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婚約破棄とその影響〜ニノア

平安時代の斎宮や斎院ネタで書きたいなーと思っていたのに何故か西洋風の世界になったので、シリーズの一つにしました。

名残として特殊な巫女制度があります。

「それではそういうことで、わたしとレオンは失礼するわ、ニノア。後は()()()()()()()()()()。ふふっ」

「御前失礼いたします、ニノア殿下。正式なお詫びについては、また後ほど改めてお伺いいたしますので……」

「いいからさっさと出ていってくださいませ、二人とも。私はこれから忙しくなるのですから」


 植えてもいないのに我が物顔で勝手に咲き誇る花畑など、見ていて不快になるだけである。


 他でもない実の姉と、その恋人になったという自分の()婚約者の姿が消えてから、ようやく一人になった第二王女ニノアは頭痛をこらえつつ考えを巡らせた。

 とは言え、こうなってしまっては選択肢は多くない。巫女となるべきだった姉が、純潔を失いその資格をなくしたとあっては……


「……とにかく、お母様に報告しなくてはね」


 母である女王には、本来は当事者である二人が報告すべきなのだが……あの浮かれきっている姉セレシアと、事なかれ主義で面倒事を避けたがる元婚約者レオンティーズが、既にそんなことをしているとしたらむしろ驚きである。女王と王配と、王太子である弟イーサンに事実が知られているのなら、あれほど浮かれる余裕などないほど徹底的に絞られていただろうし。


「まあ、そうなるのも時間の問題でしょうけれど」


 控えていた侍女に指示し、姉以外の家族に緊急に顔を揃えてもらうよう連絡をしてから、紅茶を飲みつつどう話せばいいかを頭の中で整理する。

 どう言葉を選ぼうが、大事(おおごと)にしかならないのだけれども。第一王女が、国の守護神の花嫁となるべき巫女たる役目を自ら放棄した上に━━その方法がよりにもよって、第二王女の婚約者に純潔を差し出したというものだったのだから。




 ━━ヴィーズ王国の建国王は、ヴォダという神の加護により国を興した。王家は代々その血筋から巫女を輩出し、ヴォダの花嫁として彼に祈りを捧げることで、国の守護を盤石なものとすることを約束された━━と、建国伝説にある。

 巫女となるのは未婚の、有り体に言えば純潔である王の娘か姉妹、孫娘までの範囲で一人━━概ね二十代までの最年長者が選ばれ、国名と同じ聖地ヴィーズ山の住まいで祈りを捧げる日々を送ることになっている。在任期間は最短でもその代の国王が退位するまでだが、数代に渡り務め上げることも多く、就任から生涯を終えるまで聖地で暮らす巫女も少なくはない。

 当代の女王はちょうど二十代目の国王で、巫女は先々代の頃より女王の大叔母が務めているが、既に彼女はかなりの高齢で今年中の退任が決まっている。そのため、次なる巫女として確実視されていたのが第一王女セレシアだった。

 今年十九歳になったセレシアは、ゆるく波打つ淡い金髪を腰まで伸ばし、淡く透き通る水色の瞳をした妖精を思わせる美女だ。父である王配によく似たその美貌は有名であり、国内外から縁談が降り注いでいてもおかしくない彼女が何故巫女に選ばれるかと言えば、幼い頃より病弱な体質という一点に尽きる。そのため王女としての教養も今一つであり、迂闊にどこかに嫁がせるよりは、清浄かつ静かな聖地で巫女として過ごす方が長く幸せに生きられよう……という周囲の気遣いが大きかった。聖地で長年を過ごす巫女は総じて健康になり、寿命も平均を遥かに超える場合がほとんどであったから。

 とは言えここ数年は、弟妹のニノアとイーサンは勿論、両親である女王夫妻も、セレシアの「わたしは病弱!」という主張には大いに疑いの目を向けていたが。


「……ことあるごとに病弱と主張して、王女としての教育や公務から逃げ回っておきながら、熱を出すことも倒れることもなく頻繁に街へ遊びに出る……というのは露骨すぎますわよね」

