49話 これはご馳走だぁ
「天庭一刀流───」
呟きと共に魔力を解放。
瞬間、激しい光が暗闇のダンジョンを明るく照らす。
目を頼りに生活する者は、その光に水晶を灼かれた事だろう。しかし、それは長くは続かない。
「───“暁光”」
型は、先程までと同じ居合い。しかし、先程のそれより遥かに強く踏み込み、鋭く剣を振り抜き、迅く駆けた。
「……ふぅ」
息を吐く。
この空間にいる化け物は、先の一閃で全て仕留めた。通路の奥にはまだ気配があるが、深追いは禁物だろう。部下の人命が第一だ。
魔力を探る。リアムが近づいてきているようだ。一度体制を立て直す必要がある。
「……ん?」
ふと、周囲の化け物の骸に違和感を覚えた。
斬り伏せた骸は、絶命と同時に霧散し始めていた。恐らく闇の魔力特性、“廃能”に起因する現象だろう。
他の魔力を無力化して取り込むその特性は、絶命すると自らの魔力すら無力化し始めて自壊してしまうのだ。
結果、素材はおろか血の一滴も残らない。それが、文献に記録された魔族及びその眷属である魔物の持つ魔力特性である。
だが、だとするとおかしい。
霧散した魔力は生命の持つ意志から解放され、この空間に充満し漂っているはずだ。
「……まさか」
私はこの化け物を魔物と仮定した。そして、魔物は“眷属”だ。つまり、それを生み出した“宿主”が、同時に存在する。
周囲の魔力の流れを注視する。やはりおかしい。気化した魔力がただ一点、通路の奥へと吸い寄せられている。
「なんだ……騒がしいと思ったら人間か」
そして、声が聞こえた。聞くに耐えない慟哭ではない。それは意味を持った言葉だった。
「……新手か」
「やぁ人間、僕はマリウス。四十四柱序列四十位だよ」
浅黒い肌、引き締まった肉体、頭部の角。
間違いない。魔族だ。
───不味いな……。
ケインの蘇生に魔物との戦闘。こちらは魔力を随分消耗している。
しかし、マリウスと名乗った魔族に疲労は見られない。それどころか……
「貴様……食ったのか」
「うん、そうだよ。君達の言葉で言うと、“非常食”って表現が近いかな?」
やはりこの魔族、魔物の骸から魔力を吸い上げていたらしい。
魔族は他の生命を食ってその知能や魔力を奪い、成長する。
「共食いとは、悪趣味だな」
「はは、そのために生み出した眷属だからね。人間は違うの? 随分と数を増やしてるみたいだけど」
悠長に話すマリウスの姿勢は、自然体そのものだ。警戒心を感じない。
しかし、隙が無い。
相変わらず魔力を放出しない相手、読み合いなど通用しないか。
「さて。話はこれくらいで良いよね。僕今お腹いっぱいだからさ」
瞬間、殺気を感じて剣を抜く。
「食後の運動に付き合ってよ」
重い。
突き出された手のひらを剣で受け止めるが、それ以上一ミリも押し込めない。
「……悪いが、遊びに付き合ってやることはできん」
剣を引き、足を強化する。
そして斜め前方への踏み込みでマリウスの背後を取り、振り向き様の一閃で首を狙う。
「民に仇なす存在を見逃す訳には行かない」
「……速いね」
しかし剣を振り抜いた先に、マリウスの姿はなかった。
「こっちから頂こうかな」
マリウスが一直線に向かう先。そこには手負いのケインが座り込んでいる。
「……っ! 来いっス!」
ケインは気丈に叫ぶが、実力差は明白。
「……そっちは勧めんぞ」
「はは、負け惜しみ言ったって遅い遅い」
次の瞬間にはマリウスの爪がケインの眼前に差し迫り、
「───邪魔よ」
「ゔっ!!」
しかし届くことなく逆に顔面を打ち抜かれた。
吹き飛ばされるように宙を舞ったマリウスは、壁を砕いて動きを止めた。
「お困りの様ね、騎士様?」
声の方に目をやる。
火と錯覚する程の濃密な魔力を揺らめかせ、妖艶なエルフは姿を現した。
☆☆☆★★☆★☆ ★
