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47話 モデル・勇者アレックス


 ドラゴンとは、食物連鎖の最上位に君臨する魔獣。


 トカゲの親戚であるという認識は間違いではないが、デカい。


 顔も首も胴体も手足も尻尾も、とにかくデカい。そして全身を鱗で覆われ、背に翼が生えている。


 成体となったドラゴンは飛行を可能とし、しばしば「ブレス」と呼ばれる魔法を使う。


 人間の魔法とかけ離れた破壊力を持つそれは、天災に例えられる程だ。


「出会ったら迷わず逃げろ」


 それが冒険者の間での共通認識だ。


「居眠りしてる場合じゃないでしょ!!」


「うぉぉぉおおおお!!!!」


 最恐生物(リアム)の咆哮に目を見開くと同時、頭の横に激しい音を立てて何かが突き刺さった。


 大地を押し退けて聳え立つそれは、三メートルはあろうかという棍棒。木製だが、地面をクッキーみたいに破壊して岩を撒き散らしていた。


 出発時には持っていなかったはずだが、いったいどこで拾ってきたのだろう。


───今すぐ元の場所に返してきなさい!!


「いやぁ、奇遇だね。もう再会するなんて驚いたよ」


「驚いたのは、こっち。下らないマネして、どういうつもり?」


 あ、怒ってますね。


「と、とりあえず、アレをどうにかしないとさ、ほら」


「えぇ。さっさと倒してしまいましょう」


「さ、流石頼りになる!!」


 一瞬で消し炭にしてくれそうだ。


 でもせっかく倒すなら素材を持ち帰りたいな。骨くらいは残して欲しいんだけど、どう?


「少しお仕置きしないといけないし、ね……」


 怒れるリアムは絶対零度の無表情で呟き、振り返ってドラゴンを見据える。


───ドラゴンに、だよね? そうだよね??


「……離れていた方が良いわ」


「え?」


 瞬間、ドラゴンはその巨大な尻尾を鞭の様にしならせ、羽虫を払うかの様に振り抜いた。


 それがリアムに触れようとした時、ドラゴンの尻尾は何かに阻まれ、激しい音と共に動きを止める。


「───巻き込んでしまいそうだもの」


 不可視の結界はドラゴンの攻撃を受けてなお、破壊される事なくその役割を続行している。


「グウォオオオオオオオオオオオ!!」


 尻尾を押し止められた事がよほど不快だったのか、ドラゴンは大口を開けて咆哮を上げた。


───あ、これ骨残らないやつだね。

 誰が骨になるかは考えない事にする。


「デカいわね」


 “ドラゴンとの戦い”と聞けば、どんな戦闘を思い浮かべるだろう。


 激しい魔法の応酬? それとも科学の粋を集めた強力な兵器? 或いは巨大化した戦士、若しくは合体ロボなんかが取っ組み合いをして戦う事もあるかも知れない。


 そしてここは異世界。列挙した戦術、その全てが実現可能な世界にあって、目の前で繰り広げられる戦い、それは、


「邪魔よ」


 見目麗しいエルフによる素手喧嘩(ステゴロ)。目前では宙を舞うリアムが、ドラゴンの頬をぶん殴っていた。


「硬いわね」


───すごいや!

 ビルとかワンパンで破壊できそう。


「グウォオオオ!」


 顔面を殴打されたドラゴンは、宙を舞うリアムに向けて咆哮を浴びせる。このドラゴン、まだブレスは吐けないみたいだね。


 ブレスに失敗したドラゴンは次なる攻撃へと移行。ギルドの建物程もある身体を捻り、巨大な尻尾を横薙ぎに振り抜いた。


「ぐっ!」


 空中に身を投げていたリアムは、回避行動が取れず尻尾の直撃を受ける。


「わお……」


 吹き飛ばされたリアムは壁に激突し、頑強なダンジョンの岩壁を砕いた。


───これは……死んだか?

 壁に大穴を開けたリアムだが、広場に戻って来る気配が無い。


───いや、生きてるね。穴がギャグ漫画みたいになってるし。

 リアムが身を挺して開けた壁の穴は、綺麗に奴の体の形を象っていた。


 そしてふと、ドラゴンを見る。


「グルルル……」


 あれ、もしかして、


「グオオオオオオ!!」


「まだおやつの時間には早いよ!!」


 俺の体内時計によると現在は午後一時。おやつは三時と相場は決まっている。


 考えた瞬間、ドラゴンは前足を振りかぶる。


───避けないと……あでっ!

 怯えて逃げようとした時、何も無い所で壁にぶつかった。


───……おやぁ?

 考えなくとも分かる。リアムの結界だ。


───アイツ生きて……意識はあるのか?

 だったら全力は出せないか……はは、どうしよう。


「グオオオオオオ!!!」


「うぉぉおおおお!!!」


 俺は恐怖に身を丸め、ドラゴンの咆哮に負けず劣らずの絶叫を披露する。


 そして無情にもドラゴンの爪は降りかかり、


「……うるさい」


 俺の目前で結界に阻まれ、その勢いを止めた。


───ドラゴンでも破れない結界って、どういう事??

