約束の果てに
あなたは全てを投げ打ってでも人を愛した事はありますか?
『約束の果てに』
俺は3年近く4つ下の背の高い可愛い笑顔をしたKと付き合っていた。
出逢いはあるコミュニケーションアプリだった。
ただの暇つぶしで初めたアプリで本気の恋に落ちるとは思わなかった。
俺は結婚して子供もいた。
でも、妻とあまりうまくいってなかったんだ。
そんな時に始めたアプリでKに出逢った。
始めは特に何も思わず、ただ楽しくメールのやり取りをしてたんだ。
とても可愛く女の子らしいメールの内容だった。可愛い絵文字なんてつかって。
Kは彼氏と同棲していたんだ。
でも、彼氏は浮気ばっかりだったらしく寂しい思いをしてたみたい。
1年前くらいだったかな、寂しさを紛らわす為に自分も彼氏と同じことをしてしまってたみたい。
俺は自分のパートナーを裏切る事だけはしたくなかったから、今まで浮気をしたことはなかった。
まぁ、Kとは毎日お互いのパートナーの相談をしたり、くだらない話のメールのやりとりをしてた。
Kとメールをしだして3カ月くらいだったかな?嫁との仲にちょっとうんざりしてたから、Kをご飯に誘ってみた。
そしたらKも意外と乗り気で、日にちを決めた。
が、彼氏との予定で2、3回キャンセルされたかな?
行きたくないのかと思い、『行く気ないやろ?笑』って送ったら『行きたい!行きたい!』ってきたから、また日にちを決めた。
で、やっとその日が来た。
俺は仕事が終わって待ち合わせ場所に車で迎えに行った。
顔はメールのやりとりでプリクラでは見てたんだけどあまりわかってなかった。
で、車を降りて辺りを見渡した。
1人の背の高い女の子が立ってた。
俺『Kちゃん?』
K『Sちゃん?(俺のこと)』
俺『あ、初めまして…』
K『初めまして…』
変に緊張してぎこちない挨拶だった。
とりあえず車に乗ろうかって言って車に乗った。
始めは少しぎこちなかったがすぐに慣れて普通におしゃべりしながら、お店に向かった。
二人はご飯を食べながら2、3時間話してKを家の近くまで送った。
普通に新鮮な感じで楽しかった。
それからも2人はちょくちょく会った。俺は別に下心とかあったわけじゃない、普通に楽しかったからだ。
2人はカラオケに行っても歌わず、何時間も楽しく喋ってた。
その帰りの車の中だった。
Kが俺の手を取り、『爪綺麗だね』って言ってきた。
ちょっとドキッてしたよ。
その時ぐらいからかな?2人は会う度に惹かれ合っていったんだ。
そんなある日俺は妻と喧嘩をして、家を出た。
車に乗ってただひたすらドライブしてたら、Kからメールがきた。
そしたら会うことになって、Kとまた車で話してた。
もう日も変わる頃だったからKを送ろうと思ったら、
K『Sちゃんはどうするの?』
俺『俺は今日は車で寝るよ』
K『じゃ、Kも朝まで付き合う』
こんなこと言うもんだからちょっと困ったよ。車で寝かす訳にはいかないし。
どうしよっかとかいいながら考えてたらKが
『ホテル行く?』と普通に聞いてきた。
俺、『え…、いやぁ…それは…』
と戸惑っていたが、結局ホテルに行くことになった。
確かに好きという気持ちは芽生え初めていたけど、ほんとにいいのか…と戸惑った。
俺は浮気なんて一度もしたことない。
でも、やっぱりお風呂入ってベッドに二人で入ると、心臓バクバク。
Kも恥ずかしがってた。
2人で見つめ合ってるうちにキスをした。
Kは顔を真っ赤にさせて、体も火照ってたよ。
恥ずかしがりながらも、そのまま2人は一夜を明かした。
これが、長い長い不倫の始まりだった。
それから2人は会う度に自分の気持ちを抑えられなくなり、抱き合った。
何度も何度も、2人はお互いを求めあったんだ。
いつからか2人の愛は本物に変わっていた。
