表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結婚詐欺なら間に合ってます!〜ステゴロ最強系男の娘エルフに騙された俺は、下僕犬にジョブチェンジさせられた挙句トラブル頻発して命を脅かされています〜  作者: 来世
第二章 人体力学の極意

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/120

48話 結界ニート


 この世界での“勇者”の定義は実に曖昧だ。


 倒すべき“魔王”どころか魔族そのものが滅ぼされて早千年。その称号の価値も揺らいでいる。


 大陸には百を越える人間の国々。規模も文化も様々だが、共通する価値観もある。


 その一つが、「自らの国が一番である」という認識だ。多くの国の首都が、「一番」の意味を冠する名で呼ばれている。


 実に馬鹿げていて人間らしい思想だ。


「“世界の名剣シリーズ”は、各地の勇者達の愛剣を模した観賞用の製品(みやげもの)だ。しかも!!」


 そして同様の理由で、“勇者”は各地に存在する。


 それは“最強の冒険者”に与えられる称号。最強が一人などと、誰が決めた? とでも言いたげな実情。


 そんな矛盾がまかり通るのだから滑稽だ。


「この剣は、モデル“勇者・アレックス”!」


 そんな有象無象の勇者の中で、このアレックスという男は異彩を放つ存在だ。彼はその実力で、人間の暴力闘争の究極形を止めた。


「戦争に終止符を打った英雄! 彼が振るったあらゆる剣の中で、唯一“聖剣”と呼ばれた業物!!」


 圧倒的な武勇で戦争を止めた彼は、民衆の声により勇者と称される様になった。


 彼の人気は揺るぎないものだったが、製品化されたモデル“勇者・アレックス”はすぐに生産が中止される。それは「聖剣」の由来でもある“天使族の祈り”が原因だ。


 ま、宗教との利権争いだね。


 この大陸で最も大きな勢力を誇る宗教、「天使教」。彼らは教義が商品化されている事に随分腹を立てたらしい。


 モデル“勇者・アレックス”は後に別モデルが生産されたが、結果的に生産数が非常に少なくなった事で、その最初期モデルは幻の品となった。


「俺が今まで使っていた量産品の“Ver.一鉄”とは訳が違う!!」


 真新しい店構えの商店が並ぶ中、場違いな程古ぼけた駄菓子屋みたいな土産屋にそれはあった。


 木製のテーブルに雑に並べられた他の商品とは違い、これはショーケースに飾られていた。


 ガラスに手を付いて夢中で眺める俺は、お小遣いで買えない額のトランペットを眺める中学生にしか見えなかった事だろう。


 しかし、それも当然だ。


「生産数、僅か百本! “Ver.聖剣・陽射(ひざし)”だ!!!」


 もちろん、代金はレイスに請求する。


「……そう」


「リアクション薄っ!!」


 お前それでも男か!?!?


「それ、“黒剣(こっけん)”? 珍しいわね。素人には扱えない業物って聞くけど?」


「! へぇ、それは分かるんだ」


 流石エルフ。感性とは別に、知識は持っているらしい。


 “黒剣(こっけん)”。それは特殊な漆黒の金属を鍛えて造られた剣の事。


 その特性から一部の剣術家に愛用されているが、実用性の低さにより一般の冒険者には好まれない代物。


「でも、これは違うよ。ただ黒く塗り潰してあるだけ」


「へぇ」


 確かにこの剣の刀身は黒い。しかし、実際にアレックスが振るった聖剣は純白の刀身だったはず。


「“聖剣”を土産物(おもちゃ)として売り物にするのが許せなかった。ま、天使教の圧力じゃないかな? たぶんね」


 英断だ。黒塗りされ色は違うが意匠(デザイン)は“陽射”そのもの。


 英雄の振るった剣が俺の手に……テンション爆上がりだ。


「まぁ良いわ。時間はまだあるし、僕は先に進む事にするわね」


「……うん、そうしよう」


 言って、俺は剣を納める。リアムはエルフだからね。きっと価値観が違うんだよ。


 後で騎士二人にも自慢しよう。ケイン辺りはこれの価値が分かるかも知れない。


 考えながら歩き出す、その一歩目を踏み出した時、


「あだっ!」


 見えない壁にぶつかった。


───おやぁ?

