バレた。
勢いでやった。後悔はしてる。
「見つけた。」
状況の把握できない私に降ってきた声は目の前の青年から発せられた。
後ろには壁、目の前はこの青年、両横はもちろん青年の両腕で逃げ場はない、いわゆる壁ドン状態である。
逃げれない、そしてありえない状況に混乱する。
(どういうこと?なんで、ここにいるの??)
突然の青年の登場に思考が正常に働かない。そう、これはありえない(・・・・・)事態なのだ。
青年はその整った顔に不敵な笑みを浮かべ、私は冷や汗を流す。
ああ、どうしてこうなったのだろうか。
ーーーー
私はいわゆる転生者だ。
日本で生まれ、普通に社会人として働き、彼氏がいないことに焦り始めてはいたけどまぁまぁ充実した生活だったと思う。
だからまさか突然車に跳ねられて死ぬとは思わなかった。ほんとに死は突然にやってくるもんなんだなぁって跳ねられた瞬間に思った。
地面に横たわって目を閉じて、あーこれから三途の川かー、と次に目を開けた時には異世界に転生してた。なにも感慨深いものがなかったなぁ…。
まぁ実際には異世界に転生したって分かったのはしばらくあとなんだけど、その時は目をあけたら外人の夫婦が自分のこと笑顔でのぞき込んでてしかも抱っこさせられてるみたいだったから、死後のイメージと違いすぎて何が起きてるのかさっぱりであわあわしてた。
え?ナニコレ?とひたすら頭がはてなでいっぱいで、そのあと自分が赤ん坊になってるって気づいてようやく、あ、転生ってやつかまじかってなりましたよええ。
生まれたのは別に貴族でもなんでもないむしろ貧乏気味なド田舎の農家の次女として生まれました。両親は超美形でもなく、もちろん私は平々凡々の容姿。これなんてノーマルモードかと思ったこともあったね。
でもね、唯一異世界転生した特典が1つあった。
そう、魔法!魔法が使えるようになっていた。
初めて使ったのは5歳のとき。魔法という存在は知っていたがそれまでは使ったことがなかった。なぜなら魔法というものは限られた人にしか使えないとされていたからだ。うちの村の村長が火を灯す魔法を使ったのを初めて見たときは感動した。
ある日村長の家で初心者用の魔導書のようなものを見つけて、まぁ、一応やってみようかと半笑いで(重要)そこに書いてあったように光を創る魔法をやってみた。
……できたーーーー!!、!?!
それからはまぁ今となっては黒歴史のようなものである。
家の仕事を手伝い、合間に村長の家に忍び込んで魔法関連の本を読んでは試すの繰り返し。あの時はただ魔法が使えることに喜んでたなぁ…。完全に精神が身体にひっぱられて幼児化してたからできたことだと思うし思いたい。
魔法が使えることは周りには隠していた。なぜって?恥ずかしいからにきまってるじゃないか!楽しかったよ?でもね、魔法少女を地でって…。今でもそうだから死にたい。
それに、将来は都市部で働くつもりでいる。幸い、前世の記憶があるし、村長が勉強を教えてくれた。忍び込んでいたのは途中でバレたのだが(魔導書を読んでいたのはバレてない!セーフ!!)、都市部へ出たくて勉強しにこっそり本を読みに来ていたことを伝えると、最低限の教養等必要な知識を教えてくれることになったのだ。おまえは農家の娘だが、自分のなりたいものになれる可能性を持っている。だから努力しなさい、と言ってくれた。
農家の次女なんて嫁ぐしかないと思っていたけど、そうだ、なにも普通の農家の娘と同じように生きなければならないなんてことはない。その時思ったのは、稼いでお金を家に入れたい。いたって平凡な、ちょっと貧乏な家庭だけど、嫁ぐ以外の選択肢ができた私は、働いて少しでも楽をさせたいと考えた。
就職先に求めるは安定。それに限る。
デスクワークのようなものが理想だ。体を動かすより頭を使った仕事の方が向いているし、将来的にも収入は安定すると思う。
できるならば国家公務員のようなものがいい。職は安定、収入も比較的高く休みもある。素敵。
決して、決して魔法使いとして生活するなんて不安定そうで…常に厨二病に悶えなければならない職には、精神年齢ババアの自分には無理だ。この世界では当たり前のことなんだろうけど、誇りある仕事であろうけど、いや、うん。
そこで私は13歳の年、中央の都市へ住み込みで働き口を探した。
それなりの就職先を見つけるにはやはり学校に入らなければならない。国に仕えるなら尚更だ。そのためには学校に入るためにお金を稼ぐ必要があり、家族を説得し上京した。幸い住み込み付きの仕事はすぐ見つかった。前世の知識と村長の指導のおかげである。
ここまでくると、魔法というものはあまり使わなくなっていた。強いて言えば疲労回復とか…あぁでも常に探査魔法はしてた。それはなんか習慣みたいなものだったし危険察知には便利だったから。なんか不運体質の私には主に鳥のフンを避けるとかに地味に使える。
ここまではわりと順調だったと思う。このままいけば5年くらいで働きながら学校に行けるなぐらい。
でも、あるとき仕事の関係でギルドに依頼をしに行った時、ある意味そこがターニングポイントだった。
何回かギルドには来ていたが、それまでは気にしていなかった依頼の成功報酬の書かれた紙がふと目に入った。
(…たっか!!学費諸々払っても有り余る報酬!?)