でも、不倫という関係にKは何度も涙を流した。
『Sちゃんが結婚してなかったら良かったのに、もっと早く出逢いたかった』と。
Kが泣く日はなぜか必ず雨が降る。
妻とは不仲の上、Kに恋をしていたら妻とはうまくいくわけがない。
俺は妻と別居した、子供もいたのに。
Kは彼氏とまだ同棲はしていたが、Kもうまくいってなかった。
気持ちは俺に進んでたから。
妻と別居中はKとドライブに行ったり、ラーメン巡りをしたり、いろんなことしたよ。
ダメだとわかっていても2人の気持ちは一直線に進んだ。
何度もダメだと思い、別れたけれど、どちらかがまたすぐに追いかけてしまうんだ。
もう、誰にも止められなかった。
妻別居して数ヶ月が過ぎた頃だった。
俺は子供に会いに行ったんだ。
少し遊んで、『それじゃあ、パパ帰るね』って言ったら息子が泣きながら、鍵のかかった車のドアを開けようとするんだ。
『パパとお家帰るー!ママとパパと一緒にお家帰るー!』って。
もう、いたたまれなかったよ。
なにやってんだ俺はって。
その日の夜、Kに別れを告げた。
『子供のパパに戻るよ』って。
Kは自分達が間違ってたこと、わかっていたけど怒ったよ。
『ずるいよ!』って。
子供を理由にすると、自分の気持ちが出せない事が辛かったんだろう。
でも、Kはわかってくれた。
いや、わかってたのかな。
その翌日俺は妻と子供を迎えに行った。
それからしばらくは妻とも前向きに向き合った。
なかなかうまくいかなかったけれど。
それは、やっぱりKが心の中にいるんだ。
考えたくなくても考えてしまう。
ある日Kから一言だけメールが届いた。
『寂しい。』
俺は返信しようか迷ったが、結局返事を返した。
それで、メールだけのやり取りの日々がまたはじまった。
Kも同棲中の彼とやり直そうとしてたらしいが、Kも俺と同じだった。
俺は妻とまた元通り、喧嘩ばかりで、挙げ句の果てには全く喋らなくなった。
その頃からまたKと会い出したんだ。
でも、体の関係は持っていなかった。
プラトニックラブってヤツだ。
でも、自分の気持ちとはうらはらにどうにもならない関係にKは何度も泣いたよ。
Kが泣く日はまた雨が降っていた。
それでもやっぱりKといれば落ち着く、ずっと傍に居たくなった。
妻とはもう修復不可能だった。
俺に前向きな気持ちがなくなってしまったんだ。
理由はKだけじゃない、他にも理由はいっぱいだった。
俺は子供は大切だったが、妻とはもうやっていく自信がなかった。価値観が違い過ぎる。
俺は離婚を決めた。
自分の親にも言った、もちろん反対された。
でも、俺は突き通したんだ。
数日後俺は仕事から帰って話を切り出すタイミングをうかがっていた。
すると先に妻が口を開いたんだ。
『私、妊娠した。』
頭が真っ白になったよ、何も答えられなかった。
よりを戻したとき、一度だけ妻を抱いたんだ。
それは一度抱いてしまえば気持ちが妻に戻るかと思ったからだ。
最低なことしてしまった。
俺はベランダでタバコを加えながら2、3時間ぼーっとしてた。
部屋に入ると妻は泣いてたよ。
声をかけることもできず、そのまま布団に入りいつの間にか寝てしまった。
朝起きると妻に
『何で何も言ってくれないの?』って言われた。
俺はまた何も答えられなかった。
どう答えていいのかわからなかったんだ。
となりで息子はキョトンとしながら朝ごはんを食べてた。
妻は『なんで?なんで?答えてよ』って何度も聞いてきた。
俺は『ごめん、離婚しようと思ってた。昨日話そうと思ってた。そしたら妊娠したって言われたから何も言えなかった』
と答えた。
妻は泣いていたよ。あたりまえだ。
その日の夜にKに会って車の中で離婚を考えていた事も妻が妊娠したって聞いたことも全部言ったよ。
