失う
ついに……ついに今日、全てが決まるんだ。
俺はギュっと強く、手を握りしめた。
「おはよう。博人」
「おはようございます!阿賀さん」
朝。俺が職場に着いて少しすると、中山と赤羽に声をかけられた。
軽く返事を返すと、赤羽は言った。
「今日、がんばってね!応援してるから!」
「了解です。かの赤羽先輩に頼まれては頑張らないわけにはいかないですよ」
「なんかトゲがあるわね」
そんなことは無い……とも言えないかな。
「あ………あの、阿賀さん!」
中山が急に大声を出したせいで一瞬、ビクッとなる。
「ど……どうしたんだよ?急に」
少し言うか躊躇い、意を決したように言った。
応援の言葉がくると予想してた俺にとって、中山の言葉は意味がわからなかった。
「大丈夫ですか?」
「へ?」
大丈夫?
「あ…………あぁ!受かってみせるよ」
「そう………ですか………………」
?訳が分からない。
まぁいいか。
俺はそろそろ那覇の所に行かなきゃいけないので、この場を離れた。
那覇に合わなければいけない理由は今回の深海探査の選抜を決めることに関して聞きたいことがあるからだ。
那覇は会場にいるはずだ。
「失礼します」
隣に腰をかけると、俺は資料を最終確認した。
これで完璧だと思う。やるしかない。
「あの………さ。阿賀………」
長い沈黙の中、那覇先輩は俺に声をかけた。
「どうしたんですか?」
「今回、俺は深海へ行きたい。だから…………………お前を受からせるために加減とかはしないからな!」
「当たり前ですよ!したら殴りますよ!」
那覇が何かいいかけた時、俺の順番がきた。
「んじゃ、いってきます!」
「頑張れよ!」
俺は那覇の握りこぶしに自分の握りこぶしを当てた。
あれ?何か聞くことがあった気が……?まぁ、忘れることは対したことじゃないな。
そして、ゆっくりと歩いて行った。
これで全てが決まる!自然と胸が高鳴る。
深呼吸をして、落ち着かせる。
よし!いく…………………か?
その時、俺の見てる世界はトリックアートのように歪んだ。
ぐるぐる世界が廻る。世界が壊れる。
………………俺は………一体………?
とにかく立たなきゃ!
が立てない。足に力が入らない。
まさか……まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、俺…………熱…………?
額に手を当てる。熱い!まずい!そんな!なんで………なんで………なんで今日に限って!
「うっ………ぐ………動けぇ……!」
廊下で一人全身に力を込め、立とうとする男。
思い返せば、無理があった。毎日睡眠時間1、2時間は相当きつい。
もう………駄目か……………
んなわけねぇ!ここで立てなきゃ失格だ!
最近………無茶しす………ぎた……か…な……………?……そこ……ま………で無理…………は…………して………ないは…………ず………。
自分の歯ぎしりが耳をつんざく。
くそ………………くそ………くそ………………………く…………そ…………………。
そこで俺の意識は大きな黒い物体に包み込まれた。
え〜……すいません。自分でもなんでこうなったか分かりません……。