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79話 こっちの方が強そうだわ


「うぉおおりゃぁぁあああっどけぇぇぇえええ!!」


「ゲゲゲゲ」


 目の前にはゴブリンの群れ。


「右は任せて!」


「馬鹿! 君は索敵だけでいい!!」


 俺は剣を抜き放ち、横薙ぎに一閃する。


「グゲっ……!」


 二体のゴブリンを一撃で仕留め、続け様に再度剣を振るって三体目を始末した。


「前に出ないで! 自分の立場、分かってる!?」


「はっ!! ……えぇもちろんよ!」


「分かってないよね!?」


 見ると、リアムはナイフで二体のゴブリンの首を斬り裂き、残る一体を蹴り飛ばしていた。


「下がってよ! “役割”があるんだから!」


「僕が前衛よね?」


「んんな訳ないだろ!」


 リアムは真っ白のドレスに身を包み、両手に鎖の無い手錠を嵌めている。


───“魔力”は使えないはず、なんでそんなに動けるんだ……!

 鍛え方が異次元過ぎる。


 リアムの手錠には“魔力変調”の魔法式が組み込まれている。“奴隷の腕輪”の実用版だ。


 魔力は属性毎に特性が違う。だから、扱い慣れた魔力じゃないと魔法は使えない。


 リアムの内包する魔力は膨大だが、変質を繰り返すそれで身体強化など出来ない。当然威力魔法も、結界すらも使えない。


 そしてリアムの外見的な変化はもう一つ。頭部を押さえ付ける髪飾り、カチューシャを身に付けていた。ヅラがズレないのは髪飾りのおかげだ。


 しかしあの運動量、いつか外れやしないかとヒヤヒヤする。


「条件が変わったんだ! 丸腰で前衛やる奴があるか!」


「いいえ、僕は約束を守るわ。それに、こんな機会滅多にないもの。良い鍛錬になるわ」


「脳筋過ぎる……危ないっ!」


 俺は咄嗟に手を伸ばしてリアムを引き寄せる。瞬間、リアムの足元の窪みから間欠泉が吹き出した。


「……助かったわ」


「気を付けてよ」


 生物と違い、自然現象(・・・・)である間欠泉は予兆を見逃すと回避が(・・・)困難(・・)だ。


───服が溶けてソレがポロンしたら……どうするつもりなんだ……!

 細心の注意を払ってほしい。


「そろそろ行くわよ」


「はぁ……うん」


 リアムの声を聞き、進路に目を向ける。


 “地上型(アーティフィシャル)ダンジョン”と聞いていたが、その実態は自然のそれと見分けが付かなかった。壁も地面も天井も、土や岩でできている。


 パームの光がなければ視界も確保できない、暗闇の洞窟だ。


 違ったのは、その入り口。


───まさか、ステージから直接“転移”できるとはね。

 俺達は、転移魔法によりぞれぞれダンジョン内の別のポイントへと転送された。


「進むしか、道はないからね」


 よって、戻っても出口は無い。成功するか、失敗するまで進むしかないんだ。


「……別れ道だね」


 二股に分かれた進路を前に、呟く。


「えぇ、右に行きましょう。こっちの方が強そう(・・・)だわ」


「あ、おい!」


 言って、俺の返事を待たずにリアムは駆け出した。


 こんな事なら、嘘でも“俺が前衛をやる”って言っとけば良かったよ……。




☆☆☆★☆☆☆☆




「おぉーっとシュート選手! 早速魔獣を三体討伐!! 三ポイント獲得だ!!」


 スクリーンに映し出される光景に、スタジアムは沸いていた。


「そしてなんとリアム選手!! 魔法を封じられてなお同じく三体の魔獣を討伐!! あり得ない!! 後衛職の討伐にポイントが付かないことは、説明した通り! 何故彼女はあんなにも好戦的なのか!!」


 ポイント加算の魔法式が組み込まれているのは、前衛職の武器だけだ。よって、後衛職の女冒険者がいくら魔獣を討伐しようが、ポイントにはならない。


「そして彼女が手にしているのは、運営(われわれ)が認めた剥ぎ取り(・・・・)用の(・・)ナイフ(・・・)! 武器ではない!!」


 リアムはドレスへ着替える際、運営に二つの持ち物を用意させた。


「彼女がこのナイフの携行を要求した時、何と思った!? 無駄な殺生を行わない森の賢者と敬ったか!? それとも素材にがめつい守銭奴と蔑んだか!? だが真実はそのどちらでもない!!! 彼女は一人の気高い冒険者だったのだ!!!!」


 一つはカチューシャ。カツラ固定用の髪飾りだ。そしてもう一つがこのナイフ。


「おおっとまたもリアム選手! 見事な体捌きで魔獣を蹴散らして行く!! “森の麗人”は体術もお手のものということかー!? この勢い、誰にも止められないー!!」


 次の瞬間、スクリーンに間欠泉を躱す二人の様子が映し出された。


「おっと危ない! 敵は魔獣だけじゃないぞ! ……おいおいオーディエンス、何を悔しがってるんだ? クエストはまだ、始まったばかりだ!!」




☆☆★★★☆★☆




 天然物と見分けが付かない人工の洞窟を深部に向かって進む。


「……“ヘヴィベア”ね」


 そして、デカい熊と出くわした。


「よし、逃げよう」


「いいえ、仕留めるわ」


「ねぇ君本当何を考えてるの……」


 リアムは飛び出し熊との距離を一気に詰める。


「はっ!!」


 奴は回し蹴りを繰り出すが、熊はびくともしない。


 その体重は二トンを超える。強化魔法も無しに物理で有効打は望めない。


「チッ!」


 俺は舌打ちしつつ剣を抜き、駆け出した。


 俺だけ逃げても仕方がないからね、リアムが諦めるまで付き合うしかないんだよ全く。


 そうして改めて敵を観察する。


 二メートルを越える巨体、ギチギチに引き締まった筋肉、鋭い爪。


 恐ろしい。


 ヘヴィベアがCランクに属するのは、魔法耐性が低いからだ。火で炙れば簡単に討伐できる。


 でも肉体強度はかなり高く、下級の冒険者にとっては十分強敵。


───せめて俺が、“火種”だけでも出せればなぁ……。

 俺は熊の単調な攻撃を躱しつつ、剣を振るって手傷を与える。


 熊がリアムを攻撃している時が最も大きな隙だ。そこを突いて斬りつける。しかし、一向に状況は好転しない。


───さて、どうしたもんか……ん?

