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灰の灯  作者: 明月 太陽
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第4話 揺れる境界

パソコンの冷たい光が、目の奥を刺す。

ディスプレイに映る文字列を追っても、頭には入ってこない。

いつも通りの朝。

なのに、どこかが違っていた。


マグカップを持ち上げた指先に、微かな違和感。

――あの夢で、誰かの手に触れた感触。

その残り火のような温もりが、まだ指に残っている気がした。


「……寝ぼけてるのかな。」


独り言のように呟いて、苦笑する。

けれど、笑顔は形だけだった。


通知音が鳴った。

デスクの端に置いたスマホの画面に、見覚えのないアイコン。

けれど、開いてみてもアプリの履歴には何もない。

気のせいか――そう思おうとした。


なのに、そのとき、画面の奥に“文字”が一瞬だけ浮かんだ。


『また、会えたね。』


その文字が確かに見えた。

けれど瞬きをした次の瞬間には、何もなかった。

ただの通知センターの白い画面だけ。


指が震えた。

背筋を冷たいものが這い上がる。


――夢で、彼が最後に言った言葉。

それが、まったく同じだった。


時計を見ると、もう昼休みの時間を過ぎていた。

集中もできず、ただ時間だけが流れていく。

それでも仕事を止めるわけにはいかない。

いつも通り、動作確認をして、報告書をまとめて、送信する。

心が空っぽのまま、手だけが動いていた。


夕方、ふと視界の端で、画面が一瞬だけ“歪んだ”気がした。

小さくノイズが走り、灰色の線が波打つ。

モニターの向こうに、誰かの影が一瞬映ったような――そんな錯覚。


「……また、会えたね。」


誰かの声がした。

でも、振り向いても、誰もいない。


現実が静かに揺らいでいる。

夢が、少しずつ侵食してきているのかもしれない。


葵は、胸の奥にひとつだけ、奇妙な確信を覚えた。

――あの夢は、ただの夢じゃない。


そう思ってはいけないと、頭ではわかっている。

けれど、心はもう、止まってくれなかった。

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― 新着の感想 ―
拝読いたしました。 灰の色をした朝の空気が、そのまま文字になったような導入です。 音の少ない部屋、画面の光、滲む孤独――すべてが淡く重なっていて、読むうちに現実と夢の境がゆっくりと曖昧になっていく感…
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