 もしかしなくてもリアムの結界だ。


「……リアムさん、これ、何ですかね? リアムさん……?」


「……言ったでしょう?」


 振り向いたリアムは、冷たい無表情。


「お仕置きする、って」


───『そこで反省してろ』


「……そんな……はは」


 俺は膝を付いて、リアムの後ろ姿を見送った。


 転生して訪れた異世界の大地。そこで立ち寄った未知の領域、「ダンジョン」。


 その道中、ドラゴンの骸の隣で、俺は結界に閉じ込められてしまった。


───この俺が、異世界で、「結界ニート」になるなんて……。


 「冒険」者が「引き篭もり」など笑える。大いなる矛盾だが、それが実現するのだから滑稽だ。




☆☆☆★☆☆★☆ ★




「キリがないな」


 ダンジョン深部から、次々に湧き出てくる異形の化け物を斬り伏せながら、呟く。


 その姿を形容するなら、“異常”というのが最も適切だろう。そうとしか言いようがない。


 爛れては再生する浅黒い肌、骨格の定まらない風貌。


「こんな敵は初めてだ」


 生物かどうかすら怪しい謎の存在、しかし心当たりならある。


───魔物、か。

 それは歴史の彼方に消えたとされる、幻の種族。殺戮を好み、戦いを生涯の喜びとする狂気の権化。


 噂で聞いたのだ。地下水道で魔物が出たと触れ回る、低級の冒険者が居る、と。


「団長……逃げて……下さ……い」


 私の背後で、ケインは既に戦闘不能となっている。


 回復は既に済ませた。手持ちの回復薬のほとんどと、自身の魔力の大半を消費して蘇生したが、如何せん傷が深い。


 何か、魔法による回復を阻害する魔力が傷口を覆っているのだ。こんな性質の魔力は、“闇”以外に考えられない。


───初撃を見切れなかった。私もまだまだだな。

 敵の力量を侮っていた訳ではない。しかし、見誤ったのだ。


 魔力探知に頼っていた。敗因を挙げるとするならそういう事だ。


 敵とエンカウントした際、先に動いたのはケインだった。彼は反射で防御姿勢を取った。その判断の速さは賞賛の一言だが、結果は無意味だった。


 敵の腕が、文字通り伸びて来たのだ。


 剣の試合では間合いが重要だ。それを無視して放たれる理不尽な攻撃、質量の暴力に対して剣では受け切れず、直撃を許した。


───せめて結界を張っていれば。いや、それはない。

 エンカウントした瞬間、互いに最も大きな隙を許すタイミングで防御を選択する事はまず無い。それ程ケインの判断が優れていた。


 そしてさらに不幸なことに……


───十……いや二十か……?

 敵の数は時間を追って増えていく。魔力を纏わないその性質により、正確な数を知る事は難しい。


 最初の一体は既に斬り伏せた。続く化け物も現れる度に始末しているが、通路の奥から際限なく湧き出てくるのだ。


───撤退したいが、動けば追って来るか。

 負傷したケインを抱えて走る足では逃げ切れまい。


 となれば……いや、そもそも選択肢など始めから一つしか無い。


「ふぅ……」


 息を整え、魔力を開放する。


「天庭一刀流───」


 本気を出すなどいつぶりだろう。




☆☆☆★★☆★☆




───あぁ面倒な状況だ。

 結局、シュートの実力を知る事は出来なかった。


 アイツ、本当にあのまま石ころになり切ってドラゴンをやり過ごすつもりだったのだろうか。だとしたら凄まじい胆力だ。


───……ムカついてきた。

 シュートはやはり戦う気が無いのだ。土産物(おもちゃ)の剣など持っていたし。


 戦いを好まない人格は理解できる。しかし、力を隠す(・・・・)意味が(・・・)分から(・・・)ない(・・)


───本当にどこまでも追尾して来るのか、厄介な。

 僕はずっと、魔力を全開にして最速で移動している。それなのに、振り切れる気配が微塵も無かった。


 記録装置・パーム。果てしなく邪魔だ。


 シュートによれば、この装置は冒険者の魔力を動力に作動するらしい。よって、僕が移動に魔力を割けば、同等の速度をこの装置にも与えるのは自然。


 シュートは“ダンジョン配信”などという謎の娯楽に興じていたが、それは視聴者側の都合だ。配信者側にとって、手の内を全世界に発信するなどデメリットでしかない。


 それは僕も同じだ。出来れば魔法を記録されたくはない。


 そしてもう一つ。


───剣聖、奴は結局敵なのか、味方なのか。

 クエストの受注に当たって便宜上パーティを組んでいるが、彼らの真意はまだ測れていない。


 恐らく彼らに僕と敵対する意志は無いだろう、という程度の認識。信用するか、否か。どちらにせよ目立つ魔法を見せられる関係ではない。


───あぁ腹が立つ。

 シュート(アイツ)の態度も、この状況(・・)も。


 思い出すのは不敵に笑う獣人族の女と、謎の団体「ディケード商会」。


 覚えている。二度の経験で流石に学習した。


 一度目はシュート、そして二度目は地下水道だ。


 これは地下水道で接触したモノと同様の魔力反応、即ち魔物だろう。


 魔力探知で測った敵との距離は、既に一キロを下回っている。どうやら既に剣聖は魔物と接敵、部下は手負いの様だ。


───案外、魔物にやられてくれた方が楽なのかも知れないな。

 助ける様な義理は無い。しかし、見捨てる程無関心でも無い。あの男は言った。金は言い値を出す、と。


 この国で生活を続けるなら、騎士団に恩を売っておくのも悪くはない。


───死んでいれば手柄は独り占め、生きていれば、約束通り金を受け取るとしよう。

 強敵を相手に、全力を出せない事だけが残念だ。


 敵は近い。魔力探知を全開に、身を守る結界を全面に、攻撃に要する魔力を手のひらに。


「ふぅ……」


 静寂の中息を吐き、気を昂める。


 魔力は感情により励起できる。そして意志により操作できるのだ。


 問題無い。奴らが何を企んでいたとしても、力で捩じ伏せてしまえば良いだけだ。


───ぶち殺す。

 僕にはそれができるだけの力があるのだから。




☆☆★★☆☆★☆




「アイツら今頃、最奥の財宝にでも到達した頃かな……」


 呟いても、独り。


 身の安全を考えるなら、間違い無くこのまま座っているのが正しい。


「いや、それはない(・・・・・)か」


 自分を覆う不可視の障壁、結界の存在を見るともなく感じ取る。


 ドラゴンの猛攻にも耐えた鉄壁の要塞。破壊する手段は少ない。


 土産物の剣では到底不可能かな。


「うーん、退屈だ」


 このまま時間が経てばアイツらが勝手に調査を進めてくれて、俺は労ぜず報酬を得る事が出来る。


「でも、この気配は……」


 冷静に考えてみよう。ここで待っているのと参戦するの、どっちが利が多いか……


───……いや、損が少ないか、か。

 俺は立ち上がり、伸びをする。


「ふぅ……」


 息を吐いて、指輪を確かめた。試してみる価値は、あると思う。


「……まぁ、どうでもいいか」


 思い浮かべたのは、情報屋の言葉だった。



面白いと思って頂けたら下の☆マークを押して評価をお願いします。執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