豚の生姜焼き
「ここが…教会ですか」
石で作られた教会は結構大きく、それ以上に美しかった。
2つの小さめの太った塔が1つの大きな塔を挟んだような形をしていて、それぞれに色付きのステンドグラスが付いている。教会の壁、アーチ型の屋根には一切継ぎ目がなく、この街を囲う壁のように一枚岩でできているように見える。
高さは修学旅行で見に行った五重塔と同じくらいだ。
「話には聞いてたけど…すごいね」
マヤさんは教会を見上げながらそう言った。
「この街ってあんまり立地良くないんですよね。なんでこんなすごい教会があるんですか?」
「聞いた話だと…この街を作ったすごい土魔法の使い手が、スローズ様の敬虔な信徒だったらしいんだ。この教会もこの街を覆う壁も広場にある女神像も、全部彼一人で作ったらしいよ」
何その人…チートだな。
「それじゃあ、中入りましょうか」
俺たちは、多くの人が出入りしている大きな門を通った。
「中も…綺麗ですね」
色付きでモザイク柄のステンドグラスを太陽?光が通り抜け、俺たちを照らしている。
中央には15mほどに見える女神像があり、その前には箱が置いてあった。
「ったく、漸く入りおったか…」
「すいません…って誰ですか?」
いきなりどこかから大きな女性の声が聞こえてきた。
俺は辺りを見回したが、誰もいない。そして俺だけでなく隣にいたマヤさんも辺りを見回していた
「コバヤシ君…今の聞こえたんだよね?」
マヤさんは俺に小声でそう聞いてきた。
「はい、ただ俺たち以外には聞こえてないっぽいですね…」
俺たちの周りでは、変わらず多くの人が行き来していた。辺りをキョロキョロしている人など誰も居ない。
「えっ…ああ、もう聞こえていたのか…、申し訳ない。まずは自己紹介からさせても」
「コバヤシ君、まただ。………教会で謎の声…神様!?」
「………そこの少女……レイヘムというのか、暫し静かにしていてくれ。それに…もういい。自己紹介の手間が省けた、私はスローズという」
「スローズって…!」
「ああ、君たちが先ほど話していた「スローズ」だ。そしてこの世界で現在一番地位の高い神でもある」
「……………」
聞きたいことや言いたいことが多すぎて、どれから聞けばいいか分からなかった。
「ここで君たちに話しかけたのには理由がある。敬斗君が私に聞きたいであろう事も伝えるから、一旦この教会の端にでも寄って、私の話を聞いて欲しい」
「………はい、分かりました」
「まずは…君がこの世界に来た顛末についてだ。これはもちろん知りたいだろう?」
「…はい」
「これに関しては、君のいた世界を作った、私の先輩の…事故というか、確認不足というか…もういい、はっきり言うと不手際が原因だ」
「…………?」
「すまない、もう少し丁寧に言う。君のいた世界とこの世界は、本来行き来できないようになっているんだ。たまに交換をするくらいだな」
「そして君はその交換の際、間違ってこの世界に送られてしまった」
「さらに細かく言うと、先輩が交換会を部下に任せきって、送る人員の確認をしていなかった事が原因だよ」
「そう…なんですか」
「あとは、君は元の世界に……帰るつもりはなさそうだな」
元の世界……俺、正直失う物が結構少ないんだよな。それに、大分チートに近い力を手に入れたんだし、この世界をもっと楽しみたい。
俺が元の世界に帰ったとしてやりたいことは…親とか友達に連絡したいくらいだ。
「いえ、この世界で生活していきたいです。ただやり残したことはあります」
「そうか…良かった。それで「やり残したこと」というのは?」
「親と友達に連絡をしたいです。いきなりベットごと失踪しただなんて……すごく心配だと思うので」