「ですね。ニノア姉上は将来的に父上の実家であるマイヤ侯爵家を継ぐ予定で、レオンティーズ・ヴァッサー公爵子息はその入り婿となる立場のはずなのに、彼も彼ですよ。まあセレシア姉上のことなので、『わたしもお父様の娘なのだから、マイヤ家を継ぐ権利は当然あるし、レオンの婚約者になっても問題ないはずだわ!』くらいのことは思っているでしょうし口にも出していそうですが」

「問題大有りに決まっているだろうに。幼い頃からマイヤ家に出入りして、領地や家のことを熱心に学んできた(ニノア)と同じことを自分ができるとでも思って……はいないだろうな。おそらくセレシアは、侯爵家当主としての仕事は婿に丸投げするつもりなのだろう。我が娘ながら何故あんなにも他人任せになってしまったのやら……父として情けない」

「母としてわたくしも大いに情けなくてよ、あなた。そもそもどうして、あなたやわたくしに一言も相談することなく、ヴァッサー公爵子息を寝取るだなんて強硬手段に出たのかが理解できないわ。それほど巫女となるのが嫌だったにしても、公爵子息を手に入れたかったのだとしても、あまりにも酷すぎて……」


 女王の執務室で、国王夫妻と王太子が揃って頭を抱える光景は、臣下にはあまり見せたくないものと言える。

 とは言え、長年セレシアからあれこれ言われることが多かったニノアは、全てではなくとも一部の答えは出せた。


「お姉様はとにかく動くことがお嫌いと言いますか、最低限の行動で最大の効果を狙いたいのだと思いますわ。お父様やお母様にお願いしてヴァッサー公爵にも根回しをして、地道に外堀を埋めていくよりも、手っ取り早く確実と思われる手段に走ったのでしょう。聖地へ赴く前の潔斎も迫っておりますしね」


 その方がニノアにも的確にショックを与えることができるし、とまでは口に出さない。ニノアは昔から健康優良児で、容姿も母に生き写しの長い黒髪と金緑の瞳の凛々しい美少女であり、セレシアとは何もかも正反対と言える。だからこそ子供の頃から、何かと姉には八つ当たりや愚痴をぶつけられるのが恒例行事のようなものだった。基本的にニノアは図太いのでさほど堪えることもなかったが……流石に今回は、予定されてきた将来にかなりの方向転換を強いられるだけに、それなり以上の衝撃を受けてはいる。


「確かに純潔を失えば、巫女のお役目は明確に免れますが……そこまでするほどあの公爵子息に魅力があるのか、僕には理解できません」

「あらそう? ヴァッサー公爵子息は芸術品を思わせる神々しい美貌の青年だから、手に入れたくなる気持ちだけならよく理解できてよ。だからと言って略奪して構わないわけでは当然ないけれど」

「確かに容姿だけなら、お姉様と並んでいるところも含めて目の保養でしたわね。マナーやエスコートの類も完璧でしたし、お姉様が気に入る気持ちだけは私も分かります。お二人には是非ともこのまま結ばれて、無駄な被害を出さないようにしていただきたいものですわ」

「そうは言うが、このままではニノア、お前の今後に大変な変更が生じてしまうだろう。他に巫女となり得る女性はほぼいないのだし……」


 心配してくれる父の気持ちが嬉しいと同時に、こういうところがセレシアの癇に障ったのだろうなとも思うニノアだった。

 セレシアにしてみれば、当たり前のように自分が巫女となることを受け入れている家族からは既に見捨てられているように感じたのかもしれない。だからこそ妹の婚約者(レオンティーズ)を寝取り、同時に(ニノア)を自分の身代わりとすることを企んだ可能性は否定できなかった。……巫女となることは別に人生の終わりでも何でもないが、花の盛りを俗世を離れて過ごすことになるのは紛れもない事実なので、自分の美貌をこよなく愛するセレシアが大いに忌避したくなるのも分からないではない。