Kは『それじゃあ、これでほんとに終りだね。子供ちゃん達のこと大事にしてあげて。』
と言った。
俺は黙ってた。
Kは俺の手を強く握り『ばいばい』と言って車を降りた。
去っていくKの後ろ姿を見ながら俺は泣いた。
それからはずっと複雑な気持ちだった。
妻のお腹の中にいる赤ちゃんのこと、Kのことで頭がいっぱいだった。
普通に考えたら答えなんて1つしかなかった。
それは子供の傍にいること、Kの事は忘れることだ。
でも、忘れることなんてできなかったよ。
大好きだったKが無邪気に笑った顔が頭から離れない、Kの声が聞こえる。
俺は悩み続けた。
それで、親として最低な選択をした。
ダメだってわかってた、自分勝手だってわかってた、最低なことだってわかってた。
生まれてくる赤ちゃんもこの手で抱いてやりたい。少しの間だけでも成長を見てあげたい。
でも、Kと一緒になりたかった。
子供のことはもちろん愛してる、捨てるつもりなんてなかった。離れてても、パパとしてやっていけると思った。
俺は決めた。
1年後にKを迎えに行くことを。
その事をKにも伝えた。
Kは俺の気持ちには喜んでたよ、でもKは何度も『気持ちはほんとに嬉しい。私もSちゃんのこと好きだし、ずっと一緒にいたい。でもダメだよ。私のことは忘れて、子供ちゃんの傍に居てあげて』といった。
自分の気持ちを抑えて子供のことを一番に考えてくれたKを見て、また愛しさが増した。
俺はどうしてもKを離すことができなかった。
何度も何度も話したよ。
Kは『わかった』って言ってくれた。
今思っても最低なパパだよ、俺は。
世間から見たらただのクズだ。
でも、こんなにも人を好きになったのは初めてだ。
今ある大切な存在をも手放して、Kの傍にいたかったんだ。
ただずっと傍でKの笑う顔を見ていたかった。
Kを誰にも渡したくなかった。
ほんとに言い表せないくらい、愛してた。
それから長い約束までの日々が続いた。
Kは顔には出さなかったが、いつもいつもほんとにこれでいいのか悩んでたと思う。
辛い思いを沢山させたと思う。
俺から逃げようとしたことも何度もあったよ。
でも、2人でいる時間はいつも幸せなんだ。
今まで感じたこともないくらい幸せだった。
でも、2人の中にはいつも計り知れない罪悪感も共にあった。
それからKはほとんど別居状態だった6年付き合った彼氏と別れ、一人暮らしをはじめた。
妻が妊娠したことを話してから彼とまたやり直そうとしたらしいが、Kの中にも俺がいて、俺の真っ直ぐKに向かって突き進む気持ちが邪魔をした。
Kも、こんなに人に愛されることは初めてだって言ってた。
Sちゃんみたいな人は今までいなかった。愛されてることが、すごく伝わるってよく言ってくれてた。
別れた彼は初めて恋愛というものをを教えてくれた相手だった。でも浮気も多く、いつも悲しい思いばっかりしてて、恋愛ってこんなもんなだと思ってたらしい。だから、過去にKも彼と同じことをしてた時期もあった。
でも、俺に出逢って私のことこんなにも愛してくれて、こんなにも真っ直ぐな愛もあるんだってことを初めて知ったといってくれた。
俺はそんなKが、すごくかわいそうに思えた。
偽りのない本当の愛でKを一生愛すことを心に誓った。
2人はいつも安定してた訳じゃない。
Kにまた別れを切り出されたことも何度もあった。
お互いいろんなことを考えていた。
ほんとにこれでいいのか、子供のこと、2人のこと、妻のことも。
毎日毎日いろんなことを考えてたよ。
それでも2人でいる時は深く愛し合った。
不倫という関係はとても辛い。
どうして神様は2人を出逢わせたんだ。
妻のお腹が少しずつ大きくなっていく赤ちゃんや息子のことKのことを考えると、とても苦しく辛かった。
いろんな感情が入り混ざり自分でも訳がわからなくなっていた。