「心配…か。それについてなんだが、君がこの世界に送られたあと先輩は対処として、「この世界に送られる前の君」とベットを君の部屋に生み出した。「もう一人の君」は普段通りに生活し、バイトの給料も既に受け取っている。もちろん君が神隠しに遭ったなんて、誰も気付いていない」
それって………、親も友達も心配はしてないってことだよな。
……それなら親に連絡送ってもらっても心配させるだけだな。
けっこう寂しいけど、それなら連絡しないでおこう。
「それでも連絡したいというのなら…、君が連絡したい相手に「夢」を見せることもできるが、それでいいか?」
「大丈夫です。あと、いくつか聞きたいことがあるのですが…質問してもよろしいですか?」
「勿論だ、私に答えられることなら何でも答えよう」
「それじゃあ、まずなんであんな草原の真ん中に送ったんですか?」
普通の異世界転移だったら、先に説明してくれるよな。
「それも…先輩の不手際だ。申し訳ないが…私にはどうしようもなかったんだ。送られたあとに気付いたものだし…」
「でも、何とかして連絡したりは出来るんじゃ…」
今みたいに話したりもできただろ。
「いや、声を送るのは結構大変でな…。それにら私が送れるのは教会の中だけなのだよ。ただ、所謂チートスキルも授けてやったし、君のことはずっと見守っていたし、それに君がダンジョンで危険な目に遭った時、「悪食」で手に入れるスキルをちょっと変更して救ったりもしたぞ」
「もしかして…毒耐性(強)!?」
俺がヤバかったのって、多分あれだよな。
「……………………(コバヤシ君。神様が味方してくれて…私より強いスキル手に入れて…羨ましい)」
「ああ。まさか君があんなことをする酔狂な人物だとは思っていなくてな…、私もちょっと焦った。まあ、毒消しポーションがあったからどちらにしろ無事ではあっただろうが…」
「……………………(そうだよ、ちょっと頭が変なのかなって思ってたよ!)」
「いえ、助けてくれてありがとうございます」
「そう思ってくれるなら何よりだ。それで、まだ聞きたいことはあるのだろう?」
「……………………(もしあの時コバヤシ君のことを本気で食べようとしてたら、止めるために僕にも毒耐性(強)付けてくれたんじゃ…)」
「はい。貴方は俺が「交換会」に巻き込まれたと仰っていましたが、それは俺以外もこの世界に送られてるということですか?」
「…良く分かったな。ああ、君以外にも一人、もともと交換会に同意していた少女と中年男性もこの世界に送られている。君とは別の国に送られたがな」
そうなんですか…まあこれはただ気になっただけだし、掘り下げて聞く気もない。
それより気になるのが…
「この世界に、米という穀物はありますか?」
「…あるにはあるが、お前の求める「米」とはかなり異なると思うぞ。それに、こんな貴重な機会に…する質問がそれでいいのか?」
そうか…俺の望む「米」じゃないってことは…タイ米とかなのかな。
「それなら、僕も質問があります!」
「……何だ?…レイヘム、君は彼の秘密を知っているから特別に私の声を聞かせているだけで、君の質問に答えると言った覚えはないぞ」
「まあそう言わずに、俺もマヤさんがどのようなことを質問するか気になるので…お願いします」
「君がそう言うなら仕方ない。質問は何だ?」
「この世界にいる龍の居場所を教えてください!」
「………ふむ、随分と不純な目的なようだが、答えよう。今現在君たちから最も近い位置にいる龍は…………港町ナヘドとは逆方向の山岳地帯にいる。ちなみに204歳、若い雄の火龍のようだ。全長は…14m32cm、この年にしてはまあまあ大きい個体だな」
そんな細いところまでわかるのか…
あと、マヤさんの反応からして、この世界も長さの単位がcm、mっぽいな。
