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51話 女神降臨


「あ、起きたね」


 ダンジョンを無事脱出した俺達は、ギルドの支部の一室を借り、手当を行っていた。


「お加減は如何ですか? お姫様?」


「……何を言っている」


 目覚めたのは、ダンジョンで昼寝していた騎士団長。彼はまだ状況が飲み込めていないらしい。


「よく寝てたね。運ぶの大変だったよ、君デカいからさ」


「……そうか」


「まぁ運んだのケインだけど」


「……無理をさせたな」


「ま、感謝する事だね」


 俺は短く返答する。


「ケインには俺達の回復薬を分けたよ。薬屋エルフ特製の超・強力なやつをね」


 昨日買った回復薬の威力は凄まじかった。取れた腕とかも再生するんじゃないかと疑うレベル。ケインの傷は魔力によって回復が阻害されていたけど、それも関係なかった。


 医学の勝利だね。いつだって人類は自然の脅威に打ち勝ってきたんだ。


「……恩に着る」


「良いよ。ただ、あれはしばらく眠れないだろうね」


「……それは困る」


 回復したケインは、明らかな興奮状態となっていた。あの状態が続けば、夜もなかなか寝付けないんじゃないかな。


「して、ここは、支部か?」


「うん、そうだよ。調査は無事に終了、今ケインが報告書をまとめてる」


「そうか」


 レイスは納得したように頷く。


「それで、魔族は倒したのか?」


「あぁ、それに関してはね。あっちに聞いて貰おうかな」


 言って、俺は扉の方を指差す。


「あら、起きたのね」


 扉を開け、現れたのはリアム。


「魔族なら、僕達が倒したわ。騎士様が守るべき市民より先に倒れるなんて、怠慢なんじゃないかしら」


「お、おい、言い過ぎじゃない?」


「不純物が……貴様らが、足手纏いが居なければ、より迅速に討伐できたはずだ」


「騎士様が負け惜しみだなんて、醜いわね」


「ちょ、ちょっと……そんな言わなくても……」


 険悪な雰囲気が部屋を満たした。その時、


「失礼します」


 女神(シーナ)降臨。


「報告書は受理しました。依頼(クエスト)の達成、おめでとうございます」


「そっか。ケインは?」


「買い出しに出られましたよ」


 良かった。彼女が来たおかげで話題が切り替わりそうだ。


「そうか。では話は終わりだな。出て行け」


「何言ってるの、まだよ。報酬、しっかり払って貰わないといけないわ」


「まぁまぁ……」


 甘かった。全然話が終わらない。


「ここに記載した金額、指定口座に振り込んでおいてね」


 言って、リアムは紙を手渡す。盗み見ると、そこには二千万ペイの請求が記されていた。


───吹っ掛け過ぎでは!?


「金の亡者か……所詮は不純物。地位の低い冒険者は心まで貧しいと見えるな」


 レイスは冷たく言い放つ。


「あなたねぇ……」


 隣に立つ笑顔の同居人が怖い。


「おいレイス、流石に言い過ぎだろ……」


「お言葉ですが!」


 俺が場を取り為そうとした時、一際大きな声を出したのは意外な人物だった。


「お二人は決して心の貧しい金の亡者などではありません」


「し、シーナさん?」


 口を開くのは、茶髪の美人。敏腕で知られるギルド職員だ。


「リアムさんはまだ登録して日が浅いですが、その実績には目を見張るものがあります。彼女はほとんど毎日森に出て依頼をこなしているんです。危険が伴う依頼(クエスト)を、毎日です。並大抵の事ではありません。これはそのまま彼女の実力を裏付ける事実に他なりません」


 彼女は淡々と手続きを踏む様に話す。


「また、討伐依頼の失敗は未だ一件も報告されておらず、冒険での負傷報告もありません。低級でありながら彼女の自己管理能力、状況判断能力は全冒険者が模範とすべき美点です。加えて言うなら、達成報告は尊大になりがちですが、彼女のそれは実に簡潔でいて適切。謙虚な姿勢は依頼主からも好感を持たれています」


