元スチャラカOLがゆく(千文字お題小説)
お借りしたお題は「バス」「玉ねぎ」「背広」です。
そして、隠れたお題があります。
律子は元スチャラカなOLであった。
立て続けに怖い思いをしたために心を入れ替え、同じ課の一同が驚愕するほど仕事熱心になった。
だが、決して昭和一桁ではない。
「本当に藤崎君?」
最近は慎重というより疑い深い性格になり、会うたびに相手が本物か確かめるようになった。
「本物だよ。今度からは秘密の合言葉を決めようよ、りったん」
藤崎は律子の疑い深さにいささかうんざりして提案した。
「お、それいいね。どんなのにするか、ランチの時、決めよう」
一度決断すると突っ走ってしまうのが律子の長所でもあり、短所でもある。
(その性格は相変わらずなのね)
同期の香が半目で思った。
(律子先輩、素敵だ。恋しちゃいそうだ)
新人の杉村が憧れの眼差しで思っていた。
そんな事とは知らない二人は新装開店したカフェでランチを楽しんだ。
「合言葉は『火星まで行こうか?』『三年かかるけどいい?』で決まりね」
かなり意味不明だと思うが、これなら誰とも被らないだろうと思い、藤崎は渋々承諾した。
「そう言えばさ、この前、お使いでバスに乗った時、大きな風呂敷包みを背負ったお婆さんがいてさ」
律子はサラダを平らげながら言ったので、藤崎の顔にドレッシング交じりの唾が飛んだ。
「うん……」
彼はそれをナプキンで拭いて応じる。
「お婆さんはさ、次のバス停で降りようとしたんだけど、風呂敷が大き過ぎて降りられなかったの。で、私が手伝って降ろしてあげたら、お礼にって、中からたまねぎをたくさん出して譲ってくれたの」
「ふうん」
藤崎は半分疑いながら相槌を打つ。
「それで、私が目的地の最寄のバス停で降りたら、まさに超ゲリラ豪雨に遭遇してしまったの」
超をつければ若いと思っている律子である。
「何しろ、舗道と車道の境目もわからないくらい増水していて、私はバス停の屋根の下で途方に暮れていたのよ」
「そうなんだ」
もう全く話を信用していない藤崎である。
「そしたらさ、大きな男の人がやって来て、『私の背広のポケットに入ってください』って言ったの。最初はびっくりしたけど、急いでいたので入らせてもらったわ」
律子は得意顔で話を進める。
「それで、男の人が数歩歩いただけで、私は取引先に到着できたの。お礼を言ったら、『僕の母を助けてくれたからですよ』と言って、その大きな男の人はビルを跨いで去って行ったのよ。人助けするといい事があるものね」
悪びれもせずにそんな話をする律子に苦笑いするしかない藤崎であった。
隠れお題は、「盛った話を書く」でした。