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45話 私立騎士団



「申し遅れたっス。テオドール騎士団で分隊長を任されている、ケインっス。よろしく」


 ダンジョンに潜入して程なく、気になっていた一人の男が声を掛けて来た。


「そう。僕はリアム、冒険者よ」


「俺はシュート。よろしく」


 テオドール騎士団とは、レイスが指揮を執る騎士団である。つまり彼は、この依頼に際し部下を同行させているという事。


───『きな臭いな』

 まるで、騎士団として依頼に参加している様だ。周到な準備が見て取れる点で、リアムの言う通り随分きな臭い。


「……来たな」


 レイスが短く告げる。敵襲だ。


「どうするの? ギルド職員からは“くれぐれも”と念を押されているけれど?」


 挑発する様にリアムが言う。しかし、返答は分かりきったものだった。


「こんな入り口で、“魔獣がいたので引き返した”も何も無いだろう」


 その通りだ。


 既に全員、臨戦態勢に入っている。


「前衛は俺が行くっス。抜けてくる雑魚を斬って下さい!」


 言って、ケインは剣を手に先陣を切る。さすが分隊長。短い指示で的確に戦況を支配している。


 しかし、


「ま、お手並み拝見と行こうかしら」


 そう言うと、リアムは一歩下がる。奴が下がった事で、並んでいた俺とレイスが前に出る形になった。


「……何をしている?」


───本当にそう!

 疑問符を浮かべるレイスを後目に、リアムは呟いた。


「騎士様の実力、知っておきたいの」


 そして、妖しく微笑む。


「この先も安全に進めるのか、僕に分かる様に示してちょうだい」


 分かりやすい挑発だけど、一応勝負だしね。


 勝ったらお金が貰えて負けたらリアムとの縁が切れる。勝っても負けても俺にはメリットしかない。最高。


「……魔獣に恐れをなすとは、やはり随分と臆病なようだ。ではこの勝負、こちらが先手を打たせてもらうとしよう」


 まぁ、勝負を持ちかけた本人に、何かしら意図がありそうなのが気になるけど。


「来るわね」


 通路の角から魔獣が飛び出した。


「……ゴブリンか」


 数は、十といった所か。その内の三体を既にケインが斬り伏せている。


「行ったっス!」


 ケインは振り返らずに叫ぶ。


 見ると、確かに二体のゴブリンがケインの居る地点を突破してこちらに接近して来ている。


「下がっていろ」


 レイスは静かに言い、剣に手をかける。


「一瞬で終わる」


 そしてその言葉は現実となった。


「へぇ……」


 レイスが解放した魔力が光った次の瞬間、彼は数メートル先に居た。


 瞬時に右足を踏み込んだレイスは、横薙ぎの一振りで二体のゴブリンをまとめて始末したらしい。


───速いな。それに、一瞬光った?

 あれが彼特有の光の魔力というやつなのか。型は居合っぽかったが、何か仕掛けがありそうだ。


 目で追う事すらままならない程高速の抜刀、あれは完全に人間の限界を越えた動きだ。


───見えた?

 思考でリアムに問う。


───『あぁ。だが、ギリギリだ』

 武闘派のリアムをして見切れない速さ。流石の一言だね。


「先に進もう」


 レイスは剣をしまい、事もなげに言う。


 既に十体のゴブリンは全滅していた。


「無論、帰ると言うなら止めはしないが?」


 今度はレイスの方がリアムに挑発的な視線を送る。それを、


「冗談。足手纏いにはならないようで、安心していた所よ」


 さらっと流すのだった。


───いいね。

 味方が強いのは嬉しいことだ。これは予想以上に楽できそうだね。




☆☆★★☆★☆☆




「流石の実力だにゃ〜」


 ギルドの支部、その一室でモニターを眺める少女が一人。


「“剣聖”の実力は当然として、その部下まで凄腕とはにゃ〜」


 少女の特徴的な語尾、そしてその頭部にある猫の様な耳。そんな愛らしい彼女は、陰で人々からこう呼ばれている。


「んでも強過ぎてシュー君の出番無いにゃー!! 剣聖邪魔だにゃー!!!」


 情報屋と。


「む〜、んにゃ!?」


 情報屋とは、その時、その人物が欲する情報を提供することで対価を得る商売である。


「別れ道だにゃ!!」


 情報の価値、それは時に金銀財宝を超える。その情報のあるなしで、成功と失敗が分かれるのだから当然だ。


「さぁ、どう進むにゃ?」


 こと冒険者にとって、成功とは無論、クエストの達成である。


 そうして得た報酬や持ち帰った素材が彼らの生活の糧となるのだ。であれば、失敗とは?