言語も日本語だし、やけに作物も地球にあるやつに似てるし、キュウリの名前がカッパだし、そもそも世界が違うのに、「人間」が地球にいた「人間」と全く同じだし…
「神様…地球から色々とパクってますね…」
「……それの何が悪い、私の母は先輩から許可は得たらしいからな。あと…神によってはその発言を不遜な態度と受け取るかもしれないぞ?」
「すいません」
怒られちゃったよ………。
「……………………(逆方向かぁ…、依頼サボるわけにもいかないし、今回ばかりは仕方ない…)」
「それで、質問は以上でいいか?」
「あっ、単純に気になることがあるのですが…、この教会とかこの街の壁を作った土魔法の使い手って…どんな人だったんですか?」
「ああっ、それが気になったのか」
「彼はな……君の故郷出身の…私の熱烈なファンだ。異世界転移の際一度顔を会わせただけなのに…何故か私に恐ろしく執着し、私の気を引こうとしてな…」
えっ…日本人だったんだ。というか執着って…
「挙句の果てに今では邪神になって、私にダル絡みをしてくる存在になっているよ………」
神の気を引きたいから邪神にまでなるって…何そいつ、怖っ。
あと、少しずつ言葉遣いが日本人っぽくなっていってますね。
「まあ、彼奴は定期的に構っておけば大人しいからな。この世界の脅威になるほどのことをしたら、私に本気で拒絶されるとわかっているのか…基本面倒なだけで、変なことはしてこないぞ」
なるほど、邪神と言っても…完全に対立してる存在じゃ無いんだな。
「そうですか。取り敢えず、知りたいことは今ので全部です」
「そうか。……それじゃあ、君も自分の人生に干渉はされたく無いだろうし、普段の生活を見られるのも……気分は良くないだろうから、付きっきりで見守るのはやめておくぞ」
「えっ、俺は…これからも見守っていてほしいんですけど…」
「君は……、自分が湯浴みをする姿を私に見せたいのか?」
湯浴み…入浴…えっ……
「もしかして、今までの様子…見てましたか?」
「ああ、君がレイヘムを散々待たせた様子もずっと見ておった」
「………」
「さすがの私もあれには引いた。もう16歳にもなるというのに、14歳の少女に迷惑をかけるなんて…」
「……もう見守らないで大丈夫です。それとこれまで見守ってくれてありがとうございます。マヤさん、行きますよ!」
「えっ、どこに行くの…出口に!?止まれっ!」
マヤさんは安定の怪力で俺を引き止めた。
「何やってるの!?まだ寄付してないでしょ!」
「……すいません…、この恥ずかしさに耐えられなくて…」
「コバヤシ君、もう私は気にしてないから、大丈夫だよ!」
「嘘だな、レイヘムはまだ根に持っているようだぞ」
「ちょっと異世界転生してきます…」
「コバヤシ君、早まらないで!確かにまだモヤモヤしてるけど……、そこまでじゃないから!」
マヤさんは俺を必死に宥めた。
14歳に宥められる…俺って…、いや…もうどうでもいい。
「決めました…マヤさん、俺もう恥も外聞も捨てます」
「それで良いのかは分からないけど…それでいいよ」
「ふふっ…ああ、そろそろ時間のようだ。コバヤシ、レイヘム、達者でな」
「あれっ…スローズ様?スローズ様!?………いなくなったみたいだな」
「そうだね…、でもまさか…神に話をしたなんて…、信じられないよ。まあ…ここに突っ立ってても仕方がないし、寄付しに行こうか」
随分気持ちの切り替えが早いですね。
「分かりました…それじゃあ、寄付ってどうやるんですか?」
「どうって…あの箱の中に入れるだけだよ」
マヤさんは女神像の前の箱を指差した。
あれって…賽銭箱だったんだ。
「ちなみにいくら位入れるんですか?」
「僕はお金稼いでるから、いつも金貨1枚入れてるよ。それ以上の価値はあるから」
金貨1枚…まあまあ高いな。
「コバヤシ君は幾ら位入れたいの?」
えっ、俺もいいの?
