま叫ぶが、閉められた扉の向こうにはもうリリィはいない。


「――……こんなの……、こんなの節分じゃねぇぇぇぇぇっ!!!」



その後、俺達が借りたペンションに泊まるとマニアックなサービスが受けられる。

……なんて噂がまことしやかに広まったそうだが、それは俺達のせいじゃない。

そして、更に余談だが、その翌日から仁牙達の中に『リリィに植物や種子、果実を与えるべからず』と言う教訓が出来たとか出来てないとか。



~例えばそんな節分事情~



翌朝、何故だか仁牙だけやたら疲れた顔をしてシャワーを浴びにいったのは何だったんだろう?

って思った。




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