「にゃはっ! やっぱりそうなるかにゃ!」


 クエストの失敗、これは少し違う。


 武器が折れようと、骨が折れようと、ギルドからの信頼を失おうと、生きていればまた挑戦出来る。よって、


「にゃ! モニター増やさなきゃいけないにゃ!」


 失敗とは、即ち死である。


「それにしても、変わらないにゃ〜」


 少女は、情報屋。与える情報と、与えない情報の勘定で人を死に導く存在。


「また君はそうやって───」


 彼女の周りには、常に死が纏わり付いている。




☆☆★★★☆★☆




「さて、どうする?」


 問一:メンバーは四人。目の前には別れ道。どの道を選ぶ?


「別れ道が二つなら良かったのだけど」


「同感だよ」


 問二:別れ道が四つあったら?


「まとまって進むのが良いと思うけど、どう?」


「却下ね」


 正解:各自別々の道に進む。


「……極端じゃない?」


「決まった事よ」


 見ると、俺以外の全員が右手を上げている。


「多数決。悪いけど、ここからは各自別行動よ」


 手を挙げた全員が「バラけて進む」に賛成したのだった。


「……俺、死ぬよ?」


「はははっ。シュートさんは、冗談が上手いっスね!」


「いや、冗談じゃないんだけど……」


 俺は戦闘が得意じゃない。「雑用」と揶揄されながらも、戦いから遠い仕事ばかりをこなして来た。


 なのに、最も戦闘力を求められる環境で一人にされるって?


「それでは行くか」


「えぇ、進む道はどうするの?」


「俺はどこでも構わないっス。団長、決めて下さい」


 俺を他所に、会話が進められていく。


「では右から、私、ケイン、リアム、シュートの順で良いだろう」


「ねぇ待って……」


 俺の呟きは無視され、振り分けられた道へと足を向ける三人。


「り、リアム!」


 俺は最後の望みを賭け、同居人の名を呼ぶ。


 そして振り返ったリアムに思考で問い掛ける。


───俺を、一人にしないよね?


 リアムは一切の感情を排した表情で、声も出さずに返答した。


───『お前の道は、そっち。追って来るなよ』


 それきり、振り返らず歩き去ってしまった。ついて行ったら魔獣じゃなくて奴に刺されそうだ。


───あの……。


 俺は自分に割り当てられた通路を見て、思う。


───めっちゃ禍々しい気配(嫌な予感)するんですけど……。




☆☆☆★☆☆☆☆




 自分の名前はケインっス、よろしくっス。


 自分は騎士団の分隊長で、今日は団長の誘いでギルドの依頼を受けているっス。今は別行動をしているっスが……。


 自分が騎士団に入った一番の理由は他でもない、団長への憧れっス!


 あれ程剣に長け、それでいながら鍛錬を怠らない実直な人は見た事がないっス。


 だから根本的な理由は、やっぱり強さっスね。


 これも団長に起因するんスが、ドワーフのパーティにいじめられ、雑用係としてこき使われていた自分を団長が助けてくれたっス!


 その時の団長の剣は今も脳裏に焼き付いてるっス。


 負け犬だった自分が、強くなりたいと剣を取るきっかけになった人っス、マジ尊敬っス!!


 団長には本当に頭が上がらないっス。本人は忘れてるみたいっスが……。


 だから、今回の依頼も二つ返事で受け入れたっス。休みが無くなるのは正直キツいっスが、団長の戦いを間近で見れるのはありがたいっス! 鍛錬の励みっス!


 そしていつか、もっと強くなって、団長に背を預けてもらえる様な立派な騎士になりたいっス!


 強さといえば、さっきまで一緒に居たエルフの女性……リアムさんといったっスかね、クソ強そうだったっス……!


 最初はそりゃ、「かっっっっわいいねぇちゃんだなぁ!」って思ったスが、あれはヤバいっス。


 覇気が目に見えて出てる人初めて見たっス! あれなんスか!?


 俺の魔力探知が極まり過ぎて、遂に殺気まで可視化しちまったのかと錯覚したっス!


 エルフって皆ああなんスか? 絶対に敵に回したらダメっスね……人は見かけに寄らないっス。


 団長は何やら、賭け的な勝負をしているみたいだったっス。


 賭博なんて正直、騎士としてあるまじき娯楽っスけど、団長がする事ならきっと何かの意図があるはずっス!


 絶対に「勝った方がこのエルフを嫁にする」的な下劣なものじゃないはずっス。信じてるっス!


 そしてもう一人の男。シュートさんっていったっスかね、彼もめちゃめちゃヤバいっス。これはガチっス!


 “剣聖”と呼ばれる団長の剣、その間合いを初見で見切ったんスよ!? 化け物っスか!? 世界は広いっス……。


 さっきはなんか無駄に謙遜してたっスが、シュートさんの実力はマジで底が見えないっス……!


 魔力も普通と違ったっス。


 まるで、そもそも魔力を持っていないかの様な、自然なのか不自然なのか、とにかく全く理解出来ないタイプっス、初めて見たっス!


