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77話 レディース・エェン・ジェントルメン!


「レディース・エェン・ジェントルメン! 歓迎しよう! 諸君、ようこそ世界の転換点へ!」


 ここは、王都“ゴールディエ”。かつて大戦を終結させ、人間の時代を築いた“英雄王”を育んだ土地。


「諸君は今日、新時代の幕開けを目撃するだろう!」


 俺達は、そこで催されるちょっとしたイベントに、ちょっとした挑戦者的な立ち位置で招待された。


「喜べ! 俺達は記念すべき今日この日に! お誂え向きなゲストを招待した!! 歴史の目撃者諸君、心の準備は良いか! イカれたメンバーを紹介するぞ!!!」


 既に会場の熱気は最高潮だ。ぅぷっ。気分悪くなってきた。


「チャレンジャー、No.1! “ハンズ&コリン”ペア!!」


───聞いた名前だね。

 紹介されたのは、有名な冒険者。彼らは爆音のファンファーレに背を押され、スモークと花吹雪に歓迎されてステージに立つ。


「まだまだ行くぞ! チャレンジャーNo.2!!───」


 そして次々にこのイベントを盛り上げる“主役”達がコールされていく。いずれも大陸にその名を馳せる高名な冒険者ばかりだ。


───『大丈夫か? 顔色悪いぞ』


 隣に立つのは、同居人のエルフ。奴の顔を見て、考える。


 俺はあと何度、この身を危険に晒すのか。そして思う。


 もしかしてこれが最後かも、ってね。それは期待なんかじゃなく。


「───さて、ここまで八組のゲストを紹介したが、諸君のお気に召した様で何よりだ。だが!! これから新時代に乗り込もうって時に、彼らを呼ばない訳にはいかないだろう!! チャレンジャー!! No.9!!!」


───憂鬱だよ。


───『何言ってる。人間の好きな“お祭り”だろ? 楽しめよ』


「“ジーニアス&ラズベル”ペアぁぁぁあああ!!」


 二人の冒険者を迎えるのは、会場が割れるのではと心配になるほどの歓声。


「おいおいオーディエンス、盛り上がり過ぎじゃないか? ゲストはまだ、一組残っている! 彼らこそが大本命だ!!」


 そんな会場を眺めながら、俺達は呑気に思考でやり取りしていた。


「彼らはこの王国、“アレクサンドリア”に突如として現れた新進気鋭の“超新星(ルーキー)”! 誰が呼んだ? どこから現れた!? 決まってる!! 英雄(ヒーロー)は、そう、いつだって俺達の声に応え! 遅刻して空からやって来やがるのさ! そうだろ!?」


 司会の男が観客を煽る。そうして一体感を得た会場、居合わせた全員が瞳に期待の色を宿している。


 運営がこのイベントのゲスト、そのトリに、どんな大物を用意しているのか。


───『そう緊張するな。僕を信じろ』

 信じた結果、騙されて俺はここに居る。


「彼らは仲間と共に、たった三人で魔獣の大群に挑み、見事都市の平和を守ってみせた!!」


───そういえば、そんな筋書きにしたんだっけ。

 冷めた思考で過去の自分の提案を振り返る。


 そして溜息を吐いた俺は会場を見下ろした(・・・・・)


「その実力は、“無名”故に未知数! だがそれも今宵明らかになるだろう!!」


 そう、俺達は何故か飛行船に乗り込み、沸き立つ会場を眼下に眺めているんだ。


───『行くぞ』

 同居人の言葉を合図に、俺達は大空へと身を乗り出す。瞬間、支えを失った俺は重力に身を任せ、眼下の会場へ向けて自由落下を始めた。


 そうして大地に吸い寄せられるさなか、俺は思った。


───悪くない人生だった。

 心残りがあるとすれば、真実の愛を見出せなかったことくらいか。


「きっかけは魔獣の群勢か俺達の歓声か、永い眠りから覚め遂にこの地に舞い降りたぁぁぁああああ!! “森の麗人”がぁぁぁあああ!! 帰って来たぁぁぁあああああああああ!!!!」


