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灰の神話  作者: そーゆ
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片足の行商人

リノアたちは村を出て三日目の朝を迎えていた。埃っぽい街道を進むうち、太陽が空高く昇り、汗が額を伝う。荷物を背負ったカイルが「腹減ったな」とぼやき、ミラが「もう少し我慢して」と水袋を渡す。テオは風を操り、仲間たちに涼を届けながら「次の村までまだ遠いぞ」と地図を眺めていた。リノアは先頭を歩き、石版を握り潰さんばかりに考え込んでいた——律師とは何者なのか、彼らが壊す理由は何なのか。


その時、道の脇に揺れる影が見えた。ぼろぼろの幌をかけた荷車を引く、片足の男だ。右脚は膝下で切り落とされ、代わりに木の棒が革ひもで縛られていた。男は汗だくで車を押しながら、かすれた声で「旅人か!何か買わねぇか?」と呼びかけてきた。


リノアたちが近づくと、男は荷車から干し肉、硬パン、怪しげな色の果実を取り出した。「俺はガロン、行商人だ。こんな道でも商売は止められねぇよ」と笑う。リノアは仲間と顔を見合わせ、荷物の軽さに不安を覚えていたが、十分な魔力と戦闘能力を持つ一行にとって、この程度の出会いは脅威ではないと判断した。「じゃあ、干し肉とパンをください」と言い、ミラが革袋から魔法の結晶を数個取り出して差し出した。


取引が終わり、ガロンが荷車に腰を下ろして一息ついていると、リノアがふと尋ねた。「その脚…どうしたんですか?」

ガロンの顔が曇った。彼はしばらく黙り込み、やがて低い声で話し始めた。「律師だよ。あのクソ野郎どもにやられた」


一行の空気が凍りついた。カイルが「律師だって?」と身を乗り出し、テオが「何があったか教えてくれ」と目を光らせた。ガロンはため息をつき、木の脚を叩きながら続けた。「あれは50年前の事だ。俺は商隊で荷物を運んでた。街道の途中で黒いローブの奴らが現れてな、いきなり魔法をぶっ放してきた。しかも見たこともねぇよぉな規模とデカさだ。炎が渦巻いて、仲間は一瞬で灰に…俺は運良く荷車の下に隠れたが、この脚を焼かれちまった。切り落とすしかなかったんだ」


ミラが小さく悲鳴を上げ、カイルが拳を握り潰しそうに震えた。リノアは息を呑み、「なぜそんなことを?」と尋ねた。ガロンは首を振る。「わからねぇ。ただ、奴らは俺たちが運んでた石の彫像——何か古いもんだったらしい——を粉々にして、『これでいい』とだけ言って消えた。意味不明だよ。だがな、律師が現れるたび、昔の遺物や建物、魔法が狙われるって噂だ」


「遺物…」リノアは革袋の中の石版を思い出し、胸が締め付けられるようだった。律師が文明の残骸を憎む理由がそこにあるのか?だが、ガロンの話では、彼らの行動は単なる破壊以上の何かを感じさせた。テオが「それなら、俺たちが調べる価値はあるな」と呟き、カイルが「次に会ったらぶちのめす」と唸った。


ガロンは目を細め、「お前ら、律師を追うつもりか?無茶だぞ。だが…気をつけな。奴らは魔法の使い手じゃねぇ、魔法そのものだ」と警告した。リノアは頷き、「ありがとう、ガロンさん。私たち、必ず真実を見つけるから」と決意を新たにした。


一行は食料を補充し、ガロンに別れを告げて再び歩き出した。遠くに見える廃墟のシルエットが、律師の影を連想させた。リノアの手の中で、石版が微かに熱を帯びている気がした——それは錯覚か、それとも何かの兆しなのか。第二の旅路は、さらなる謎を孕んで始まった。

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