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灰の神話  作者: そーゆ
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恐怖

リノアにとって、14歳の誕生日はただの祝い事ではなかった。エリド村では、14歳は成人の節目であり、一人前として認められる日だ。朝早く、村の広場では松明が焚かれ、太鼓の音が響き渡る中、長老が彼女の肩に粗末ながらも威厳ある毛織のマントを掛けた。「リノアよ、汝は我らの仲間なり」と長老が宣言すると、村人たちが歓声を上げた。彼女の胸は高鳴り、誇らしさと不安が混じり合っていた。


その夜、友人たち——鍛冶屋の息子で腕っぷしの強いカイル、薬草に詳しい内気な少女ミラ、そしてリノアの幼馴染で風の魔法を操る少年テオ——が集まり、焚き火を囲んで未来を語り合った。「これで俺たちも自由だな」とカイルが笑い、ミラが「でも、自由って怖いよね」と呟く。テオは風を指先で遊ばせながら、「リノア、お前、何か企んでるだろ?」と目を細めた。


リノアは少し躊躇ったが、意を決して口を開いた。「律師のこと、考えたことある?」


空気が一瞬、重くなった。律師——それはこの世界に暗い影を落とす存在だ。古代魔術を含むあらゆる魔法に精通し、炎を呼び、嵐を起こし、時には大地を裂くほどの力を持つ者たち。だが、彼らが現れるたび、村や町の石造りの塔、橋、さらには魔法の結晶を貯蔵する倉庫が破壊され、下手すれば豊かな大国でさえも灰と瓦礫の山に変わる。村人たちは「ただの狂人だ」と恐れ、口にするのも避けてきた。


「律師がそんな力を持ってるなら、支配だってできるはずだよ。なのに、なぜ壊すだけなんだ?」リノアの言葉に、テオが首をかしげた。「復讐か何かじゃないか?昔の恨みとかさ」。カイルは拳を握り、「理由なんてどうでもいい。俺ならぶっ潰すね」と息巻いた。ミラは小さく震えながら、「でも…もし意味があるとしたら?何か大事なものを隠してるのかも…」と呟いた。


リノアの心に、昨夜見た夢が蘇った。崩れた塔の中で見つけた古い石版。そこに刻まれた「大地を焦がす槍」という言葉。そしてあの日遠くの山で見た、不気味な赤い光。あれは律師の仕業だったのか?彼女は立ち上がり、焚き火の明かりに照らされた顔を友たちに向けた。「確かめたい。律師が何を企んでるのか、何を壊そうとしてるのか。私、旅に出るよ。一人でも行くつもりだ。でも…一緒なら、もっと心強い」


テオが最初に立ち上がり、「お前がそんな目をしてるなら、止めても無駄だろ。俺も行くよ」と笑った。カイルが「俺を置いてくなよ!」と肩を叩き、ミラも「お守りを編むから…私も頑張るね」と頷いた。こうして、リノアと三人の仲間は、律師の謎を追う旅を決意した。


翌朝、村を出る前に、リノアはこっそりあの石版を革袋に詰めた。太陽が昇る中、四人は埃っぽい街道を歩き始めた。遠くの地平線には、かつての都市の廃墟が影のように揺らめていた。律師の目的も、神話の真実もまだ霧の中だが、リノアの瞳には決意が宿っていた。

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