 へぇ、そうなんだ。


「シュートさんについても同様です。単独での華やかな実績こそありませんが、冒険者に敬遠されがちな調査、清掃、採集の依頼を進んで受けており、その姿勢は複数の依頼主から指名で依頼される程の信頼を得ています。また、彼は魔獣の生態や薬草についての造詣が深く、他の冒険者パーティからサポートを依頼された際に依頼(クエスト)達成に大きく貢献した実績があります」


 なるほど、すごく過大評価されてるね。


「お二人共に依頼(クエスト)外での魔獣の討伐、野盗拿捕の実績があり、治安維持にも貢献しています。また冒険者同士や民間人とのトラブルの報告、苦情も一切なく、揉め事となった際も最小限のダメージコントロールで場を収めています。ならず者、無法者と揶揄されがちな冒険者ですが、彼らは高い倫理観と卓越した技術を併せ持った当ギルドが誇る冒険の専門家(プロフェッショナル)です!」


 シーナは語気強く言い切る。


「レイスさん」


 そして口を半分開けて圧倒される騎士団長に対し、一切物怖じせずに詰め寄った。


「先の発言、撤回して頂けますね?」


 よく分かったよ。彼女(シーナ)が、怒ってるって事がね。


「……そうだな」


 我に返ったレイスは、神妙な表情で頷く。


「シュート、リアム、非礼を詫びる」


 そこに先程までの侮蔑の色は無い。


「そして礼を言う。貴様らのおかげで、優れた部下を失わずに済んだ」


 言って、レイスは深く頭を下げた。


「ありがとう」


 その姿を見て、リアムは溜息を吐いた。


「えぇ。報酬、期日を守って支払ってね」


 そうして、妖しく微笑んだリアムは部屋を後にした。




☆☆★★★★★☆ 




「ご苦労様だったにゃ」


 部屋にレイスを残し、支部の受付に顔を出した俺を迎えたのは、やはりというか猫耳少女だった。


「依頼は無事達成したよ……満足かな?」


「それは良かったにゃあ。シュー君の顔を見れたし、あたしは満足だにゃ」


「そっか。で? こんな田舎町まで、今日は何しに?」


「仕事だにゃあ」


「へぇ……情報屋も大変なんだね」


 情報屋の基本姿勢は、「待ち」。コイツ、また何か企んでるな。


「そうだ」


「どうかしたかにゃ?」


 そっちがそのつもりなら、


「君に頼みたい事があるんだよね」


 こっちも一手、予め布石を打っておくとするか。


「何かにゃ?」


 予防線。弱者にはお誂え向きな思考だね。


「……じゃ、頼んだよ」


「にゃ、それくらいなら問題ないにゃ」


「それくらい……か。じゃあ俺は宿に帰って休ませて貰うね」


「あ、シュー君」


 踵を返した俺を、猫耳少女は呼び止める。


「“それ(・・)”、カッコいいの下げてるにゃ?」


「……っ! 分かる!?」


 言いながら考える。


「そうなんだよ! モデル“勇者・アレックス”、たまたま見つけたんだ! すごいだろ!?」


「にゃはっ! それは良かったにゃ。大事にすると良いにゃ〜」


 彼女は、そういう存在(・・・・・・)であると。


「本当はもっとじっくりと見せびらかしたいんだけど……」


 俺は背後に気配を感じて中座する事を決める。


「にゃ〜、それは残念だにゃ」


 なおも妖しい笑みを浮かべる猫耳少女。


───“大事にしろ”、か。

 今度会ったら盛大に自慢しよう。


「じゃ、俺は宿に戻ってるから」


「えぇ、そうしてちょうだい」


 案の定、背後から声が掛かった。振り返ると、薄く微笑む同居人が居た。


───……手、出すなよ。


───『心配するな』


「あなたとお話ししたいと思っていたの」


「にゃ? あたしとかにゃ?」


「えぇ」


───『仲良くするさ』


「僕ともお友達になってくれないかしら」


 同居人の不敵な笑みを後目に、俺は支部を後にして宿に戻った。


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