Kも同じ気持ちだったろうな。
それから数ヶ月が過ぎて、妻に陣痛がきた。
病院に連れて行き、妻は分娩台の上で陣痛に耐えている。
この時ほんとに言い表せないくらい複雑な心境だった。
いよいよ出産が始まったよ。
妻は俺の手を求めた。
俺は妻の手を握ってあげた。
いつぶりに妻の手を握っただろうか。
妻は妊娠してからずっと何を思っていたんだろう。
夫婦間にはほとんど会話はなかった、ただひたすら子供が元気に育つ事を考えていたんだろうな。
これまでの妻の気持ちを考えるとまた複雑だったよ。
ほんとに俺は最低だ。
陣痛が始まって数時間、元気な女の子が産まれたよ。
とても可愛かった。俺の小さい頃にそっくりだった。
元気な声で泣く娘をみて、心が握りつぶされそうになった。
無事に産まれてきてくれてありがとう。
妻にももちろん感謝したよ。
元気に産んでくれてありがとう。
無事産まれてから、まず親に知らせた。
Kに伝えようかどうか迷った。
でも、言わなきゃダメだと思いメールしたんだ。
『今朝、無事産まれた。』って。
しばらくだってKからメールが返ってきた。
さよならのメールだった。
『子供ちゃんを大切にしてあげて。今までずっと縛りつけててごめんね』って。
何も返せなかった。
俺は昼過ぎに自宅に帰った。
目を閉じて数時間Kのことを考えてた。
いつの間にか寝てしまって起きたら暗くなっていた。
夢にKが出てきて、何も言わずに泣いてた。
とても悲しく夢の中でも胸が苦しかった。
気づけば俺はKの元へ車を走らせていた。
頭の中ではダメだ、ダメだ、って思っていたけど止められなかった。
Kの家について、インターフォンを鳴らしたが出て来なかった。
何度押しても出てこない、俺はKの名前を呼びながらずっと待ってた。
しばらくして
ドアが静かに開いた。
Kは俺の顔を見るなり
『何しに来たの?』と冷たい表情で言った。
強がりに見えた。
俺は黙ってけーを抱きしめた。
Kは俺の腕を振りほどこうとしたけど、離さなかった。
Kは泣いてたよ。
『なんで来るの、ダメだよ。帰って。』
俺は何も言わず強く強く抱きしめた。
しばらくしてKは泣きじゃくりながら、そっと抱きしめ返してきた。
俺のKに対するひとつひとつ行動は、父親としてもKが自分の気持ちを押し殺して決めた決心に対しても最低な事をしていることはわかっていた。
自分勝手でわがままで、気持ちだけがKに向かって真っ直ぐだった。
自分でもわからないくらいKのことを愛してた。
それから日々はすぎ、息子も産まれた娘もすくすく成長していったよ。
Kは俺の子供に罪悪感を持ちながら、ただ俺を信じて待っていた。
辛かったろうな、苦しかったろうな。
待ってる側の辛さがどれほどのものか俺にはわからない。
俺はいつも、今の俺はKに何がしてあげられるか考えていた。
でも時間がある時に逢いに行くことしかできなかった。
逢いに行った日はKが眠るまで、ただただ抱きしめて、眠った頃にそっとキスをして帰った。
また日々はたって約束の時期。
妻と離婚を前提にまた別居した。
妻の親にも挨拶をした。
それから妻と離婚の話をしたが妻は印鑑を押さない。子供の為にもう一度やり直してと何度も言ってきた。
そんな話をしているうちにKとの約束の時期がきた。
俺『ごめん。もう少し離婚まで時間がかかりそう。あと少し待ってくれ。』
Kはしばらく考えて悲しそうな顔で首を横に振った。
俺『お願い、もう少しだけ』
K『…。いつまで?』
俺『わからないけど、あと半年はかかりそうかも。子供がいるからそう簡単にはいかなくて…』
Kはまたしばらく考えた。
Kは黙ったままうなずいた。
俺『ごめん、また待たせてしまうことになって…』
それから少しして、いつの間にかKと同棲することになった。
