飲まない夜
掲載日:2026/06/25
夕方から夜に変わった頃。
なんだか家に帰りたくなくて、ふと気になった店に入ってみる。
静かな店内、まだ他に客はいない。
バーテンダーも置物のように気配を消している。
なんとなく、一人カウンターに座る。
そっと、バーテンダーが動き出す。
コースターを置かれる。
バーには珍しく水を置かれる。
早速注文をしようとするが、メニュー表がない。
コースターが目につく。
水をどかして見る。
『お酒を飲まず、お早めの帰宅を』
顔が熱くなった気がした。
すぐに音を立てて席を立つ。
そのまま後ろを振り向かず店を後にする。
ドアを閉める時にやけに大きな音が響く。
ひとつ目の角を曲がったところでスマホが鳴り出した。
妻からだ。
電話を受け、そのまま走り出す。
自宅へ駆け込み、妻を支えながら車に乗せる。
いつもは文句ばかりなのに、眉を寄せて黙っている。
ひとつ深呼吸する。
運転する手には汗が滲んでいた。




