例えばそんな温泉事情(改)
セリフの重複がございました故修正致しました。
申し訳ございませんでした。
温泉ネタなのにBL色強めでございます。
閲覧の際はご注意下さいませ。
「そう言えば、このホテルの屋上に露天風呂あるらしいぞ!」
《グリーン・ガーデン》から首都へ移動する途中に滞在したホテル。
そこのレストランでの夕食中、翔がそんな事を言い出した。
「あー、そう言えば同じようなバスローブ着た人たちが屋上に向かって行くの見たな。」
「そうそう!なぁ、後で行ってみようぜ!!」
「今からか?何時だと思ってるんだよ。」
「朔也の言う通りだよ、明日も早いんだから早く寝た方が……」
「何だよ、いいじゃんちょっとくらい!温泉行きたい行きたい行きたーいっ!!」
夕飯時と言うことで他の客も大勢居ると言うのに、翔が大声で叫びながらバンバンと両手でテーブルを叩く。
「おっ、おい、止めろよこんな所で……!」
「じゃあ温泉行っていいか!?」
とりあえず座らせようとそうなだめたら、逆にらんらんと目を輝かせてそう言い出した。
『いいか』と疑問系で聞きながら、もう気持ちは行く気満々なようだ。
全く、高校生にもなって……。
別料金だと言う話だし、温泉だとついついのんびりしてしまいそうだから巧く言いくるめて止めさせたかったんだが、静かなレストランで大声で騒いだ事で周りから注目を浴びてしまっている。
ここで長く説得を続けるのはあまりに恥ずかしい。
――……ので、
「はぁ……、わかったよ。」
と、答えるしかないのだった。
―――――――――
「おぉっ、広いなーっ!」
翔が腰に巻いたタオルを握りながらそう叫ぶ。
時間がもう遅いので少ないが、湯につかっている人々が一斉にこちらを向く。
幸い、他のお客さん達は中年の大人な人ばかりで、翔の行動にも苦笑いだけで済ませてくれた。
俺はと言うと、公共の風呂が初めてだと言うレオにマナーやら何やらを教えるのに必死だった。
まず、椅子と間違えてひっくり返して重ねた洗面器に座り、バランスを崩してひっくり返り床に落ちていた石鹸の上に乗ってしまう。
そしてその勢いのままクルクルクルとスピンしたまま滑って行き……
「うわぁぁぁぁぁっ!!!」
バシャーンっと浴槽に突っ込んだ。
何ともお約束な展開だ。
「ったく、大丈夫か?」
「うーっ、お湯飲んじった……。」
やれやれとため息をつきつつレオを湯船から抱き上げ所で、その風呂につかっていた翔がハッとした表情をして寄ってきた。
「仁牙、レオは一旦俺に任せて自分の身体洗ってこいよ!」
そう言いながら、翔が浴槽の中の腰かけ用段差に片足を立て、ザバッとお湯を波立たせながら立ち上がる。
「――……翔、頼むから座れ。」
小さい頃散々言った『湯船にはタオルを入れない』と言うマナーを守り、タオルを腰に巻いていない翔。
うん、その状態で湯船から下半身まで出してしまったらどう見えるか考えようぜ。
腰辺りまで上げられた足と言い、もう去年ブレイクしてた芸人さんみたいじゃねーか!!!
「……、安心してくださ……」
「止めろ!!お願いだから止めろ!!!」
翔が自分の体制に気づいたのか、すっと足を下ろそうとし出すのを必死に止める。
安心出来ないから!!
お前今履いてないから!!!
……あれ?
と、そこで自分の両手が翔の片足を掴んでるのを見てはたとあることに気づく。
俺、さっきまで抱き抱えてたレオどうしたっけ……?
「――……。」
サーッと血の気がひくのを感じながら、ゆっっくりと視線を湯船に落とす。
「……仁牙なんか嫌いだ。」
「ごっ、ごめん!!本当にごめん!!!」
そこには、湯船から顔だけを出し額に出来たコブをさすっているレオの姿があった。
あぁ、やっぱり俺が放り投げたんですね。
自覚してますごめんなさい、そんな幻滅した目で見ないで!
冷たいレオの目と、騒いだことで集まった周りの視線から逃げるように、俺は洗い場の方へと逃げるのだった。
―――――――――
「――……あれ?」
翔にレオを任せて身体を流し浴槽に戻ると、何故か2人の姿はそこに無く。
他の人々もあがってしまい広々とした様子の浴槽の、少し深くなった位置でくつろいでいる朔也のみがそこに居た。
「なぁ、翔とレオは?」
朔也に近づきそう聞くと、朔也は無言で顔を窓の方へ向ける。
確か外には、岩壁から湯が滝のように流れる打たせ湯があり、その岩壁の反対側が女湯……。
「――……ま、まさか……。」
「そのまさかかもな。嬉々としてレオ連れて行ったし。」
その言葉に、今入ったばかりの湯船から飛び出し外へ出る。
と、そこには滝のごとき勢いで流れる湯を物ともせず岩壁を登る青年が。
――……って、
「止めんかこの野郎!!!」
壁の向こうには、俺達と同じタイミングで風呂に来た百合が居るはずで。
そのことで頭に血が登った俺は、せっせと登る翔の身体に飛びかかっていた。
「仁牙!!?」
「ったく、お前は……!うわっ!?」
しかし、翔が登っていたそこは打たせ湯。
当然足元には湯が溜まっていて、更に滝上から止めどなく湯が流れてきている訳で。
上だけを見て翔に掴みかかった俺は足を湯に取られて後ろに倒れ込んでしまった。
「わーっ!!」
そして、俺が倒れた事により、捕まえていた翔も壁から離され一緒に倒れてきた。
「痛たたた……!」
「もーっ、何すんだよーっ!」
打ち付けた頭の痛みに顔をしかめつつ目を開けると、そこでようやく自分達がおかしな体制であることに気づく。
「――……なんだろう、この優越感。」
「いいから退け!!!」
翔の方が高い位置から落ちたため、当然翔の方が俺より後に倒れ込んだので。
――……ハッキリ言おう。
俺は今、翔に押し倒されたような体制である。
ってか退け、マジ退いてくれ。
タオル1枚しか身に付けてない状態で密着して倒れ込んで居る。
マズイ、絵面的に非常にマズイ……!