───またしても、二十歳を迎える前に死ぬとはね。

 しかし、そうはならない。


「レディィィィィイイイイス! エエェェェェェン!! ジェントゥウメェェェエエエン!!!!!」


 地上を目前に、俺の全身は包み込まれる様な浮遊感に覆われ、急激に減速して着陸を果たした。


「チャレンジャー!! No.10!!! “シュート&リアム”ペアぁぁぁぁあああ!!!」


 そしてステージに降り立った瞬間、これまでの演出がリハーサルだったのかと疑いたくなる程強烈な爆発音とスモーク、大量の花吹雪とファンファーレによって手荒く歓迎された。


───脳みそまでぐちゃぐちゃに押し潰されそうだ。

 鼓膜は耳栓により保護できた。


「以上、二十名が大陸初の“地上型(アーティフィシャル)ダンジョン”に挑む英雄達だ!」


 俺は、かつてない程に緊張している。表情筋もビキビキに固まっていた。


 決死のノーロープバンジーから生還した瞬間に、鼓膜が粉々になりそうな音圧に晒されたんだ。表情なんてない。


「リアム、大変だ」


「! どうしたの? どこか悪い?」


 しかし会場は沸いている。その視線の多くはリアムに注がれているが、それだけではない。


「どうやら遂に、世界が俺の魅力に気付いちゃったらしい」


「……そう。本調子のようで何よりだわ」


───ふ……ここでも俺はモテてしまったか。

 良い感じだ。ちょっとずつ余裕取り戻してきた。




☆☆★★★☆★☆




「静粛に! これよりルールを説明する!!」


 俺は耳栓を外し、マイクを握る司会者の声に耳を傾ける。


「俺達はここに二十名の冒険者を招集した! いずれも各地で名を馳せる、腕利きの実力者だ!!」


 聞いて、見回す。知れた顔ぶればかりだ。俺達を除いては。


「諸君、これは依頼(クエスト)である! 完成した“地上型(アーティフィシャル)ダンジョン”に潜入し、最奥に隠された秘宝を持ち帰って欲しい! 用意された宝箱は、ただ一つ。争奪戦だ!!」


───ま、当たり前に場違いだね。

 萎縮する俺の心境に反して会場の熱気は凄まじい。なにやら先日の魔物騒動の結果、俺達は英雄視されているらしい。


 考えるまでもなく情報屋(ルーニア)の仕業だろう。壮大なデマを流されている。根拠はケインの言葉。


『“街の英雄(・・・・)”にそう言って貰えるのは光栄っスけど』

 誇大広告。


「ダンジョン潜入に際し、諸君には男女二人でパーティを組んでもらう! そしてパーティには、“役割分担”が必要だろう!」


 役割分担、か。前衛と後衛みたいな話かな?