「じゃあ…銀貨3枚でお願いします」
「分かった。じゃあ、今お金渡しちゃうね。
そういうとマヤさんは小さな麻袋をアイテムボックスから取り出し、銀貨3枚を俺に渡した。
そして、女神像の前まで向かっていく…
これ、近くで見ると賽銭箱でしか無いな。
「この箱の底は斜めになってて、モルを取り出しやすくなってるらしいよ」
どこ情報ですか…それ。
「じゃ、僕が先に入れるね」
そう言うと、マヤさんは箱に近づき、金貨を投げ入れた。
礼法とかは無いみたいだな…
俺も同じように箱に近づき、銀貨を投げ入れた。
「…これだけでいいんですか?」
「うん、これでこれから2カ月は効果が出るよ」
「これだけで…すごいですね」
あと、マヤさんの寄付の金額から見るに…教会って結構稼いでるんだよな?
神が掠め取るって訳じゃ無いと思うし…
「このお金って、何に使われるんですか?」
「教会の牧師やシスターの生活費、教会の慈善事業の予算、年末の感謝祭の費用とかだよ」
「年末の…感謝祭?」
「ああっ…感謝祭っていうのはね、普段教会に寄付…協力してくれている人たちに感謝して、無料でお菓子を配ってくれる日だよ。私もあのお菓子は好きで…毎年見に行ってるんだ」
「砂糖とか…高くないんですか?」
「いや、感謝祭のために協力した人にはそれ相応の御利益があるから、毎年砂糖の商店がこぞって教会に来て、砂糖を渡してくれるらしいよ」
「そうですか…」
本当にその「御利益」って利益なんだな…
「じゃあ、もうそろそろお昼だし…宿に戻ろっか」
「その前に買っておきたいものがあって、お店に寄っていきたいんですが…」
「何のお店?」
「服飾店です。今着てる一着しか持ってなくて、洗えてないんですよね…」
「ああ…それなら大丈夫。ちなみに場所は知ってるの?」
それなら覚えてる、この世界で初めて入ったお店だしな。
「はい、だから一人でも行けます」
「うーん………まあ、初日のあれは事故だったみたいだし…分かった。お金は渡しておくね」
マヤさんは俺に金貨2枚を渡そうとした。
「いえ、金貨1枚で大丈夫です」
「分かった。じゃあ宿の部屋で待ち合わせね!」
金貨を受け取って、俺はサロベツ服飾店に向かって行った。
「はぁ……、いくらなんでも酷いだろ…あれ」
俺はサロベツ服飾店で、同じような見た目の服を一着、布製の下着を3着買った。
あと…俺が20000モルで売った服が55000モルで売られていた。
いくらなんでも…足元見過ぎじゃないかな、あれ。
まあ気持ちを切り替えて、昼食に何作るかでも考えるか…。
「ただいま戻りました…って」
マヤさん…髪の毛濡れてますね。
俺が服飾店に行ってる間に、銭湯に入ってたんだろうな…
「どうしたの?」
「いえ、何でもないです。じゃあ昼食作っちゃいますね」
今日の昼食には野菜チヂミを作ろうと思う。ニラは買っておいたし、手軽に作れるし、主食になるし楽だからな。
材料は卵、塩適量、小…ライ麦粉、片栗…ライ麦粉、水、その他好みの野菜と肉だ。
もちろん野菜や肉は入れなくてもいいし、代わりに海鮮を入れても美味しい。
粉類に関しては…パン粉使ってる人もいるし、完全に自由なんだろうな。
まずは卵、塩、ライ麦粉と水を、ダマができないよう気をつけながら「焼く前のホットケーキ生地に水をちょっと加えたくらいの粘度」になるように、いい感じの量で混ぜる。
そこに、生地より多いくらいの量の好みの野菜と肉(オークリーダーの肉)を切って、生地と丁寧に混ぜていったん置いておく。ちなみに俺の好みで肉は少し多めにしている。
次に、チヂミのタレを作る。
チヂミのタレの材料は醤油、酢、唐辛子、ゴマと砂糖だ。ちなみに俺は唐辛子を多めにして作ってるよ。
