裂け目①
この世界は
「見つけたぞ戦士。さあ、勝負と行こうか」
何度も繰り返す
「またダメだった」
一振りの槍を携えた男が諦めの表情で天を仰ぐ。
「何度だってやってやる」
永劫の輪廻を繰り返す
そしてここにもまた一人
「あ、詰んだくさいなこれ。リセットリセット」
この輪廻に囚われる囚人がいた。
⭐︎★⭐︎
日本の早朝、朝5時ちょうど。神秘的なハープの音色によってどんな内容か思い出すことのできない曖昧な夢が引き裂かれ、重い瞼を持ち上げる。
「んん〜。うるさい」
どんなに神秘的でも、どんなに幻想的でも、どんなに美しい音色でも、安らぎと休息の時間を邪魔されたら煩わしく感じる。
毎日の若く感じている苛立ちを振り払い、俺は布団から起き上がった。スマホからなるアラームの音を止め、長時間の睡眠により不快感を覚える口内をゆすぎ、ミントの香りが漂う歯磨き粉できれいに磨いた。
口内がさっぱりし、早朝特有の不快感もどこかへ消えた頃、煩わしく喚いていたスマホがメッセージの着信を知らせる音を奏た。
新着メッセージ
【帝宮】
起きてるメンバー10分後にロビー集合
朝のウォーミングアップやるぞ
そのメッセージに既読をつけ了解と返信を送り、机の上に置いてあるヘッドギアと手に取った。
ヘッドギアという商品名だが、実際のところはスパイ映画やロボットアニメに出てきそうな目を覆う機械である。
コントローラーを持ち、ヘッドギアの右についている電源ボタンを押し起動する。
先刻のメッセージに書いてあったロビーというのは、ゲームの施設のロビーのことである
「お、きたかエル。お前が一番乗りだ」
ロビーに入るなり話しかけてくるのはギルドの団長、帝宮というプレイヤーである。
「カイチョー。こんな朝早くに来るのなんて俺とカイチョーとほむっさんくらいですよ」
カイチョーという呼び方は、同じ学校に通う帝宮が生徒会長だからである。
二人で他に誰か来ないか待っていると、案の定ほむっさんがログインしてきた。
「ん?お前たち二人か?」
赤いかみに獅子を思わせる巨大な体躯のアバターとは裏腹に、声色は穏やかで優しそうな雰囲気である。
「ホムラ。もう時間だし今日のウォームアップは3人でやるか。どのマップ行く?」
ちなみに、俺たちがやっているゲームは異世界から攻められたり、逆に攻めたりして敵を殲滅するゲームだ。
武器の素材や回復アイテムなどはステージクリアや敵からドロップする素材で作成しないといけない。なかなか周回要素の強いゲームだ。
「今日は第3のF7ステージとかどう?あそここの時間でも結構プレイヤーいるし、対戦もしやすいし」
「おう。エルとリーダー。学校の時間は大丈夫なのか?」
「俺は今日サボる。エルはどうする?」
「仮にも生徒の代表生徒会長が堂々とサボり宣言するなよ。まぁ俺は今日放課後黒百合のドーナツ食べ放題に付き合う予定があるし、学校行くからあと1時間半くらいで一旦落ちるつもり」
なんて他愛もない会話をしながら移動し、第3ステージF地区のエリア7に到着した。
「よし早速!ってあれ?これなんだ?」
カイチョーが言う“これ”は恐らく俺の画面にも映ってる
【あなたは攻略者に選ばれました。現実に帰り、資格と力を獲得した後、ゲームに参加してください】
「ねえほむっさって、サバ落ちたなこれ。世界が止まってる。一旦ヘッドギア外すか」
そう独り言のように呟きながらログアウトしヘッドギアを外しても、視界に広がるステータスウィンドやアイコン、メッセージなどは消えなかった。
いや、消えはしたが別のものに置き換わってる。つまりこれは現実で、現実の世界にステータスとかのゲームっぽい概念が生まれたってことだ。
ラノベやアニメを見たことあるやつなら一度は想像するこの、現実世界がゲームになって、最強の力を手に入れた俺!的な展開が実際に起こるとは………てかさっきのメッセージにあった“資格と力”って……あ、これか。
俺は部屋の中を確認して、一瞬で確信を持った。