よく読めば恐ろしい魔物(さすが異世界)の討伐らしく、納得はしたのだが、その額に心惹かれてしまった。
ギルドは儲かるーーー?
はっ!っと我に返った。待て自分、私が求めるのは安定だ。一攫千金などではない、、堅実に働くのが一番じゃなかったか。
そうだ、私は魔法少女(肉体的にはまだ少女)に就職は精神的にできない人間じゃないか。
しかしそこで思った。
…別に小遣い稼ぎとしてバイト感覚でやるのもいいんじゃない?
就職は無理だ。しかし依頼にもよるが魔法を使えば(・・・)そこそこ稼げる単発のバイトになる。
仕事も増えてきたしあまり時間はないが、暇な時期や休みに行えば予想よりもだいぶ早く学費が貯まるんじゃないか、と。
いや、いろいろ言い訳があったが、私の中に矛盾があったのは認める。
魔法使いになりたくない、恥ずかしい、不安だ、流血系とはあまり関わりたくない。
その一方で、魔法を使いたい、という気持ちも少なからずあったのだ。
でもそんな矛盾は気にしないことにして、私はギルドに入り魔法使いとして小遣い稼ぎを始めた。
幻覚魔法で容姿を変え、歳も何個か上に見えるようにしたうえで、サポート兼ヒーラーとしてグループで依頼をするようになった。後方支援なら魔法でサポートするのが主で危険は少ない。
容姿を変える理由?歳は舐められないようにだし、顔は…面倒なことが起きないように。だって公務員になるのにギルドで冒険者してるなんてバレたらお前何になりたいのってなるし日常生活がなんとなく恥ずかしいから。ちょっと美少女仕様なのは気にしない。
しばらくして、ある期待の新人と言われていた3つ上の青年と組むようになる。私は本業の方があったので多くて週1ほどしか依頼を受けなかったが、よくその青年と行うようになっていた。
その青年は期待されているということもあり、なかなか才能があって容姿も整っており、腹立たしいほど有望な奴だった。なぜ私はこいつと組んでいるんだろうと何度思ったか。
それから2年弱、依頼をするときはよく組んだ。働きながらでなくとも学費の心配が全くなくなったころ、ギルドを去ることを伝えた。本当はもっと早くやめるつもりがなんだかんだ楽しんでいたんだと思う。
青年には引き止められた。名残惜しかったけど青年はギルドでもその才能を認められる戦士になった。私がいてはもうお荷物なだけだろう。
わりと強引に別れを告げて逃げた。最後は転移で。納得してくれないだろうとは思ってたから仕方ないよね。
…さて、
長い回想だったけど精神を落ち着けるためだったんだ。うん、落ち着いたよ?
半年前にギルドをやめ、それと同時に貯めたお金で学校に通い始めた私は、さっきまで学校の中庭の隅のベンチで勉強していた。
そんな中、突風がふいた。と、私の探査魔法に引っかかった落下物。
視線を上げれば校舎の窓辺に置かれていただろう鉢植えが風に煽られ落下している。その下には、生徒が。
危ない!!ととっさに魔法で鉢植えを止め、元の場所の今度はちゃんと部屋の中においたまでは良かったのだけど…。
ーーーー
「状況把握できた?」
冒頭に戻りました。ええ、おかげさまで把握出来ましたよ。冷や汗バンバンでてますがね!
ほっとした次の瞬間には目の前の青年、…いや、ギルドで2年弱相棒やってたカイルが壁ドンしてきてました。…やっぱ良くわかんないわ。
とりあえず、なんでこうなったのでしょう。
「あの…、ど、どなたでしょうかね」
そう、冷静になれ、私はギルドでは容姿を幻覚魔法で変えていた。カイルが、わたしだ、と分かるはずがないのだ。
でもなんとなくこれは無意味な質問だとも分かっていた。
目の前の青年はその整った口元をにやりと歪める。
「へぇ、しらばっくれるつもり?…今まで幻覚魔法使ってたのはわかってる、まぁ俺だからわかったようなもんだけど。…にしても、本当はこういう顔なのか。」
うあぁぁ魔法不使用のスッピン見られたすごい恥ずかしい!!いやこの平凡顔には愛着あるけども美人に化けてたゆえに恥ずかしい!