ちなみに醤油は俺がさっき作った。あと醤油は醤油でも「たまり醤油」だな。
その作り方は知っていたが、実際にやってみると意外と簡単だった。
まずは味噌の容器に溜まってる茶色い液体を取り、それを追加で発酵させる。
他に味噌を少しだけ分けて麻袋に入れ、追加で発酵させて、空気操作で絞るだけだ。
色は日本で見たやつより濃くて、旨味と甘みが強かった。甘辛いタレを作るときに良さそうに感じた。
これらの材料をを日本で使ったタレと同じ配分で混ぜて…できた。
ちなみにこれもボウルに入れたまま放置だ。
それじゃあさっき混ぜたチヂミの生地を焼いていく。
まずはシングルバーナーに火をつけ、フライパンを中火で熱していく。
そこに少量の油を敷いて、チヂミの生地を入れて焼く。
チヂミを焼いてる途中、空気操作で押さえつけた。
いい感じに焼けたと思ったら、フライパンの蓋にチヂミを乗せ……蓋がないので空気操作でくっつけて裏返す。
よしっ。いい感じのキツネ色だな。
裏面も同じように焼いて完成だ。
「できましたよ」
「ありがとう。ちょっと待ってね」
そういうとマヤさんは水魔法を使って手を洗った。
俺の手も洗ってもらい…料理をテーブルに並べる。
「いただきます」
フライパンに乗ったチヂミをフォークで切って、ボウルに入ったタレをつけ、一切れ食べた。
うん、美味しい。ライ麦感がちょっと強いけど、オーク肉の旨味とニラの味をちゃんと感じ、モチモチとした食感で美味しい。タレは甘辛くてチヂミとよく合ってる。
「美味しいね。この…パンみたいなやつ」
パンとは大違いなんですが…。どちらかと言うとお好み焼き…いやこの世界にはないのか。
俺はマヤさんに魔法のことを教わりながら、チヂミを食べた。
俺は食事中「魔法」について色々なことを教えてもらった。
魔法は法則に支配されていて、魔力を変化し、放出し、体外で操ることで使用できる。
分類として、全ての魔法は「スキル」の一部で、魔法を使う際にはスキルと同じように想像力が必要となる。
同じ属性の魔法を総称して「〇魔法」と呼ばれ、その属性の魔法が1種類でも使えれば、ステータスに「〇魔法」と表示される。また、どんな魔法もイメージをする力…想像力を鍛えることでより強力に、鮮鋭になり、魔力の無駄もなくなる。そのため魔法使いの力量は使う人の想像力と魔力量に依存するのだという。
そして今日、俺は基礎中の基礎とも言える「魔力の操作」を教えてもらった。
魔力の変化、放出までは俺もできるが、それだけでは魔法は使えないし、魔力もすぐに空気中に拡散してしまうらしい。俺が高濃度な氷の魔力を放出したときに周りが寒くなったのもそれが原因だ。
ただ、放出した直後の魔力であれば、意識すれば自身の腕のように操れ、魔力の拡散が防げるのだという。
意識するのは…何度かやればわかると言われた。
そのため俺は今から、何度も空気中にただの魔力を放出し、感覚を掴む練習をすることになった。
「ごちそうさま。コバヤシ君もご飯食べ終えたみたいだし…練習始めよっか」
マヤさんは食器を片付けながらそう言った。
「分かりました。じゃあ…始めますね」
俺はただの魔力を何度も繰り返し放出した…
ダメだな、出た瞬間に広がってく感覚がある……待って、この感覚が言ってたやつなんじゃ…
次は魔力を放出したあと、広がってく感覚を抑えるようにするか。
魔力を放出して……、今回はちょっと長く耐えたな。
じゃあ…この次は強めに抑えてみるか。
俺は再び魔力を放出した。
うん……拡散はしてない。あと、動かせそうな気がする。
気を抜かずに…これを動かして…出来た。
「マヤさん、出来ましたよ」
「ちょっと見せて…うん、出来てるね。次は…この魔力を円を描くように動かしてみて」