だって、内側がキラキラに光ってるワープゲートみたいなのが部屋の中にあるんだもん。ヘブ◯ズゲートかよ。ブロッカー2体出せねえよ。
謎のリング?みたいなのを視界に納めた瞬間、またもメッセージウィンドが現れた。
【⭐︎⭐︎〜アーセナル〜】
【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎〜クレアシオン〜】
ー天輪をくぐることで試練が始まりますー
なるほど。てかこの星の数って絶対強さの指標だよね。⭐︎⭐︎の方絶対低いじゃんか!まあ待てよ。最近のラノベの傾向的に、弱いスキルほど後半強くなるもんだ。今は我慢だな。
突然現れた謎のメッセージにリング、ゲームみたいな視界。全部意味がわからなくて、世界で今、何が起きているのかもわからない。なのになんでだろう。割とワクワクしてる。
そう思いながら、俺はリングをくぐった。
「リング空中に浮かすなよな通りずらい。もっとこう、門見たいのだったらくぐりやすいのに!」
⭐︎★⭐︎
この世界は不平等で、不平等が平等に与えられている。
私が初めてそう感じたのは7歳の頃だ。幼馴染の父親が亡くなってしまい、その家族の笑顔が少なくなった時、私の家族は笑顔の数が変わることはなく、暮らしの質も変わらない、むしろ良くなる一方の我が家。けど幼馴染の家は違い、食べる物や着るものの質がワンランク下がったり、お母さんが家にいることが少なくなった。
隣同士の家なのに、毎日笑いが溢れる我が家。
寒くて、静かで、幼馴染の鳴き声ばっかり聞こえてくる幼馴染の家。
これが、7歳の頃に感じた平等な不平等。
次に感じたのは15歳、一昨年だ。
幼馴染の母親が過労と病気で亡くなった時だ。この時私は、初めて涙すら出ない絶望に落ちた人の顔を見た。
幼馴染の母は、自分が死んでしまうとわかっていたんだろう。亡くなる3ヶ月ほど前に生命保険に加入していたらしく、多額の保献金が降りたらしい。
こういう話でよくある、家族の保険金や遺産を根こそぎ奪っていく親戚などは、そもそもいなかったらしい。
幼馴染は、その多額の保険金と両親が残したお金を使い暮らし、高校生になった今はバイトや趣味で稼ぎながら生きている。
そして今、私は3度目の平等な不平等を感じている。
今日の朝5時50分、全世界の人間に表示されたメッセージ
【ワールドインベイジョンへようこそ!あなたはゲームに参加しました!選ばれた攻略者が裂け目を攻略し、世界を守るゲームです!あなたはそんなゲームのエキストラ!ですがご安心を!攻略者は不定期で不確定の人数が選出されます!今回は残念。あなたは最初の攻略者には選ばれませんでした。本日はサービス開始の記念すべき日です!皆さんには特別ログインボーナスとして、ステータスアップに使えるコインと、ランダムなアイテムを一つプレゼント!“ステータス“って名前のウィンドからアイテムの確認と使用はできるよ!それでは皆様の攻略を応援します!】
ーワールドインベイジョン運営ー
このメッセージを読み終え、ウィンドを閉じた途端、家の外に大きな裂け目が現れた。
私の恐怖は好奇心に負け、家族の心配を振り切り外へ出た。
裂け目の前までいくと、残り時間が表示された。
⭐︎
残り時間ー00:00:00:05ー
末端の数字は、私が感じる1秒につき、一ずつ少なくなって行き、ゼロになった途端大きく開き、中から形容し難い巨大な怪物が現れ、私の体を最も容易く吹き飛ばした。
「かひゅ、へ、ごほ………血、あぁ」
ここで死ぬんだ。
私が感じた平等な不平等。それは、私ばかり幸せで、彼ばかり不幸せ。けど今は、私が不幸せ。だんだんと塞がっていく視界と、聞こえなくなっていく家族の悲鳴。
そんな私の視界には、めいいっぱいの怪物が映っていた。
ああ。最後に見た光景がこれか。せめて最後は、あいつに看取って欲しかったなぁ。
死を覚悟し、動かぬ口でそう呟こうと脳を働かせた瞬間、視界に広がっていた怪物は消え去り、彼…幼馴染…浅羽詩音が映っていた。