 多分、想像を絶する鍛錬で魔力が一ミリも外に漏れ出ない様にしてるっス……確かにその方が探知を避けれて消費も少なく、戦う人間にとっては最高の状態っスが、それは理論上の話っス! ほぼ机上の空論っス!


 マジで規格外っス……。


───……っと。敵っスね。


「ゲゲゲゲッ」


 醜悪な小人の魔獣、またゴブリンスか。


 くうっ!


 さっきは不甲斐なかったっス! ゴブリン程度、それもたったの十体出たくらいで慌ててしまったっス。


 団長に見られてる緊張もあったっスが、それは言い訳っス。二体も後ろにそらしちまったっス。


「はぁっ!」


「グゲッ!」


 ふう、落ち着いてたらこんなの敵じゃないっス。いや、油断するなっス!


 四人の中で、明らかに俺が一番小物っス!!


 これ以上御三方の足を引っ張ったら団長に叱られるっス! 無言の団長、超怖いっス!!




☆☆☆★★☆★☆




「……邪魔ね」


 音もなく浮遊する、冒険者に追従し記録する装置、“パーム”。


───シュートの話では、確か音も撮っているのだったな。

 気に入らない。


 撮影のためかライトが搭載されており、前方を照らす照明の役割を果たしている点は評価できる。


 手持ちのライトを携帯するのとでは、戦闘時の武器の取り回しが大きく違うのだから当然だ。


───話し方も気を付けないとな。“誰”が見ているとも知れない。

 考えながら、思い浮かぶ顔は一人のみ。


 猫耳と尻尾、あと妙ちきりんな語尾が特徴的な獣人族の女。


 名はルーニアといったか、いけ好かない女だ。くねくねと身をよじらせ、シュートを誘惑する様な態度。それに僕に対する敵愾心剥き出しの言動。


───腹立たしい。

 思い出すだけで怒りに呼応した魔力が吹き出してしまう。


───おっと、敵を呼び寄せてしまった様だな。

 僕の魔力に反応してか、複数の魔獣らしき魔力反応が接近していた。


───数は、三十程度か。たわいも無い。


「悪いけど、先に進みたいの。道を開けてくれるかしら?」


「ゲゲゲゲゲッ」


「ゴブリンさん」


 言って、ナイフを手に駆け出す。


 ゴブリンの武器は、棍棒である事が多い。


 こんな陽の差さない洞窟のどこに、そんな立派な樹木が育つのだろうと疑問に思うが、考えるまでもなく魔力だろう。


 魔獣は生まれつき、自身の魔力と相性の良い魔力を見分ける目を持っている。


 ゴブリンが振りかぶった棍棒、それが振り下ろされるまでの隙に剥き出しの腹を蹴る。


「ゲア!」


 悲痛な声と共に宙を舞ったゴブリンは、後続のゴブリンに激突する。


 そして地を転がったゴブリンの首に手際良くナイフを差し出し、とどめを刺していく。


「……あら。自分より大きな武器を扱うなんて、身の丈ってものを知らないのかしら」


 見ると、一際大きな棍棒を担いだゴブリンがゆっくりとした歩みでこちらに接近している。


 ゴブリンジェネラル。群れのリーダーなのか、体躯も僕より幾分大きい。


 そして、武器も僕より背が高そうだ、三メートルくらいあるのではないだろうか。


「それ、振れるの? とても武器として扱えるものには見えないのだけど」


 ゴブリンはその身の丈をも越える大きさの棍棒をゆっくりと掲げると、こちらに向けて一気に振り下ろした。


「見えているのだから、躱すのも簡単なのだけど……」


 言いながら、僕は右手に魔力を集める。そして手のひらに結界を展開し、


「力任せだなんて、芸が無いわね」


 頭上から迫る棍棒を素手で受け止めた。


「ゲゲ!?」


 ゴブリンは攻撃したにも関わらず、獲物が潰れていないのが不思議な様子。


 そして何故か、振り下ろした棍棒がピクリとも動かない。自らの商売道具を再度持ち上げようと、四苦八苦する姿は実に滑稽だった。


 彼ら(ゴブリン)は、勘違いしていたのだ。


 僕の垂れ流す魔力、それを探知した彼らは、「獲物が来た」と思い喜び勇んでここに来た。


 しかし、その考えが間違っていた。


 獲物を見つけたのではない。強者の罠にかかり、誘き寄せられたのだ。


「グゲ!? ガガッ!」


 そして、僕は受け止めた棍棒をゴブリンから取り上げ、お返しとばかりに振り下ろした。


「これ、良いわね。木の魔力に馴染むわ。借りるわね?」


───悪いけど、少し鬱憤を晴らさせて貰う。

 既に息のないゴブリンの骸にそう告げる。うん、いい武器だ。


 残るゴブリンは二十といったところか。この武器があれば、容易く殲滅できるだろう。


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