というか、自営業をしていた俺は収入的にまだ安定しておらず、妻と子供の生活費を渡していたら俺の生活費が足りなかった。
前の職場では責任者だったのでなかなかの所得だったんだが、自営業はそう簡単にはいかなかった。
妻にも充分な生活費を渡せていたわけじゃない。
Kに頼る気は無かったが、Kがうちに来る?というので結局のところ甘えてしまった。
もちろん渡せる分は渡していたが、ほとんど支えられていた。
ほんと、情けない男だよ。
なんでKはこんな情けない男を好きでいてくれたのか不思議に思う。
同棲中もKはここ行きたい、あそこ行きたいと言っていたがほとんど連れていってやれなかった。
デートはいつも貧乏デート。
それでもKはいつも笑顔で楽しそうで幸せそうにしてくれてた。
こんなにも幸せな日々がこれからもずっと続いたらいいな。
Kの笑顔を見るととても癒される。
どんなに辛いことも、苦しいこともこの笑顔がずっと傍にあればきっと乗り越えられると思った。
ただ、俺は月に一度子供に会っていた。
その日は決まってKは少し元気がなくなっていた。
Kは平常心を装っていたが、それはわかっていた。
俺は離れても子供を大事にしている、K自身も子供は大事にしてあげてと思っている。
でも、俺が子供に会いに行くたびにKは現実を思い知らさせるんだ。
S(俺)には子供がいる。
その現実を思い知らされるたびに、Kはきっとすごく苦しんでたんだろうな。
俺がKの傍にいることでKはずっと苦しい思いをするんだろうか。
俺は時々そう考えるようになった。
でもKが俺に甘えてくるとき、ほんとに幸せそうな顔をするんだ。その顔が愛しくて仕方なかった。
妻とは何度も離婚の話をしたがなかなか進まなかった。なんだかんだ言って話を流される。
Kとの約束まであと2ヶ月の事だった、やっと妻が離婚承諾した。
裁判所にいっていろいろ手続きをしてくると言っていた。
でも、いつまでたっても連絡はこなかった。
妻に電話をすると、忙しいからなかなか時間がないと言われた。
早く行ってくれと言ったが、妻はなかなか行動に移さなかった。
また約束の時期がきたよ。
Kには別れをまた告げられた。
『もう1年半待ったよ。もう待てない。』と言われた。
俺は離婚がこんなに難しいものだと思わなかった。片方だけの意思じゃ離婚はできない。
妻は俺1人ならすぐにでも離婚すると言っていた。でもやっぱり子供をみてると離婚なんてできない。
子供の為だけにやり直してと言われていた。
でも俺は、悪い夫婦仲の間で子供を育てることが子供のためだとは思えなかった。
仲の悪い姿を見せるくらいなら、パパとママとしての付き合いだけでいいんじゃないかと思っていたんだ。
これはKがいるからじゃない。ほんとにそう思っていた。
Kとまた話し合ってあと半年待ってくれると言ってくれた。
でも、もうそれ以上は私も結婚のこと考えなきゃダメだからこれが最後。
Sと一緒にいたいけどいつまでもこの関係は続けられないと言った。
ほんとにごめん。心から謝ったよ。
またKを苦しめてしまう、もうこれ以上待たせられなかった。
それからも何度も何度も嫁と話したが嫁は聞き入れず、話が進まない。
Kは黙っていたが、いつになるかわからない約束に限界が来ていたようだった。
Kとはそれからもいろんなとこに行ったよ。
海や観光地、花火は台風で中止になってしまったけど、Kが行きたいと言った場所には連れていってあげれた。
Kは幸せそうだった。もういい大人なのに手繋いで歩いてるだけでほんとに幸せそうだった。
こんな俺なのに。待たせてばっかで辛い思いばっかさせてしまってた俺なのに。
2人の写真は幸せでいっぱいだったよ。
ただ、俺にもさらに壁の高い現実がきたよ。
妻との離婚交渉で生活費の額を提示された。