俺はマヤさんに言われた通りに魔力を動かしていった。
「操作は問題なさそうだね。それじゃあ…その魔力を火の魔力にしてみて」
それなら出来そうな気がする…。
俺は空中に浮かんだ魔力を火の魔力に変えた。
「………変化してるね。魔法を使うのに必要な操作はこれで全部だよ。あとは…使いたい魔法に応じて想像するだけ。まずは…ファイアからやってみようか」
マヤさんによると、ファイアは空気中の火の魔力を炎に変化させて操る魔法だと言う。
これは火魔法において基本の魔法であり、ファイアボールなどの簡単な魔法や、ファイアアロー、フレイムウォール、ブレイズなどの高等魔法もこれを応用したものだという。
ちなみにフレイムを扱うにはある程度純度の高い火の魔力が必要らしい。
じゃあ、魔法の実践といくか…。
俺はただの魔力を放出した後、シングルバーナーの火をイメージしながら、体外の魔力を火の魔力に変化させた。
「………出来ましたね」
俺の目の前でシングルバーナーと同じくらいの強さの炎が、前に向かって吹き出した。
これが…魔法…………俺が魔法を使ってる…。
あっ…消えたな。
「うん、そんな感じだね。今度は火の玉を作って」
火の玉…こんな風なイメージでいいかな。
俺はさっきと同じように火の魔力を空中に浮かべ、そして中空の球体の中に火を吹き込む想像をした。
「出来てる。そしたらこれを地面にぶつけてみて」
火の玉を操作し、地面の土にぶつけてみる……
すると火の玉はぶつかった所で拡散し、消えて無くなった。
「それがファイアボールだよ。…攻撃にはあまり使えないけど、目眩まし位にはなるんだ」
「それじゃあ…魔力が足りなくなってきただろうし、そろそろ練習終わろうか」
終わり…良かった、まあまあ疲れてたんだよ。
あと、マヤさんに1つお願いしたいことがあるんだよな…
「水魔法で服洗ってほしいので…水出してもらってもいいですか?」
俺はさっき服飾店の中で服は着替えておいたから、後は洗って乾かすだけだ。
「水を出すって…水はどこに貯めればいい?僕は貯められるものは持ってないけど…」
「空気操作で樽を作るので、そこに入れて欲しいです」
「分かった。じゃあ樽の場所を教えて」
俺は樽を作ってマヤさんに水を入れてもらい。火の魔力を込めてぬるめのお湯にした。
そこに服と少しの石鹸を入れ、樽に蓋をして…振る。
ちなみに、効果があるかは分からないけど…、樽の内側は洗濯板みたいに凹凸にした。
………そろそろ大丈夫かな。
蓋をザルのように変えて樽を裏返し、水を捨てた。
そこに再び水を入れてもらい、温め、蓋を直し、今度は石鹸なしで振る…
濯ぎ終わったら、底をザルのようにして水を切って、服を取り出す。
そうしたら服を空気製の物干し竿に乗せ、風を吹きかけて乾かした。
「乾きましたね。それじゃあ部屋に戻りましょうか」
「いや…もう夕方だし、ここで夕食を作ったらどう?」
背もたれが150度くらいの空気椅子に毛布を敷き、足を伸ばしてすっかり寛いでいるマヤさんがそう言った。
確かに、もう日が落ちそうになってるな…
「それじゃあ、夜こ飯作っちゃいますね」
今日の夜ご飯は……楽なのだと野菜シチュー、鍋、豚の生姜焼き……
豚の生姜焼きでいいかな。
肉にライ麦粉をまぶして焼き、途中で醤油と刻んだ生姜と砂糖と酒を混ぜたやつを入れるだけ。失敗するほうが難しい。
味醂はないから砂糖水で代用する。日本酒は
それに無くても美味しいから大丈夫だ。
最後に、肉を切ったナイフを洗った後、キャベツを千切りにして…やっぱり怖い、このナイフ鋭すぎるんだよ。
気をつけながら、ゆっくりとキャベツを千切りにして、お皿に盛り付けた




