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第四章【樹形図】 4

 私は橙色の彼の一連の動作を見ながら、この町にはあのような生き物が多くいるのだろうかという思考を始めていた。灰色の彼はと言えば、手持ち無沙汰そうに一つの棚の前で何かを見るとは無しに眺めている。


 ある程度、薄暗さに慣れた目で良く見渡せば、家の中を囲むようにして幾つもの棚が置かれている。そして、それらにはぎっしりと書物が収められていた。そうだ、此処は貸し本屋だったと私は思い出す。


 それにしても薄暗い。私は書棚に近寄り、背表紙を眺める。だが、視界に映っているそれらには題が記されていなかった。不思議に思い、適当な一冊を手にしようとした所で「触らないで」という控えめながらもはっきりとした音を持つ言葉が響いた。そちらを向くと、先程の橙色の生き物が宙に浮かび、大きな目を確かに私に向けていた。


「その辺りの本は触らないで。持ち出し禁止の貴重な物だから」


「あ、ああ。悪かった」


 私が慌てて手を引っ込めると安心したように橙色の生き物は私に背を向け、灰色の彼に話し掛け始めた。


「この人が?」


「そうだ」


「いつぐらいから此処に?」


「数日前だ」


「完全トーティエント数は?」


「まだ満たしていない」


「今、幾つ?」


「二だ」


「菓子商店からの誘いは?」


「来ている。保留にしてある」


 短い会話を織り成す両者の言っていることのほとんどを理解出来はしなかったが、私のことを話しているということは分かった。


 保留にしてある、いう言葉で一区切りが付いたのか、橙色の生き物は灰色の彼から私へと視線を動かす。またも朽葉色(くちばいろ)の目玉がぎょろりと動き、その後、私を見定めるようにしてじっと動かなくなる。同調するかの如く私もまた動けなくなり、呼吸音すら殺すようにして佇む他なくなる。


 しばらくした後、とりあえず奥に座って、と淡々と言い放ちながら橙色は引っ込んでしまった。その後を灰色が追う。ぽかんとしてしまった私を急かすように、灰色の彼が私を呼ぶ声がする。私は未だ理解の追い付かない頭で足を動かし、座敷へと上がった。


 中では囲炉裏を囲むようにして正面に橙色、その左隣に灰色がきちんと座り、両者共私を見上げていた。いつの間にか灰色の彼の目が開かれている。


 ぱち、と火の弾ける音が響く。橙色の彼の正面位置に私が座ると、早速だけど、と橙色の彼が切り出した。


「君はこれからどうしたい?」


「どう、って言うと」


「たとえば、菓子商店で働きたいとか、他に此処で何かをしたいとか。何でも良いんだ。願望は無い?」


「願望」


 私がなぞるように言葉を繰り返すと、うん、と橙色の彼が頷く。


「菓子商店で働いてみるのも面白そうだなと思ったが……」


 私は、其処でちらりと灰色の彼の方を見る。珍しく開かれている彼の闇色の瞳が私を捉えてはいたが、その表情からは何も窺うことは出来なかった。私は橙色の生き物へと視線を戻す。


「そう思う反面、あまり乗り気になれない自分もいる。彼が、あまり良い顔をしなかったこともあって」


「けれど、あの店で働いてみたいと少しでも思う?」


「ああ、少しは。女主人が言っていたのだが、この町のことが分かって行くかもしれないと勧められた。確かに私は此処のことをまだ良く知らないし、良い機会なのかもしれないとも思う」


「ちょっと早いかな」


「え?」


 不意に話が見えなくなり、私は聞き返した。

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