とても今の収入じゃ無理だった。
少しずつ軌道に乗り始めてきたけど、なかなか厳しい額だった。
今まで渡せる分は全部渡していたけど、職業上どうしても売上にムラがあった。
もっともっと売上をあげなきゃこんな額を安定して渡せない…。
絶望的だったよ。
Kとの約束に間に合う訳がなかった。
でもKのこと離したくなかったから必死で頑張ったよ。今までもそうだったけど、今まで以上に頑張った。
でも、現実は厳しかった。
いくらお金をかけても、そんな急に売上が上がるわけがなかった。
約束まで、あと3ヶ月…。
俺は諦めるつもりはなかった。
もちろん妻とはそんな額すぐに払えるわけがないと話をしていたが、それの一点張りでどうにもならない。
それから少しして、12月にKがずっと行きたがっていたディズニーランドに行く計画を立てた。
最後の約束の月だ。
わずかなお金をもっと節約しながら少しずつ貯めていった。
Kはとても楽しみにしてたよ。すごいウキウキして。
でも、その少しあとからけーの様子がいつもと違ってた。
気のせいかなと思ったけど何か違和感があった。
でも、普段のKをみているといつもと同じように幸せそうで、俺が大好きなあの笑顔を振りまいてくる。
毎日が幸せだったよ。
Kの元に帰ってきて、Kとご飯を食べて、Kと一緒にお風呂入って、Kと一緒に眠る。
ほんとにずっと続けばいいなって思ってた。
俺が思った違和感はずっとあった。
でもディズニーに行く日も近いし、何も言わないでいた。
俺はKとの約束を守るため何度も妻と話した。
12月、いよいよKが楽しみにしていたディズニーランド。ほんとに嬉しそうだったな。
ディズニーランドについてからはKが乗りたいアトラクションに乗った。俺はこういった遊園地があまり好きじゃなかったが、Kと一緒ならほんとに楽しめた。
Kはいっぱい笑って、歩く時は手を握ってくっついてきて歩きにくいぐらいだった。
こんなに嬉しそうにしてくれて、幸せそうにしてくれてほんとに来て良かったと心から思った。
2日目はディズニーシー。
シーでも同じ様にいっぱい楽しんだよ。
時間がなくて全部乗れなかったから今度は2泊3日で行こうねって言いながら帰った。
Kはディズニーから帰ってきて写真を何度も見返していた。よっぽど楽しかったんだろう。
でも、俺がずっと前から思っていた違和感は消えなかった。
実はディズニーにいく前から何度かKに聞いていた。
俺『なんか最近様子おかしいけど、なにしてるの?まさか浮気?』
と冗談交じりで何度か聞いた。
K『え?なにもないよ?疑ってるの?』
とキョトンとした顔で言っていた。
やっぱり気のせいかなって思ってたが、違和感しかなかった。
いつもと携帯を見る行動が違ったんだ。
まさか…、いやKがそんなことするはずがなかった。
俺に甘えてくる時はいつもと同じだし、本当に幸せそうにしてた。
それからも何度かきいた。
『だから何もしてないってば、そんなに信じられないの?』
最終的には『しつこい!』と怒られてしまった。
ディズニーに行ってるときは、あんな幸せそうに笑ってくれて、くっついてきてたから俺はちょっと疑ってごめんなっと、心の中で反省していた。
でもやっぱり違和感は消えなかった。
俺はだんだん不安になってきて、仕事が終わってからKにメールした。
その日Kは実家が近いから仕事終わってそのまま実家に行くと言っていた。
実家にはちょくちょく帰っていたからいつものことだと思っていたが、あの違和感が気になった。
俺『K、俺Kのこ信じていいの?』
K『うん、KはSのことだいすきだよ。』
俺『そっか。俺を傷つけたら絶対許さないからな』
K『それは私もだよ!』
と、返ってきた。
そうだよな、Kは俺のことこんなにも好きなのに浮気なんてするわけがないと思った。
