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灰の神話  作者: そーゆ
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暗い噂

### 第六話:首都の噂


リノアたちは山賊との遭遇を乗り越え、幾つもの丘と川を越えて長い旅を続けた。足は疲れ、荷物は軽くなり、風と埃にまみれた一行の前に、ついに巨大な石壁が姿を現した。王国の首都「アルテミス」だ。城塞都市の門は鉄と魔法で強化され、衛兵が槍を手に立ち並ぶ。市場の喧騒が壁の向こうから聞こえ、旅の終わりではないが、一つの節目を迎えた気がした。


門をくぐると、目に飛び込んできたのは活気あふれる光景だった。石畳の通りには露天商が軒を連ね、魔法の灯りが色とりどりに輝き、馬車や人々が忙しく行き交う。カイルが「やっとまともな飯にありつけそうだ」と笑い、ミラが「人が多い…ちょっと怖いね」と呟いた。テオは「ここなら何か情報が得られるはずだ」と目を光らせ、リノアは石版と本を握りしめ、首都の空気を吸い込んだ。


市場を歩いていると、懐かしい声が響いた。「おい、リノア!?お前、こんなとこで何してんだ?」 振り返ると、露天商の屋台で干し魚を並べる若者が立っていた。リノアの幼馴染で、2年前に村を出て首都で商売を始めたソランだ。日に焼けた顔と笑顔は昔のままだった。一行は驚きと喜びで彼に駆け寄り、近況を語り合った。


ソランは屋台の裏に簡素な椅子を出し、一行を座らせて干し魚と水を振る舞った。「旅か、随分大胆になったな」と笑いながら、リノアが切り出した。「ソラン、律師のこと知ってる?」 その名を聞いた瞬間、ソランの表情が硬くなった。彼は周囲を見回し、声を潜めて言った。「お前ら、それに首突っ込んでるのか?やめとけって」


リノアが「知ってるなら教えて」と食い下がると、ソランは渋々口を開いた。「ここじゃ噂が絶えねぇよ。律師ってのは、ただの魔法使いじゃねぇ。神話の時代から生きてるって話だ」


一行は息を呑んだ。テオが「神話の時代って…何百年、いや千年以上前じゃないか?」と驚き、カイルが「生きてるって、どういうことだよ?」と眉を寄せた。ミラは「そんなこと…ありえるの?」と震え、リノアは石版を手に持ったまま固まった。ソランは肩をすくめ、「俺も半信半疑さ。だが、市場で耳にした話じゃ、律師は例の神話の鷲の国と龍の国の戦争を生き抜いた奴らで、不老不死の魔法で命を保ってるらしい。でなけりゃ、あんなバカみてぇな力は説明つかねぇよ」と続けた。


「それなら、なんで今さら遺物や都市を壊してるんだ?」とリノアが尋ねると、ソランは首を振った。「さあな。過去を消したいのか、それとも何か隠してるのか…。ただ、最近じゃ首都の外れで黒ローブの影を見たって噂もある。衛兵も動いてるが、誰も近づけねぇってさ」


話が終わり、ソランは「今夜は俺のとこに泊まれ。旅で疲れてんだろ」と提案し、一行は感謝して受け入れた。夜、ソランの小さな家で床に毛布を敷いて横になりながら、リノアは考えを巡らせた。律師が神話の時代から生きているなら、彼らは鷲と龍の戦争を目撃し、古代魔法文明の滅亡を知る者たちだ。石版に刻まれた「天空の槍」も、その時代に繋がる鍵なのかもしれない。


窓の外で、首都の夜が静かに流れていた。律師の影がすぐ近くに潜んでいるかもしれない——その予感が、リノアの胸を締め付けた。旅は新たな局面を迎え、一行の決意が試される時が近づいていた。

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