表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰の灯  作者: 明月 太陽
6/11

第6話 ――声の残響

朝、目覚ましの音よりも先に目が覚めた。

瞼の裏にはまだ、夢の景色が焼きついている。薄暗い部屋、隣で笑う声、そして確かにあった“温もり”。それらが現実のように鮮明で、起き上がるのが怖かった。


――あの夢は、もう終わったのだろうか。

そう思いながら、天井を見上げた。


部屋の空気は冷たく、現実だけが静かに息をしている。時計の針が刻む音が、やけに大きく聞こえた。


「……はぁ。」


吐き出した息が白く見えた気がして、手を伸ばしてみたが、何も掴めなかった。

やっぱり、ここは夢じゃない。


コーヒーを淹れ、机に向かう。

作業用のヘッドホンをかけると、イヤーカップの内側から微かな金属音が響いた。


――カチッ。


電源を入れた覚えはない。モニターの隅で、マイクの小さなランプが点灯している。


「……おかしいな。」


念のためにケーブルを抜こうと手を伸ばした瞬間、耳の奥でノイズが鳴った。

ザーッという雑音の中に、何かが混じっている。


「……――まだ、ここにいるよ。」


その声を聞いた瞬間、背筋が凍った。

間違いない。

夢の中で、何度も聞いた“あの声”だ。


手のひらがじっとりと汗ばむ。マイクを覗き込むが、当然、そこに誰かがいるはずもない。

それでも、確かに“誰か”がそこにいた。


「あなたは……誰?」


問いかけたが、返事はなかった。

ただ、ノイズが少しだけ弱まり、まるで呼吸のように波打っている。


――これは、現実なのか。

それとも、まだ夢の続きなのか。


不安と興奮の境目で、鼓動がどくどくと耳の奥を叩いた。

画面には何の異常も表示されていない。録音ソフトも、配信ツールも、何も起動していない。

それでも、マイクだけは静かに光り続けている。


試しに録音を開始した。波形が、ゆっくりと動く。

「もしもし」と声をかけると、その波が一瞬だけ跳ねた。

しかし、返事はやはりない。


ただ、最後にほんの一瞬、音の隙間に何かが紛れ込んだ。

それはまるで、人の笑い声のようだった。


背筋が震える。マイクの電源を切ろうとしても、ボタンは反応しなかった。

ケーブルを抜いても、ランプは消えない。


「なんで……」


その瞬間、部屋の電気が一度だけチカッと瞬いた。

そして暗闇の中、マイクのランプだけが淡く光を残す。


――瞬いた(かがやいた)

まるで意思を持っているかのように。


その夜、私は眠ることができなかった。

夢の続きが怖いのではない。

“夢の方が現実に近い気がする”ことが、恐ろしかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