過去の償い
リノアは律師の言葉を聞き、石版を握り締めたまま立ち尽くしていた。律師のリーダーが去る気配を示す中、彼女は叫んだ。「待って!教えてよ。石版に刻まれた『天空の槍』って何?神話の時代って、本当は何だったの?」 その声に、律師の動きが止まった。衛兵隊長が「何!?今すぐ渡せ!」と怒鳴ったが、リノアは譲らなかった。仲間たちも息を呑み、律師の答えを待った。
律師は深いため息をつき、フードの下から目を細めてリノアを見据えた。「知りたいか?ならば、真実を刻め。お前たちの神話は、我々の歴史だ」。彼は一歩近づき、低く、重い声で語り始めた。
「お前たちが神話と呼ぶ時代は、遠い昔に実在した。『鷲の国』と『龍の国』——それはシンボルに過ぎん。本当の名は『アメリカ』と『中華』だ。数千、いや数万年前、二つの巨大な文明がこの惑星を支配していた。彼らは科学と技術を極め、空を飛び、大地を切り開き、星々に手を伸ばした。だが、互いを滅ぼす力もまた生み出した。それが『天空の槍』——お前たちの石版に刻まれたものだ。実際は『核ミサイル』と呼ばれた兵器だ」
リノアの目が丸くなり、テオが「核…ミサイル?」と呟いた。律師は続けた。「その戦争は全てを焼き尽くした。都市は灰に、空は毒に染まり、文明は崩れ去った。だが、我々はその残骸の中で生き延びた。核の炎に浴び、被曝した我々は、死なず、変わった。魔法と呼ぶ力を得たのだ。それが新時代の礎となり、お前たちの文明が生まれた」
カイルが「待てよ…魔法が核から?」と混乱し、ミラが「じゃあ、私たちの力って…」と震えた。律師は頷き、「そうだ。お前たちの魔法は、古代の破壊の残響だ。そして、その文明的要素——石版や遺物——は、再び核の力を呼び覚ます種だ。我々はそれを恐れる。あの戦争を繰り返してはならぬと、永遠の命を以て監視し、破壊し続けている」
リノアは石版を見下ろした。「天空の槍」が核ミサイルだったという事実に、頭がクラクラした。律師の言葉が脳裏に響く——彼らにとって「文明的要素」とは、再び惑星を壊滅させる危険な遺産でしかないのだ。彼女は呟いた。「でも、私たちは…ただ生きてるだけなのに。なぜそんな過去の罪を背負わなきゃいけないの?」
律師は目を伏せ、「お前たちが背負う必要はない。我々が背負う。だが、お前たちが遺物を求め、力を欲する限り、我々は止まらん。お前がその石版を渡せば、ここで終わる。選択しろ」と静かに告げた。
衛兵隊長が「渡せ!これ以上犠牲を出すな!」と叫び、テオが「でも、真実を知った今、どうするんだ?」とリノアに問いかけた。カイルが「こんなやつらの言うこと信じられるかよ」と唸り、ミラが「リノア…どうしたいの?」と涙声で尋ねた。リノアは石版を握り、律師を見つめた。真実を知った今、旅の目的が揺らいでいた。石版を渡せば、律師は去り、戦いは終わるかもしれない。だが、それで全てが解決するのか?過去の罪と向き合うべきは誰なのか?
律師が「決断の時だ」と言い、一歩下がった。リノアの心は嵐のように揺れ、仲間たちの視線が彼女に突き刺さった。壊滅したグレンヴァルの灰の中で、彼女の手の中の石版が微かに熱を帯びている気がした——それは、遠い過去からの警告なのか、それとも未来への鍵なのか。