ってか、こんな所朔也に見られたら……!!
「――……。」
「さっ、朔也……!」
そこまで考えた所で、組み敷かれたままの俺の顔を覗き込む奴が現れる。
その顔は、今俺が最も見たくない人の顔だった。
「――……邪魔して悪かった、な!」
「痛……っっっ!!!」
翔を取られたと感じたのだろうか、朔也は俺の身体に覆い被さっていた翔の身体を持ち上げ、体重をかけて俺の腹を踏みつけた。
あまりの強さで踏まれたので、吐き気を覚えて咳き込んでしまう。
「翔、お前は来い。」
「えっ!ちょっ、ヤダなぁ朔也ったら妬いて……」
「喧しい、妬いてる訳ないだろ。……部屋でじっくり話を聞かせて貰うからな。」
「あ、でも仁牙が……」
「はぁ!!?」
「い、いや、何でもないで……。ちょっ、マジごめんって!!!」
そんな俺に侮蔑の眼差しを向けつつ、嫉妬に狂う朔也は翔を連れて風呂を出ていってしまう。
――……なんか、今まで冗談でやってるものだとばかり思ってたが今回の嫉妬は本気っぽかったなぁ……。
「……俺達の部屋、あいつ等の部屋の隣なんだよな。」
どうしよう、何か変な声とか聞こえてきたら……。
「――……俺もあがろう。」
とりあえず、このホテルの壁が厚いことを願おう。
そうしよう。
そんな事を思いながら、俺も力無く部屋へと戻るのだった……。
―――――――――
「あ、あの、百合……?」
「あら、どうかした?」
翔に男湯から放り出され、気づいたら俺は女湯の風呂に沈んでいた。
女湯ももう他の客は全然居なくて百合の貸し切り状態で、溺れかけた俺は彼女の手で湯船から助け出された。
「……いや、あの、怒らない……の?」
「あら、だって自分の意思で来たんじゃないでしょ?」
「あ、あぁ……。」
長めのバスタオルで包まれているとは言え、女性らしい綺麗な身体のラインが刺激的すぎて直視出来ない。
まぁ、変態扱いされなくて良かったけど、ここまで普通に接されるともう完っっ全に子供扱いだよな……。
「さぁ、そろそろ上がりましょう。他の方に見られちゃったら大変だわ。」
百合にそう言われて、俺も女子更衣室の方に行った……んだけど。
「服がない……っ!!!」
当たり前だけど、俺の着替えは“男子”更衣室な訳で。
どうしよう、これじゃ部屋に帰れない!!
「あらあら、困ったわね……。」
手早く服を着て濡れた髪をゆるく結んだ百合も、頬に手を当て悩んでいる。
「……それで、貴方はいつまで隠れてるのかしら?」
「えっ!?」
と、そこで百合が更衣室に入るための道の方に声をかけた。
「気づいてたのか……。」
「ふふ、貴方はオーラが有りすぎるのよ。」
「仁牙……!」
その物陰から出てきたのは、俺の着替えを持った仁牙だった。
疲れた顔をして、頭をカリカリとかいている。
「言っとくが、覗き目的で来た訳じゃないからな。」
「……わかってるわ。そのつもりなら私が服を着終わるまで待つわけ無いもの。」
百合はそんな仁牙に苦笑いしながら、俺の着替えを受け取る。
「じゃ、俺廊下戻るから。こんな所他の人に見られたら……。」
と、振り返った仁牙の動きが止まる。
――……その視線の先には、女湯の更衣室の暖簾から覗く四角い何かがあった。
確か、皆が持ってた《スマホ》とか言う奴だっけ。
3人でボケーッとそれを見ていたら、その四角から光が何回か放たれた。
「しっ……、翔ーっっっっ!!!」
と、その手が暖簾から引っ込むなり、仁牙が怒号を挙げて飛び出してった。
何だかよくわからないけど、仁牙にとってよくない事が起きたらしい。
こっそり様子を見たら、朔也に腕を掴まれた翔が仁牙から逃げ回ってる所で……。
「あっ!」
係りの人に捕まっちゃった。
掃除に来たっぽいおじさんとおばさんに3人共止められて、引きずられていってしまった。
「あれは、怒られちゃうでしょうね。」
「だ、大丈夫かな?」
「ふふっ、まぁあの3人なら大丈夫よ。さぁ服着なさい、風邪引いちゃうわ。」
「う、うん。」
百合は捕まって連れて行かれる仁牙を見ても、クスクスと笑ってるだけだった。
まぁ、仁牙と一番付き合い長いらしいしこれくらいのことなら大丈夫だって判断したのかな。
そんなことを考えながら着替えたら、百合が俺の手を引いてホテルの部屋まで歩いてくれた。
スタッフなんちゃらって書かれた部屋の前を通ったとき、『俺は被害者なのにーっ!!!』なんて言う仁牙の心からの叫びが聞こえた。
~例えばそんな温泉事情~
その後、あのホテルの男湯に入ると危ない方向に走ってしまうと言う噂がまことしやかに広まったそうだけど、俺にはよく意味がわからなかった。




