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82話 俺はトビー


 俺はトビー。うだつの上がらない三十路の冒険者だ。


 俺の人生の分岐点は、十歳の時。女の子に話しかけて、言われた言葉。


『話し掛けて来ないでよ、ブス』


 酷過ぎやしないか?


 確かに俺は、紛れもなくブスだ。正真正銘、正統派のブス。両親もブスだから、血統書付きのブスである。


 しかし思春期の俺にとって、その事実は受け入れ難かった。自らの生を恨んだりもした。そうして自然、他人に顔を見られるのを嫌うようになった。


 そんな俺は今、とあるクエストに参加している。


 なんでも、ダンジョンを人工的に作ることに成功したらしい。その完成お披露目会兼、危険度認定調査のクエスト。詳しいことは分からないが、結構重大な仕事らしい。


 開会式は、なんというか、ヤバかった。居並ぶ他の冒険者は実力者揃いだし、観客の数、その熱気も相当なものだった。


 俺、とんでもないところに来てしまったんだなぁ……。


 中でも特別にヤバかったのは、最後に登場した挑戦者。空から飛び降りてくるとか正気の沙汰じゃない。しかもそれというのが、エルフだというのだ。見た瞬間、思った。


 羨ましい……!


 パーティにエルフがいるのもそうだが、相棒の男、俺より表層魔力の出力が少なかった。妙に顔が整っているのも鼻につく。


 つまり、そういうことだろう。


 過剰演出。今回のクエストの主役的ポジション。それが、意味するところ。


 顔採用。許すまじ運営……!!


 俺は、気付いてるぞ。俺の名前がコールされた時だけ、会場の喝采がちょっと少なかったことに……!


 こうなったら、優勝してやる。金も栄誉も俺のもんだ。そして連鎖的に、エルフの相棒だって手に入れてやる!


 そう、意気込んで駆け出したダンジョン。


「トビー、あんたなんとかしなさいよ……!」


 彼女は相棒のムーラン。魔導士だ。


 顔はまぁ、可愛いとブスの間の“癒し系”くらいか? しかしとにかく高飛車で性格がキツかった。


 俺が彼女と組んでいるのは、単に同郷だからだ。高火力魔法をぶっ放すしか脳のない彼女と俺は別に相性も良くない。


 まぁ今はその魔法すら封じられているのだが、ご覧の態度である。お察し。


「下がれ、シエル」


「はい。いいえ殿下。奴は油断なりません。ここは私が先行し隙を作ります」


「……貴様まさか、このクエストの趣旨を理解していない訳ではあるまいな……?」


───儚い夢だった……。

 対峙するのは、“剣王”の異名を持つ実力者。その剣技は折り紙付きだ。これは、色々と諦めないといけないらしい。


 彼らは敵である俺を前に、悠長に作戦を立てている。当然の余裕か。


 向き合っただけで足が震える(・・・・・)程の使い手。ムーランの反応からも、彼我の実力差は明白だった。


「合図したら、出ます。殿下、確実な一撃をお願い致します」


「……もういい分かった、好きにするが良い」


 どうやら作戦は決まったようだ。そして何故か、無防備な女が先鋒らしい。舐められたものだ。


 無論、俺だってこのクエストに呼ばれる程度の実力はある。魔法どころか魔力操作すら満足にできない人間に舐められるのは、少し、気分が悪い。


「───行きます……!」


 シエルが声を発し、一人駆け出す。


「……見事だ」


 “剣王”の“確実な一撃”が俺を捉えたのは、彼女の合図とほぼ同時だった。




☆☆★★★☆★☆




「方針は決まった。先を急ごうか。後の先を狙う、なんて息巻いておいて、間に合わなかったら大恥晒しもいいところだからね」


 俺は出発を促す。


「ふむ。“行きたくない”、と言ったらどうするかね?」


 しかしハウライネは不穏な言葉を口にする。


「文句があるなら相手になるよ。でも、それを避けたいから話を聞いてくれたんだよね?」


 現状、俺達が潰し合うことにメリットは少ない。


 最終的な趨勢は始まった時から決まっているようなものだし、彼らが単独で進むなら、またハウンドの群れに追い立てられて窮地に陥るだけだ。


「俺に文句はない。同盟の件、ありがたく受け入れる」


 薄く笑みを浮かべるハウライネとは対照的に、エルディンはキッパリと言い切った。こういう竹を割ったようなはっきりとした性格は俺も好むところだ。


「決まりだね。じゃあ行こうか」


 言いながら、俺は冷や汗をかいていた。ふと視線を送ると、ハウライネも同様に汗をかいている。


「……時に、エルディン」


「なんだ」


 俺は問い掛ける。聞かなければならないのだ。


「君、結界とか威力魔法とか、使える?」


「無論だ」


 俺の質問に、またもエルディンはキッパリと言い切る。


───前言撤回だ。

 全くもって好ましくない。


「魔法はハリーに任せている。俺が出せるのは、せいぜい火種くらいのものだな」


「なるほど、つまり───」


 俺は、ゆっくりと周囲を見渡す。


 気付かなかった訳ではない。ただ、彼らがなんでもない様子で話していたから、対策があるんだと思っていた。


「───これ(・・)の相手はできないと……」


 視界を覆うスライムの群れ。


「お前の実力は、さっき見た。スライム程度、簡単に蹴散らせるのだろう?」


「おいシュートよ。まさかお主、いやそんなはず、ある訳があるまいな?」


 そう、そのまさかだ。


───エルディン(きみ)も、同じこと考えてたのか……!

 他力本願は身を滅ぼす。


「そうか……こうなっては仕方あるまい。シュートよ」


 ハウライネが口を開く。さすが魔導士、その明晰な頭脳でもってこの状況を打破し得る策があるというのか?


「お主、エルディンの斧を壊せぬか?」


「抜け駆けはさせん!」


 なかったようだ。


「走るよ! このままだと囲まれる!」


 言って、走り出す。


「剣じゃ有効打にならないね……」


 そして前方のスライムを剣で払い除ける。物理耐性の高いスライムは、斬ってもすぐに蘇生してしまう。


「二人とも頼むぞ! 我は、ち、“痴女”などと呼ばれるのは嫌ぞ!」


 ハウライネは悲鳴を上げる。


「むん」


 エルディンはデカ過ぎるハルバートを振り回してスライムを両断する。その無表情に安心を覚える。何故なら約一名、この状況で微笑みを湛える人物がいるんだ。


───『楽しくなってきたな』

 奴には少し、エルディンの仕事人仕草を見習って欲しいと心底思った。

 

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