 岩穴からゆっくりと姿を現したリアムは、額に青筋を立てている。


───『ぶち殺す』


 何その殺意に(かたど)られた瞳。


 リアムは燻る苛立ちを隠しもせず、魔力を解放し全身を強化した。


 可視化される程の濃密な魔力を纏ったリアムは、助走もなく跳躍する。そして天井スレスレまで達すると、回転して身体の上下を逆転させる。


「躾が必要ね」


───ドラゴンのペットは憧れるけど、我が家はペット禁止です!

 ドラゴンと同居したい奴、居る? 居ねぇよなぁ!?


 呟いたリアムは、空中で逆立ちをしている。


 そして結界を足場に身を屈め、強靭な脚力で結界を蹴り、ドラゴンの頭部目掛けて急降下した。

 

 更に幾重にも結界を展開し、ドラゴンの行動を制限していく。


「大人しくしなさい……!」


「ヴォアアッ!」


 リアムは落下の勢いそのままに、ドラゴンの頭部に強烈な鉄拳をお見舞いした。


 ドラゴンは頭部に鋭い衝撃を受け、顔を地面に打ちつける。


───……それ痛いよね、分かる。

 俺も殴られたことあるからね。


 ドラゴンの頭部がダンジョンの床を砕く衝撃、その余波と飛び散る岩の破片すら、目前の結界は完全にシャットアウトしていた。


「ふっ!」


 リアムは半分地面に埋まったドラゴンの剥き出しの頭部へと、間髪入れずに踵落としを繰り出した。


 そしてドラゴンの全身から力が抜けていき、やがて自重をも支えきれなくなり、力無く全身を横たえた。


「ま、ざっとこんなもんね」


───ドラゴンを素手で倒す事も「こんなもん」ですか。

 想像より遥かに呆気なく、勝敗は決した。




☆☆☆★☆☆★☆




「……生き残ったか」


 ドラゴン程の大きな魔力反応を見落とす“剣聖”ではない。一度ドラゴンの魔力が燃え上がる様に激しく揺れたが、無事に討伐できたらしい。


───勝負は決したか……まぁ、それもどうでもいい事だが。

 ふと、自身が持ち掛けた勝負の事を思い出す。


 戦ったのは、リアムだろう。奴の魔力は分かりやすい。その場にはシュートも居たはずだが、あの男は終始立ち尽くしていた。


───相変わらず、訳の分からん男だ。

 ドラゴンを前にしても一切揺るがなかった彼の気配。余裕か、それとも本当に魔力を扱えない凡夫なのか。


 敵か味方か、未だ計りかねている。


「あ、団長! 良かったっス、追いついたっス!」


 背後から声が聞こえ、別の道を進んでいたケインと合流した。


「息は乱れていない様だな」


「はいっス! 俺の道には雑魚が多かったみたいなんで、余裕で進めたっス!」


───謙遜まで覚えたか。

 ケインは自分に追いつこうと走ってきた様だ。私と合流するまでに、相当数の魔獣と交戦してきたはず。


「また、腕を上げたようだな」


「……! そんな、恐縮っス……」


 やはり私の目に狂いは無かった。


「……ところで、気付いているか?」


「……はい? 何の事っスか?」


 ケインに尋ねる。彼は気付いていない様だ。


 しかし非難は出来ない。私自身、ここまで接近して、やっと認識出来た“微かな”気配。経験が無ければ、間違いなく見落としていただろう。


 しかし、私はこの気配を知って(・・・)いる(・・)身近に(・・・)感じた(・・・)ことが(・・・)ある(・・)


 思い出すのは、猫のような耳と語尾が特徴的な女。


「……警戒を厳にしておけ」


「了解っス……!」


 さて……鬼が出るか、蛇が出るか……。




☆☆★★★☆★☆




「いや確かに強いとは思ってたけどさ」


 動かなくなったドラゴンを見て思う。


「……流石にこれは次元が違ったよね」


 この大陸に、独力でドラゴンを撃退できる者など何人いるだろう。


「もしかして……コイツ、ドラゴンじゃなかったとか?」


 そうでなければ説明が付かない実力差。


「まぁ、幼体ではあったでしょうね。成体ならこの倍は大きいはずよ」


「マジ?」


 この迫力で幼体なん???


「バケモンだね……」


 それならドラゴンの格も下がらないね!


「鍛えればこのくらい誰でも出来るわ。それより、これで勝負は私達の勝ちね」


「だろうね。っていうか、気にしてたんだ」


「当たり前でしょう。あんな提案、警戒しない方がおかしいわ」


 そりゃあそうか。登場人物が指輪の差出人と騎士団のトップだもんね。


「それにしても、あなた」


「ん?」


 溜息と共に、リアムは俺の腰辺りを指差す。


「それ、何のために持って来たのよ」


 そこには俺の愛剣が鞘に納まっている。


「せっかく新調したんだから(・・・・・・・・)、使って試しなさいよ」


 俺は心中で溜息を吐いた。やれやれ、モノを知らない奴はこれだから。


「バカ言っちゃあいけないよ。君にはこの剣が、戦闘用の武器に見えるって言うのかい?」


「……見えるわね」


 俺は盛大に溜息を吐く。


 森の賢者ともあろう者が……価値が分からないなら、教えてやらねばなるまい。


 遂に、この剣を見せびらかす(ぬく)時が来た様だ。


「聞いて驚け。この剣はあの伝説の! “世界の名剣シリーズ”!!」


 俺は剣を抜き放ち、その輝く刀身を天高く掲げる。


「モデル“勇者・アレックス”だぁぁぁああああ!!」


「……呆れた」



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