 俺は通路の奥からこちらに接近してくる複数の魔力反応を捕捉する。


───マジかよ、こんな時に……!

 人間らしき反応が二つ、そして魔獣らしき反応が八つ。


「リアム!」


 俺は名を呼びつつ熊の足を斬りつけて隙を作った。


 俺の意図を察したらしいリアムが後退するのを確認する。


「……どうする?」


「えぇ……分が悪いわね」


 そんな事は戦う前から分かっていた。わざわざ試すのをやめて欲しい。


「けれど、時間稼ぎは十分でしょ?」


 しかし、何か考えがあるらしいリアムは口元に笑みを浮かべる。


───マジで言ってるの?


───『あぁ。概ね予定通りだ』


あちらも(・・・・)梃子摺ってる(・・・・・・)ようだし(・・・・)、少し手伝ってあげましょう」


 リアムの魔力探知は、俺の数倍広範囲を索敵可能だ。


『こっちの方が強そう(・・・)だわ』

 その評価が熊に対するものでないなら、存外奴はこのクエストの趣旨を理解しているという事になる。


「まずは、お手並み拝見と行こうかしら」


 次の瞬間、通路の角から複数の魔力反応が現れた。


「……“剛刃”のエルディンか」


 現れたのは、ハルバート使いのエルディン。赤髪の短髪、見る者を萎縮させる鋭い視線。


 二メートル近い巨漢の彼は、今回の挑戦者のうち、武器での攻撃において最も高い破壊力を誇る。


「……エルディン、後ろだ」


「……」


 そんなエルディンを取り囲む八体のハウンドと、彼の相棒の女性。彼女はエルディンの危機を救うべく、手短に警告を発した。


 彼女の正体は魔法の深淵を覗く者、“魔導士”のハウライネ。


 水平線を思わせるホリゾンブルーの長髪、エルディンと並ぶと小柄に見えるが、その実百六十センチを超える美しい八頭身。


 年齢は……分からん。見た目だと二十代半ばくらいかな?


 人肌の温もりを感じさせない白過ぎる肌。魔獣を一瞥で射殺せそうな冷たい眼差しは威厳を放ち畏怖を与える。


 雰囲気はちょっとアリエラに似てる。彼女も成長したらあんな感じになるのかな。


 そして魔法を封じられたハウライネは、大人しく索敵に徹しているようだ。羨ましい。


 そんな彼女の声に応じ、エルディンはハウンドの素早い攻撃をハルバートの柄で弾く。


 狭い迷宮の通路、機動力の高いハウンドの群れ。大振りのハルバート使いには厳しい戦況だ。


 何より、二人はそれぞれの役割を真っ当に全うしている。


 ハウライネはちゃんとエルディンの足を引っ張っているんだ。彼の力量を思えば、もはや担いで走った方が早いのではないかと感じる程に。


「エルディン!」


「……」


 俺はエルディンに向けてハンドサインを送り、真っ直ぐにエルディンに向かって駆ける。そんな俺を迎え討つように、エルディンも駆け出した。


 そしてそれぞれに武器を構えた俺達は、接触もなくすれ違う。


 俺はハウライネを庇ってハウンドを一体始末し、エルディンは巨大なハルバートを振り下ろしてヘヴィベアを斬りつけた。


───足は奪っといた。上手く始末してね。

 どうやら意図は伝わったらしい。


「ほう……どういうつもりかね?」


「自衛を、お姫様。ポイントと引き換えに、あなたを守ります」


 短く言い切った俺は剣を構え、飛び掛かってくるハウンドを斬る。


「我を“姫”と呼ぶか……エルフと番う男は流石豪胆と見えるな」


「気に障った?」


「良い。それより集中せよ。来るぞ」


 ハウライネは状況を理解してくれたようだ。


───“パーフェクト・コミュニケーション”の文字が見えたぞ……!

 作戦は成功か。


 俺達は立場上敵同士。彼女が俺を警戒して不用意に動けば、守り切れない。


 そして丸腰の彼女がハウンドの攻撃を受けて戦闘不能になれば、エルディン共々転移させられてしまう。


 そうなったら俺達は、熊と犬の群れを同時に相手取らなければならない。不可能だ。


 ハウライネが納得してくれた現状、熊はエルディンに任せて問題ないだろう。


「さて、片付けるか……ふぅ」


 俺は、思考を切って脱力する。


───どうでもいい。

 相棒は、二人居る。最悪でもどちらかが俺を止めてくれるだろう。




☆☆☆★☆☆☆☆




「んん何とここで!! 二人の強者による“共闘”だぁぁぁあああ!!」


 スクリーンの中では二組の挑戦者が接触していた。すると彼らは無言のうちに互いの獲物を交換し、膠着しかけた戦場では再び戦闘が始まっていた。


「いくらもやり取りをしているように見えなかったが、二人の間でどのような合意が行われたのか!? まさに以心伝心!! 強者のみに伝わるテレパシーだとでも言うのか!!」




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