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第六章【再会】 2

「おいしかったよ。ありがとう」


「良かった。ええと、灰色の彼、だっけ。君はそう呼んでいたよね」


「ああ」


「彼から聞いているかもしれないけれど、此処では三という数が大事なんだ。もう君は二度、あの菓子商店で菓子を口にしているよね」


「そうだ。三度目の時は彼が止めてくれた」


「御代は君の話?」


「ああ。朽葉に言ったか?」


「いいや、大体はそういう仕組みだからね。それでね、もう二度とあの商店で菓子を食べたり君の話をしたりしないでね。君が戻りたいと望むなら」


 まるで今日の天気でも語っているかのような穏やかな様子で、さらりと朽葉は重要なことを告げる。


「三度、菓子を食べて話をすると戻れなくなるのか?」


「あまり詳しくは言えないけれど、そういうこと。だからこそ灰色の彼は止めたんだよ、君を」


 私は、あの時の彼の様子を思い出す。その剣幕の凄さをありありと脳裏に描くことが出来る程、確かに彼の態度は強く真剣だった。私は改めて彼に感謝した。


「それと、この間のことだけど。僕の書いた本を読んだなら分かるかな」


 その言葉に、灰色の彼が借りて来た朽葉色の装丁をした一冊の書物を思い出す。其処には体験記のようにして金色の生物のことが書かれていた。


「金色の生物のことか?」


「そう。今後も気を付けてね」


「ああ」


 もぐもぐと残り一つの桜餅を食べ、朽葉はお茶を飲んだ。


 しかし、こうしてまじまじと見ると本当に不可思議な生き物だと思う。耳と目の感じからするに猫のようにも見えるのだが、灰色の彼はそれを否定した。確かに普通の猫は人間の言葉は話さないし、座布団のような形もしていないし、宙を飛ぶことも無いだろう。だが、世には猫又という妖怪の話がある。それとは少し違うのかもしれないが、とにかく見た目を喩えるならば「猫のような」という形容が最もしっくりと来るのだが。


「何か用事?」


 見つめ過ぎたのか、気が付くと朽葉が私を見上げて軽く首を傾げるような様子を見せていた。何でもないと返すと、特に意に介した風もなく、朽葉はふわりと受付台から浮き上がった。


「じゃあ、あとはよろしく。滅多にお客さんは来ないけど、分からないことがあったら奥にいるから呼んでね。基本的には、この帳面に、貸し出す本の題と著者と、借りる人の名前を書いて貰えば良いだけだから。返しに来た場合は消してね。その時、本が傷んでないかも見て。料金は一律」


 其処までひと息に言い、奥へと舞う朽葉。とりあえず掃除でもしていようかと、近くにあったハタキを手にして私が立ち上がった、その時。


「そうだ。一つ、頼み事があるんだ。帳面の一番後ろに書き付けてある本を探しておいてくれないかな。何処かにある筈なんだ」


 朽葉は思い出したように付け加え、私の返事を待つようにして滞空している。


「ああ、分かった」


「ありがとう、よろしくね」


 そして、朽葉はくるりと踵を返す。私はその背を見送り、まずは探し物からにするかと帳面の最後のページを捲った。其処には、かなりの達筆でこう書かれていた。


【産道を経て、揺り籠に生まれ落ちる】


 変わった題だ。とにかく私は、その本を探すことにした。

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