 集まった冒険者達を見渡す。いずれも男女ペアを組んでおり、男性は武器を手に先陣切って切り込む前衛職の戦士達ばかり。


 それをフォローする後衛職として、女性のパートナーが選ばれていると推察できる。


───実際にパーティを組んでるコンビもいるみたいだね。

 俺達もそうだ。前衛と荷物持ちという混迷極まる役振りのパーティ。


「前衛諸君には、武器に魔法式を付与させてもらう。無論、性能に影響を与えるものではない。これは、討伐数を点数化して換算するものだ! スクリーンを見ろ!」


 言って、司会者はステージにデカデカと設置されたスクリーンを指し示す。


 やがてそこに、ダンジョン内部の様子が映し出される。デモンストレーションだろうか。程なく一人の剣士が画面に現れた。


 そして、一体のゴブリンが現れる。


 剣士は構えた剣を大振りに一閃、一撃でゴブリンを斬り伏せる。


 すると次の瞬間、スクリーン上部に表示された数字が、0から1へと変化した。


───すごい複雑なことしてるね……。

 技術者の努力に感嘆した。


「倒した魔獣によってポイントが加算されるシステムだ! ダンジョン内では“討伐等級(ランク)”EからCまでの魔獣が確認されている!」


 察するに、人工ダンジョンは出現する魔獣を事前に設定出来るのだろう。


 魔獣の生態全てを組み込んだ魔法式。素人の俺には到底計り知れない。


「ランクEの魔獣で一ポイント、Cが三ポイントだ。迅速な討伐を期待する!」


 ちなみに、ゴブリンの討伐等級はE、ハウンドがCだ。要するに雑魚。


「次に、依頼(クエスト)の達成条件について確認しよう!」


 続く説明を要約すると、以下の通りだ。


 制限時間は一時間。参加者のいずれかが時間内に宝箱を開ければ、その時点で依頼(クエスト)は終了。


 宝箱は、千ポイント(・・・・・)


 そして終了時点の得点により、優勝者を決するという流れ。


「……理解できたようだな。流石は一線級の実力者達だ」


 司会の男は笑みを深める。


 目の肥えた観客を楽しませるのに、ランクCの魔物では力不足。せっかく集めた、各地の冒険者達にとっては役不足だ。


───“宝箱争奪戦”、それに伴う“冒険者同士の戦闘”がイベントの目玉、ってとこか。

 運営側の言外の意図を察する。我の強い実力者を集めておいて、「仲良く協力してクリアして下さい」なんてことにはしないだろう。


 となれば、並び立つ他の挑戦者は皆、敵対関係になるということだ。


「次に、クエストの“失敗条件”の説明を行う!」


 通常、クエストの失敗といったら敗走もしくは死だ。けど今回は、明確に条件が設定されているらしい。


 ま、死ぬまで戦わせる訳にもいかないしね。


「一つ! 戦闘不能状態に陥ること!」


 妥当。


「二つ! 前衛職の武器が折れること!」


 まぁ妥当。


「三つ! ……これを説明する前に、後衛諸君の役割を確認しておこう」


 言って、司会者は俺の抱く最大の疑問に触れた。


 討伐ポイントは武器に仕込んだ魔法式で加算する。


 つまり、魔法で(・・・)戦う(・・)後衛職(・・・)に役割(・・・)がない(・・・)んだ。


「諸君はこちらで用意した衣装に着替え、この(・・)腕輪を(・・・)装着(・・)して(・・)もらう(・・・)!」


 しかし、今理解した。


「この腕輪に付された魔法式は、”魔力変調(・・・・)”だ」


 “魔力変調”。対象の表層魔力をランダムに変質させ、魔法の行使を阻害する技術。


───……良い度胸だね。

 苦笑が漏れる。


「これにより、諸君の魔法は制限(・・)させて(・・・)もらう(・・・)!」


 運営は、呼び付けた腕利きの後衛職達を、パーティの足手纏いに(・・・・・)する(・・)と言う(・・・)


───失敗条件その一、「戦闘不能状態に陥ること」、か。

 つまり、前衛は魔法の使えない後衛を守りながら、ダンジョンを踏破しクエストを達成しなければならないということ。


───通りで、綺麗どころを集めたなと思ったんだ。

 これは、色々な意味で熱い展開が期待できそうだ。観客にとっては、ね。


───『面白いわね』

 何故、君は(みなぎ)っているのか。


 魔力変調の腕輪と共に紹介された衣服は、明らかに女性用のドレス。言っとくけど、俺に女装癖とかイベントでふざけるユーモアはないからね?


 あれ、君が着るんだよ? 大丈夫? その認識で合ってるよね?


「続いて、ダンジョンの各所に張り巡らされたトラップについて紹介しよう」


───あれ、失敗条件その三は……?


 この時俺は、気付いていなかった。運営の抱く凶悪な作意と、そこから生み出されるトラップの脅威に。


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