でもそれからも不安は続いた。
俺はKのスマホを見たくなったんだ。
中身をみてなにもない事を確認して安心したかったんだ。
Kも俺もスマホにはロックをかけている。
ある時Kはスマホを触りながらそのまま寝ていた。
スマホを、見るとロックがはずされていた。
俺は悪いと思いつつも中をみた。
すると、同じTという男から何度か俺が家にいない時に電話がかかっていた。
1時間以上はなしてた。
メールも見ようと思ったが、メールにもロックがかかっていた。
次の日仕事中メールでKに聞いた。
俺『最近よくメールしてるけど誰としてるの?男?』
K『あー、えーっとA君とK君はちょっと連絡とってるかなぁ』
俺『他には?』
K『他にはいないよ?』
俺『電話も?』
K『うん』
俺はこの時確信した。
Tの名前が出てこなかった。
つい最近1時間以上話してたのに忘れるわけがない。
家に帰ってから、Kにスマホ見せてと言った。
Kは素直に見せてきた。
着信履歴を、見ると履歴を全部消していた。
『どうして消した?』と聞くと
『変に疑われたら嫌だし、説明するのがめんどくさかったから』と答えた。
『誰と電話してた?』と聞くと、少し考えてから『あー、そう言えばT君から電話あったかなぁ』
俺『なんの話?』
K『T君の彼女の相談とか、私とSの相談とかしてた』
まぁ、ありえなくはない話だったが、明らかにおかしかった。
それから数日俺はこんなことをコソコソやるのは嫌だったがKのスマホとメールのロック番号をKが触っているときに密かに探った。そしてようやくわかった。
Kが寝静まったあとで、見てみた。
ショックだったよ、死にたいと思った。
ずっとTという男と付き合う前の恋人かって感じのメールをしてた。
しかも、俺がKに信じていいの?と聞いた時、その時その男と会ってたんだ。
ディズニーもそうだった。
あんなに嬉しそうにしてたのに、あんなに幸せそうに俺にくっついてきてたのに俺の横で『今度はディズニーランド一緒に行こ!』みたいなやりとりをしてた。
到底信じられるような内容のものじゃなかった。
しかも相手の男はチャラい内容のメールばかりで、Kもそれに合わせていた感じの返信だった。
俺は一通りメールのやりとりを読んで、寝ているKを起こして、泣きながら怒鳴った。
Kは最初は『なんのこと?』なんてとぼけてた。
その顔をみてほんとに怒り狂いそうになったよ。
俺はいつもKだけをみてきた。
子供に会った帰り際なんていつも子供は大泣きしながら俺にしがみついて離れない。その姿はほんとに見るに耐えれない姿だったよ。
でも、俺はKの元に帰ってた。
妻だってそうだ。Kとの約束を守るために早く離婚しようと無駄に傷つけたくなかったが何度も何度も傷つけるような言葉を吐いた。
この日だって妻と離婚の話をしていた。
それなのにKは俺の前で平気な顔して、いつもと同じ笑顔でこんなことをしていた。
それを思うと許せなかった。
人生で、ここまでキレてしまったことはなかった。
Kは何を聞いても黙ったままで何も言わない…。
よけいにムカついたよ。
少し落ち着きを取り戻した頃Kはようやく口を開いた。
納得いかないことの方が多かったが理由はこうだった。
2ヶ月ほど前、俺との将来を考えると不安で不安で仕方なかった。Sが離婚だってできるかどうかわからない。
だから少しだけ冷めた時期があったらしい。
その時にたまたまご飯に誘われて行ってしまったのが始まりだった。
それからは、そのTという男をKは逃げ道にしていた。
俺はメールの内容も全部みた。納得いくわけがなかった。
俺はKが俺に平気な顔で、こんなことをしていた事が、とてもじゃなく信じられなかった。
あの笑顔は?あの幸せそうだった顔は嘘だったのか?
