迷う
この調子ですとかなり続いてしまいそうです
……………こ……こ……………は…………?
重たい瞼を上げると、そこは真っ白な部屋の中だった。おそらく病院だろう。
「起きました………阿賀さんが起きましたよ」
誰かが叫んでいる。
……あぁ。俺は倒れたのか………。
やっと頭が動き出し、後悔という恐怖が押し寄せてきた。
「くっ…………そぉ…………!!」
こんな……こんなことで…………終わるのか?俺は、俺は………!
「びっくりしましたよ。急に倒れちゃうから」
不意に声をかけられ、その声の主を見た。
中山か………それに後ろには赤羽に笠谷がいた。
「悪いな……こんな時に、お前ら技術部の方はただでさえ忙しいだろうにな」
笠谷と赤羽も悪いな。と付け加えると俺は体を起こした。
「どうしたんですか?」
「ん?あぁ、ちょっと試験に行くんだ」
「あんた………何言ってんの?」
赤羽の声には怒気が混じっていた。知ったことか。俺は壁に手を当て、ゆっくりとすすみだす。俺は………深海へ…………!!
突然のことだった。俺の前になんの前触れもなく、拳骨が飛んできた。それは俺の頬を捉えると鈍い音を出し、俺を地面に叩き落とした。
俺を殴った笠谷は顔から湯気を出しそうな程真っ赤だった。
「ふざけてんじゃねぇぞ!!!てめぇ!どんだけ人が心配したと思ってんだ!その体でどこ行くって?何するって?どうなるって?ズタボロになって終わりだろ!さっさと休め!このバカ!」
赤羽は黙っている。中山は……口を手で覆っていた。
「んなこと………分かって………んだよ……それでも………やらなきゃ……結果がなきゃ次に……進めねぇ……んだよ………」
「そこまでして自分を進ませたいのか!?お前はよ!」
立ち止まれないんだよ………結果から生まれる進むべき道が……ここで……止まった……ら…狂っちまう……だから!
「頼むから……俺の邪魔すんじゃ………ね………ぇ…………!」
「そこまで急いで、見える景色は綺麗なのか?」
笠谷は言葉が出ない俺に言った。
「行くまでの道を楽しめよ………そんな苦しそうなお前………見たくねぇんだよ………………俺達はよ」
親父は苦しんでいたか?
親父は風邪を引いても、職場に行ったか?
親父は……………
一時間後、俺はだるい体を起こし、周りを見た。誰も部屋にはいなかった。外に目をやると子供が笑って遊んでる。その母親らしき人も笑ってる。それに比べて俺はどうだ?………てんでなってないな。
結局、俺は…………前に進むことに焦っていたんだな。………立ち上がることが、出来なくなる気がしてたんだ。俺は。
トイレ行こ。何と無くそう思いフラフラと立ち上がった。
「阿賀さん!どこへ行くんですか?」
病室を出ると、椅子に座った中山に声をかけられた。
「大丈夫。別に試験場に行くつもりはないからさ」
ホッと胸を撫で下ろした。なぜここまで心配するんだ?俺、そこまで危なっかしいか?
「悪いな。風邪で変なこと言ってたと思う」
「そのことなんですが…………」
?………あぁ……倒れた原因が分かったのか。
「笠谷くん!大変だよ!」
二十分探して、病院の喫煙所で見つけた笠谷を多々和野は呼びかけた。
「なんですか?先輩」
煙草の煙が昇り、目の前の景色を黒くする。
「阿賀くん……退院に四ヶ月はかかるって…………」
「そうすか……………良かったです」
さすがにもう我慢できない。自分の友達が倒れたのに殴り飛ばして、どっか行っちゃうし。やっと見つけたと思ったら入院して「良かった」?ありえない!
「どういうつもり?笠谷くん?」
「見て気づかなかったんですか?」
へ?何に?
「あいつ、今、おかしいんですよ。普段なら夢のためならどうなってもいいなんて言わない」
少し間をあけると決心したように言った。
「頑張りすぎなんですよ。だから、少しぐらい休んだっていいじゃないか………なんて、思っちゃったんですよ」
それぞれが自分の心配すべきものを心配してる頃、リュウグウ計画の潜水士が決まった。