メイク前後で別人になる女の子がスッピン見られたらこんな気持ちだろうか。と、逃避しはじめようとしたが、カイルの目に怒りの色が混ざっているのを見つけて不可能を悟った。
私は降参、と両手をあげて諦めた。
「…なんで私だと分かったの?見た目変えてたから分からなかったはずでしょ。」
「最近ここらに来た時に、うっすらあんたの魔力の気配がしたんだよね。でも、少量で誰かは特定できなかった。そこでしばらく気づかれないようにここらを張ってたんだ。そしてさっきあんたは魔法を使った。俺はたまたまそれを見ていた…それで確信したってわけ。二年弱も組んでたんだ、相棒の魔力なんてすぐわかる」
さっきの体勢のまま、じりじりと顔を近づけてくる。
カイルはわかってたんだ、既に私に目星はつけていたんだろう。最近ふと視線を感じていた。まぁもとから農家の出の貧乏娘がこのそこそこ育ちのいい者が通う学校にいるということで物珍しさから見られることがあった。それらの類かとあまり気にしていなかったが…きっとその視線はカイルだ。そしてたまたまなんて白々しいことを言っていたが、聞いている限りおそらくあの突風もコイツだろう。私なら気づいて、そして魔法を使うだろうと。
本当に腹の黒いやつだ。
…本当に、私を見つけにくるなんて。
彼に対して思うところが無かったわけではない。
しかしカイルはギルドのエースだ。若干性格に難ありだがしかもイケメン。それに比べ私は相棒といってもカイルのおこぼれに預かっているようなものだったしギルドでの容姿は幻覚だ。何より精神年齢ババアだし彼を騙しているようで心痛かった。
だから…カイルに持ち始めた感情を捨て去るために無理矢理別れを告げた。
ーーーー
『ふざけんな、俺は納得なんかしてない』
不意に掴まれた腕を振り払い、無理に作った笑顔で彼に向き直った。
『うん、わかってる。ごめんね。』
『っ、相棒じゃなかったのかよ!』
『相棒だよ。でもちょっと長くいすぎちゃったみたい。勝手でごめん、他に良い相棒を見つけて。』
瞬間、まるで殺気のような怒気が放たれた。ビリビリと肌に感じるほど、こんなに怒っているのを見るのは初めてだった。
『…俺の相棒はあんただけだ。馬鹿にしないでくれ。2年もいればあんたがどんなやつかぐらい知ってる。だから』
ブゥン、と言葉を遮るように転移魔法を展開させる。あとは発動させるだけ。これ以上はダメだ。別れが惜しい。
『ほんとにごめん…いままでありがとう。さよなら』
『っ…行くなっ!!』
発動させる直前、思っても見なかった名残惜しげな声色をだす彼に、今思えば私も動揺したのだろう。
『…もし。もし私を見つけたのなら、その時はなんでも言うこと聞いてあげるよ。』
幻覚魔法を使い、この容姿になることはもうないだろうから言った少し意地悪な言葉。
でももし本当の私を探してくれたら、なんて
私の心からこぼれた言葉だった。
ーーーー
捨てきれずにあの時溢れてしまった私の気持ち。
鋭いカイルはわかったはずだ。その上で、私を探しにきたのだ。私に口約束を果たさせに。
「人を試すようなことしやがって」
だって仕方ないじゃないか、私は貴方を騙していたのだから。
「もう2度と会うことはないなんて言いながら、別れ際自分を探して欲しいみたいな言葉を吐いていくし。」
ぐぅ…やはり気づかれていたようだ。
矛盾してることも、逃げていることもわかってる、わかってはいるんだ。けれど。
「ほんと素直じゃないし、めんどくさい女」
うるさい、悪かったな!!
カイルは大きく溜息をついてから、再び私の瞳を見下ろす。その顔には、先ほどと同じようなニヤニヤとした悪い笑みが浮かんでいたが、それに混じっていた怒りの色はなかった。…変わりに獲物を前にしたような獰猛な生物の色が。
「…で、見つけたら俺の言うこと聞いてくれんだよね?」
そしてスッ、と私の耳元に口を寄せてカイルは呟いた。
固まった私はそれに何かを言おうとしたが、言葉を発することは無かった。
人通りの少ない中庭、その隅にいる私とカイルに気づく者はいない。
これから始まるよ的なところで力尽きた…