 建国より三百年、深刻な災害や病、他国との戦争とは無縁となったほどの加護がどれほど凄まじいものか。王侯貴族ならずとも、歴史を学びさえすれば簡単に理解できるとも思うけれど……まあセレシア本人がそれほど嫌と言うならば、無理強いしてもどうしようもない。本心からではない祈りを捧げられるヴォダ神も迷惑だろうし。


「他に巫女の資格があるのは、叔母様の娘であるヒュドール家の姉妹くらいですけれど。長女がようやく五歳になったばかりですのに、親元から急に引き離すのは気が引けますわ。そういう前例も無くはありませんけれども……」


 そちらも避けられるものなら避けてやりたいと思うのもニノアの本心である。


「少なくとも私は巫女のお役目に抵抗はありませんので、年単位の休暇とでも思ってお役目を果たして参りますわ。無論、各種引き継ぎはしっかり終えた上で」

「確かに姉上は、王女としての公務に加えてマイヤ家の後継者教育もありましたからね。お気持ちは分かります」


 そう言うイーサンも王太子教育漬けでニノアと同じくらい忙しいはずなのだが、全く気にせずけろっとしているあたりが末恐ろしい。まだ十二歳で、ニノアより五歳も年下なのに。

 そのあたりのことを言えば、本来セレシアが担当すべき分もニノアが一手に引き受ける羽目になっているのが何より大きいというのは、この場の全員どころかまともな王宮勤めの者たちは皆知っている。


 女王も王配もごく最近、長女(セレシア)は何ら問題ない健康体と医師に太鼓判を押されたのをしっかり確認している。ならばと、王女としての公務をやれる範囲で、少しずつでも担当させようとはしていたのだ。けれど当のセレシアは、「無理よ! わたしには難しくてできないわ!」「どうせわたしは巫女になるのだから、そんなことする意味なんてどこにもないでしょう? わたしがしなくても、ニノアがしっかりやってくれるんですもの、問題ないわ!」と逃げ回るばかりで……挙げ句がこの事態である。女王夫妻は勿論、イーサンの堪忍袋の緒も限界に来ていた。


「そうすると今後の王女の公務は、我々で分担するとして……一部は叔母上、ヒュドール侯爵夫人にもご協力を頼めますでしょうか、母上」

「事情を話して頼んでみるわ。まあ、引き受ける条件として、セレシアたちへのお説教をオプションとして希望してきそうではあるけれど」

「そのオプションは我々全員が行使することになるだろうな」

「私は遠慮しますわ、お父様。半年の潔斎期間に入る前に、引き継ぎを終わらせなくてはいけませんから」


 セレシアたちに説教するのも楽しそうではあるが、別にニノアが不参加でも何ら問題ない顔ぶれなので任せることにする。それでなくとも誰かさんたちのせいで時間が足りないのだから。

 まあその誰かさんたちにとっても、到底時間は足りないだろうが。


 ━━自分の希望を叶えるため、小賢しく策を巡らせ実行に移すまではまだ良しとしよう。

 けれど、それによって生じた義務や代償を放棄しようとすればどうなるか。セレシアやレオンティーズが、そこのところを理解しているかは果たして……


「王女であれ次期マイヤ侯爵であれ、その立場に在りたいのならば相応の覚悟を示してもらわなくてはね」


 それが、セレシアを除く現王族(ロイヤルファミリー)の一致した見解であった。


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― 新着の感想 ―
いやこれ、家族がめちゃくちゃ酷いだろ…本人を交えた話し合いをせず、なんとなく長女に斎宮を押し付けて。王宮を追い出して人里離れた土地で孤独に祈りながらババアになるまで務めてろってか?そんな人生で寿命が長…
「植えてもいないのに我が物顔で勝手に咲き誇る花畑」なんて素敵な表現! これだけで続きが楽しみになります。
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