混乱と召集
リノアたちはソランの家で数日を過ごし、休息と情報収集に努めていたが、アルテミスの街は一夜にして様相を変えた。北部からの避難民が押し寄せ、首都の門前は混乱に包まれた。馬車に積まれたわずかな荷物、泣き叫ぶ子供、疲れ果てた大人たちが石畳を埋め尽くし、衛兵が「落ち着け!順番に入れ!」と叫ぶ声が響く。市場は閉まり、露天商の屋台は放置され、魔法の灯りが不規則に瞬いていた。
ソランが屋台の片付けを手伝いながら、「こりゃ大変なことになったな。北のグレンヴァルがやられたって噂だ」と呟いた。リノアは窓から外を見やり、「律師だね…間違いない」と確信した。テオが「首都まで来るつもりか?」と眉を寄せ、カイルが「だったら迎え撃つしかねぇだろ」と拳を握った。ミラは避難民の群れを見つめ、「こんなに大勢…どこに逃げるの?」と不安げに呟いた。
その時、家の扉が乱暴に叩かれた。開けると、鎧を着た衛兵が立っていた。「お前らがリノア一行か?王城からの召集だ。すぐ来い」とぶっきらぼうに告げた。ソランが「何!?お前ら何したんだ?」と驚き、リノアが「わからないけど…行くしかないね」と仲間を見回した。一行は荷物をまとめ、衛兵に連れられて王城へと急いだ。
王城の謁見の間は、重苦しい空気に満ちていた。国王レオニスが玉座に座り、側近と将軍たちが地図を広げて議論を交わしている。衛兵が一行を前に出すと、レオニスは鋭い目で彼らを見据えた。「お前たちが律師を追う旅人だと聞いた。魔法と戦闘に長けているな?」
リノアが「はい、私たちは真実を知るために旅をしてます」と答えると、王は頷いた。「ならば、力を貸せ。北の町が律師に襲われ、壊滅した。避難民がここまで逃げてきたが、次にどこが狙われるかわからん。お前たちの力が必要だ」
カイルが「俺たちだけでどうにかなる相手じゃねぇだろ」と反発すると、将軍の一人が「衛兵隊も同行する。斥候として北へ向かい、律師の動きを探ってほしい」と補足した。テオが「偵察なら俺の風魔法が役に立つ」と頷き、ミラが「お守りも作れるよ」と小さな声で付け加えた。リノアは石版を握り、「わかりました。私たちにできるなら」と決意を固めた。
準備が整うと、一行は衛兵隊と共に首都を出発した。避難民の波を掻き分け、北へ向かう街道を進む。馬車の車輪が石畳を鳴らし、衛兵の鎧がカチャカチャと響いた。道中、避難民の一人が「黒い影が町を焼き尽くした…助けてくれ」と泣き叫び、リノアの胸が締め付けられた。律師の脅威は、もはや遠い噂ではなく、目の前の現実だった。
夜が更け、北へ向かう一行の前に、焼け焦げた大地が広がり始めた。遠くで煙が立ち上り、空には不気味な赤い光が揺らめいている。リノアは仲間を見回し、「覚悟して。私たちの旅が、ここで試されるよ」と静かに言った。衛兵隊長が「進め!」と号令をかけ、一行は闇の中へと踏み込んでいった。