───不味いな、さて、どうするか。
騎士二人が対峙していたのは、やはりというか魔族だ。
考えながら、魔族を蹴り飛ばした足を見る。
───喰われたか。
血が流れていた。
僕は常時結界を全身に展開して保護している。その結界を破り、脛の皮を食いちぎられた。
それも、蹴られながら、あの一瞬で。末恐ろしい力だ。
「……リアムか」
剣聖の呟きがはっきりと聞き取れる。僕は耳も良い方らしい。
最近はシュートの思考に邪魔されて聞き分ける事が困難になっていたが、今はそんな事も気にしなくて良い。実に爽快だ。
「退がってて。というか寧ろ、退却してくれた方がありがたいのだけど」
「敵前逃亡など有り得ん。貴様こそケインを連れて退がれ」
「あら残念。だったら共闘しかないわね」
やはり剣聖とは息が合わない。
人間の「対抗心」。理解出来るが合理的ではない。そして、
───この魔族……デカいな。前の魔物の十倍はあるか。
敵は強力だ。小柄だが、内包する魔力量……存在感が以前遭遇した魔物と段違いだ。
つまりこれは、魔族固有の特性。文献の記録が正しいとすれば、何かを喰ったということだ。
ドラゴンでも踊り食いしたのか、それとも共食いか……。
「助言よ。魔力探知は切った方が良いわ。“目”で見切らないと簡単に裏をかかれるからね……騎士様には必要なかったかしら?」
「……いや、寧ろ必要だった。無知故に部下を手負いにしてしまったからな」
「それは災難ね」
言いながら、最後に剣聖の魔力を観察して、探知を切る。
外傷なし。でも、それなりに消耗はしているようだ。
相手は魔族。再生能力が厄介だが、こちらは長期戦を望んでいない……強烈な一撃で一気に仕留めよう。
そのためには、
「騎士様は、“光”の魔力を使えるのよね?」
“光”の魔力は、“闇”に対しては最強と聞く。
「あぁ。攻撃には向かない魔力だがな」
光の魔力は、強化と蘇生が得意な補助向きの特性だ。
強化ができるなら、戦闘向きなのでは? と思うが、間違ってはいけない。
それは、敵の魔力すら平等に強化してしまう。
だが、例外もある。
「ではそれを全開にして、最大威力の一撃を食らわせてちょうだい」
闇の魔力特性は、廃能。強化されれば自壊する。
古い文献には、魔族との戦闘についての記述も見られる。そこに記されていたのは、“聖剣”の存在。
光の魔力、天使の祈りを付された剣。それが魔族に対する最強にして唯一の武器だった。
天使の血を引くと噂される剣聖。そんな彼の魔法なら、トドメの一撃になり得るだろう。
それに、
───剣聖の本領にも興味がある。
彼の実力が分かれば、人間社会の強者のおおよその天井が測れる。
「指図するな」
「やらないなんて言わせないわよ。僕が隙を作るわ。トドメはお願いね? あと……ケインと言ったかしら?」
「は、はいっス!」
名を呼ばれ、背筋を伸ばす青年に指示を出す。
腹部に傷がある。痛みを我慢しているのだろう、表情は険しい。
「あなたは休んでいていいわ。でも、邪魔にならないように自衛はしてね」
「わ、分かりました!」
「……悪いが、ケイン。タメが要る。援護を頼む」
「はい! 任せて下さいっス」
言って、剣聖は腰を低く構え、剣の柄を握ると魔力を練り始めた。そこには一切の隙も無い。
「ふふ、さて……」
それを見届けて、再度魔族と対峙する。
「……ねぇ、作戦会議、終わった?」
「えぇ。待ってくれるだなんて、親切ね」
「うん、楽しみたいからね」
魔族は嗤う。
「人間二匹、エルフ一匹かぁ……これはご馳走だ」
「そう、遠慮はいらないみたいね」
僕はほんの少し、魔力を解放する。
「まずは僕と遊んで貰おうかしら」
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