8話 単独行動最高!
「あら、早かったわね」
「まぁね」
『ところでシュー君、出掛けなくて良いにゃ?』
第二の詐欺師の言葉で我に返った俺はギルドを目指し出発して、その道中第一の詐欺師と合流した。
「もう来ないのかと思ってたんだけど」
「仕事しない訳にもいかないからね」
ペットの仕事はご主人様のご機嫌取り。不機嫌にさせるのは職責に反することだ。
そうして雑談しながら歩みを進め、やがて目的地に辿り着く。
「お、シュート! 今日も雑用か?」
「うん、まぁね」
ギルドに入るや否や、他の冒険者に声を掛けられる。
「おいシュート! ギルドのトイレ汚ねぇじゃねえか! ちゃんと仕事しろ!」
「おい“雑用”喜べ! 俺が道にゴミ捨てといてやったからな、じきに依頼が来るぞ!」
「ギャハハっ! お前親切過ぎるだろ!」
明らかに侮蔑を含んだ視線、蔑称。完全に侮られている。
「……殺す?」
「穏やかじゃないね……」
ご主人様のバイオレンスボケ、あの暴力を見た後だとまた違った味がするね。
「別に害も無いし、ほっとけば良いと思うよ」
「お優しいことね」
ご主人様は何故か満足げに微笑んで掲示板へと向かった。
残された俺は、別に興味も無いけど周囲の冒険者を何となく観察していて、気付いた。
───ブレスレット?
皆、一様にアクセサリーを身に付けている。
最近流行りのファッションなのか。身嗜みの整わない冒険者達には、いまいち似合っていない。
「おはようございます」
「ん? あぁ、おはよう」
ご主人様と入れ替わりで女性に声を掛けられた。
「今日も散々な言われようですね」
「まぁね。もう慣れたけど」
「でも、シュートさんが悪いんですよ?」
彼女はシーナ。茶髪を後ろでお団子にした美人さんのギルド職員だ。
「面倒臭がって昇格申請なさらないから」
「あぁ、またその話か……」
「早く書類を出して下さい。Cランクくらいには捻じ込めると思いますので」
「剛腕だね……でも、いいよ。ランクとか、正直興味ないんだ」
この世界の人間は、その実力によってランク付けされている。当然、ランクが高ければ報酬の高い依頼も受けられる。
確かダンジョンに潜入できるのはCランクからだったはず。
「そう言わずに。シュートさんが悪く言われるの、はっきり言って気分が悪いんです」
「んー、俺が嫌われてるのって、ランクだけが原因って訳じゃないからなぁ」
俺は使役可能な魔力が少ない。一般的に、魔力の少ない者は戦闘で不利だ。
だから、舐められる。
それに俺は自分でもびっくりの男前だからね、目の敵にされて当然なんだ。人気者って大変なんだよ本当。
「そうですか……でも、考えておいて下さいね」
「気を遣わせて悪いね」
「いえ、仕事ですので」
言って、自嘲気味に笑うシーナを見て、俺は話題を変える。
「ねぇ、皆付けてるブレスレット、流行ってるの?」
「……そうですね。何でも、付けるだけで魔力の出力や操作性が向上するみたいですよ?」
「へぇ……」
───付けるだけで、ね。
魔力は生命力の象徴というかそのものというか、道具で無理矢理引き出して良いものなのか気になるな……ま、俺には関係ないか。値段も安くなさそうだし。
そんなことより、俺が話題を変えた時のシーナの反応の方が気になる。
───余計な地雷踏んじゃったかも。
その懸念は、
「……なんかあった?」
シーナの表情を見て、確信に変わった。
「シュートさんに隠し事はできませんね」
「神に隠し事は通じないらしいよ」
「ふふ、何ですか、それ」
少し表情が柔らかくなったシーナは、意を決したように話してくれた。
「実は……」
曰く、彼女の弟の様子が最近変らしい。
街のチンピラと交流していたり、高価なアクセサリーを持ち帰ってきたり。
「それって、皆付けてるあの?」
「はい……学生の手の届く代物ではないはずなのですが……」
やっぱ高いみたいだ。
「学校の成績も落ちているようなんです。真面目な子なのに……」
「ふーん、調査の依頼とか出してみれば?」
「いえ、それは公私混同になってしまいますし……高い報酬を用意することもできませんし、ね」
言って、シーナはまた自嘲気味に笑った。
彼女は幼い頃に冒険者だった父を亡くし、そこから女手一つで育てられたらしい。
成長してギルド職員となった彼女は、今や一家の大黒柱的な存在なのだろう。学校に通う弟の学費を考えても、自由に使えるお金に余裕は無さそうだ。
「ふーん……」
弟の様子。別に普通のことだと思う。
年頃の少年は非行に憧れるものだし、交友が広いのを一概に悪いとは言えない。
ブレスレットについては、盗み……とかが連想されるけど、決め付けるのは失礼だろう。情報が足りない。
「身内のことなので、自分でなんとかできれば良いのですが……」
「そっか」
「ちょっと良いかしら。僕、この依頼を受けようと思うのだけど」
考えていると、依頼書を持ったご主人様が戻ってきた。
「かしこまりました。すぐにサイン致しますね」
「あなたはどの依頼を受けるか決めた?」
「……え?」
ご主人様の質問を受けて、考える。もしかしてチャンスなのでは?
「あぁ、俺は彼女の依頼を受けるよ」
「……はい?」
手続きのため、カウンターへ移動しかけたシーナを指差す。
「そう。じゃ、別行動ね」
「え、シュートさん?」
「弟くんの調査、受けてあげる」
彼女には日頃から世話になってるしね。
「ですが……報酬も出せませんし」
「あぁ、それなら」
困った表情のシーナに、俺は笑って告げる。
「トイレ掃除の依頼、取っといてくれると助かる」
「そんな、シュートさん!」
「ちょっと、手続き。早くしてくれる?」
「え、あ!」
二人を置き去りに、俺はギルドを後にした。
───暴力クエスト回避! 単独行動最高っ!!
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