『Kはそれは嘘じゃない!ほんとにSのことは大好きだった。一緒にいてすごく幸せだった。本当に私のこと愛してくれてたことが伝わって幸せだった』
と言った。
だったらなんで…なんで…、あんな顔して平気で嘘ついてたんだ…全く受け入れる事が出来なかった。
唯一の救いはTに抱かれたことはなかったことだ。
俺は泣いた。信じられなくて何度も何度も頭を壁に思いっきりぶつけながら泣いた。
Kも何度も泣きながら謝ってきた。
KはTに対してはなんの気持もなかったという。
彼には悪いけどほんとに気を紛らわせる為に利用してしまったと。
確かに、メールを見たときKの友達とのメールのやりとりもみたらそんな感じのやりとりはあった。
でも、そんなことはどうでもよかった。
ただただあの大好きだったKの笑顔が全部嘘のように思えて信じられなかった。
Kは元彼と付き合ってる時に何度も浮気され、Kも同じことをしていた事もあった。
俺と出逢った始まりも同じだった。
ただ、ひとつ違ったのは俺とKの間には気持ちが芽生えた事だった。
俺は自分が言える立場ではなかったが、あれからずっとKに教えてきた。
まっすぐな、愛はあるって。本当に心からKのことだけを思ってくれる愛があるってことを。
だからもう、過去のような間違った事はしたらダメだ。フラフラしたって何も変わらない。逃げるのだけは絶対やめよって。
Kも絶対にしないって、Sに出逢ってSが真っ直ぐ愛してくれてるからもう大丈夫って言っていたのに結局は変わっていなかったんだ。
ショックだったよ。
Kと本気の恋をしたこの3年間はいったい何だったんだろう。
全てを投げ打ってKに注いできた愛は何だったんだろう。
最後にKはこう言ってたよ。
『私は、私とSの子供だけが欲しかった。でも、Sには子供ちゃんがいる。もし、2人の間に子供ができたとき、私は私たち2人の子供だけを見てって思ってしまう。前の奥さんとの子供とは会わないでって言ってしまいそうで怖い。Sが子供ちゃんを大事に思ってるのは知ってるし、私も大事にしてあげてって思うけど、自分に子供ができたとき耐えられそうになくて自信がない。
Sの事は好きだけど、気持ちだけじゃどうにもならない』って。
それを聞いて逃げたくなる気持ちもわかった。
俺のせいだったよ。
俺はずっとKに計り知れない重たいものをもたせてしまってたんだ。
俺が追いかけて追いかけてずっとKを苦しめていたんだ。
Kをこんな風にしてしまったのは全部俺のせいだった。
ただ、あんな逃げ方だけはして欲しくなかった。
Kが平気な顔で嘘をついて、あんなことをしていたなんて今だに信じられない。
それでも俺のこと本気で好きだったって嘘じゃないって言ってくれた。
それだけはそうであって欲しいって、信じたい。
でも正直その言葉も、あの涙さえも、全て嘘に思えてしまうんだ。
俺が好きになったKはどこにいったの?
そもそもそんなKは始めからいなかったのかな。
ほんとのKの気持ちは今となってはわからない。
いくら考えても。
Kの笑顔が、無邪気に笑う顔が一番大好きだった。
あの笑顔は嘘をつくためのもの?違うよね?
2人が積み重ねてきた愛はきっと本物だった。
この先二度と好きになった相手に傷つけられても、傷つけるような人にはならないで欲しい。
もう俺の中で、俺の知らないKになってしまった。
それでも俺はもっと一緒に居たかった。
ずっとKの傍に居たかった、いろんなとこ行って、いろんなご飯もたべて、Kの声もいっぱい聞いて、ずっと傍で笑っていて欲しかった。
Kともっともっと幸せになりたかった。
なんでもない日々が2人ならほんとに宝物だった。
俺たちが出逢った意味はなんだったのだろう。
Kがこの先、また間違った道を歩まなければ俺たちの出逢いには意味があるんだと思う。
Kと別れた翌日、外は一日中雨だった。
俺は今でもKを愛してる。
K、必ず幸せになって。
そして、約束の果てに俺は孤独になった。
終