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42話 トン。古傷が疼くぜ……


「何見てるんだ?」


 同居人、リアムが話しかけてきた。


「あぁ、インターネットで“ダンジョン配信”を見てたんだよ」


 説明しよう。“ダンジョン配信”とは。


 その名の通り、ダンジョンに挑戦する冒険者の姿をリアルタイムで中継する娯楽。


「……見てるだけで楽しいか?」


「は?」


「退屈だろ、それ」


「な、何言ってんだ!!」


 娯楽とは、約束された安全の上に成り立つもの。危険を冒すのは、鍛え抜かれた挑戦者(プロ)達の“仕事”だ。


 前世の地球でも、西暦八十年頃にはローマでコロッセオが建造され、剣闘士はそこで激しく武器を打ち合った。


 そしてそれを目にした観客は熱狂したのだ。たぶん賭博とかもあって、興行としても盛り上がったんじゃないかな。数々の伝説も生まれたのだと思う。


 それに比べれば、ダンジョン配信はかなりポップな娯楽だ。


 そして技量のある冒険者がダンジョンの歩き方を伝える教材でもある。何より、


「ロマンだよ、分かるだろ!?」


 ロマンとは、原動力だ。 人は憧れを抑える事が出来ない。


 誰かがダンジョンを踏破し、その隠された財宝を手にする瞬間を目にする事が出来る。そして渇望するのだ。自分もそうなりたいと。


「ロマン、ねぇ」


 そしてこのダンジョン配信、ほとんどのチャンネルはチケット制。つまり金が掛かるのだ。


 その利益は配信を支えるサイトの運営やギルドにマージンを取られるものの、冒険者の収入にもなっている。


 そこで人気を博し、ファンやパトロンを獲得すれば冒険業から足を洗う日も近い。誰も損をしていない。


 正にロマン。素晴らしく理に適った興業だ。


「他人が戦っているのを見るのが、そんなに楽しいか?」


「お前……! 楽しいなんてもんじゃない!!」


「そ、そうか」


 どうやらものを知らぬエルフには、一から教えてやらなければならないらしい。


「まずは手軽さだ。家に居ながら、遠い地方のダンジョンでの冒険を見る事が出来る」


 近年の技術革新はめざましい。


 ダンジョンに挑戦する冒険者には、それぞれ自動撮影記録ロボット「パーム」が貸与される。


 それは、浮遊しながら冒険者を追尾し、その挙動を記録に収める。地球でいうスマホみたいな形をしている。


「魅力はやっぱり迫力だね。最近は映像だけじゃなく、音声まで記録される様になった。感動しかない」


 その画質、音質ともに半端じゃないのだ。


「勝つか負けるか、生きるか死ぬか、伝説となるか苦渋を舐めるか! 人類の魂を賭けたドラマがここにある!!」


「な、なるほどな……まぁ、今日は休みだ。好きな事をしてリフレッシュしよう、お互いに」


 リアムは顔を引き攣らせている。頭が固いエルフ。


 このロマンが理解できないなんて、とんだ愚か者だ。


「うん、それが良いね。君は今日どうするの?」


「僕は出掛ける」


「そっか」


 俺はリアムを見送った。


「……ふぅ。さて」


 気を取り直してコンピュータと向き合う。


───俺は俺で、調べ事していきますか……。




☆☆★★★★★☆




「今日も最高額のクエストを受けるわよ」


 翌日、俺達はまたギルドを訪れていた。


「そうだね。はは、久々に俺も滾ってきたよ」


 ダンジョン配信で予習したからね。イメトレはバッチリ、魔獣でも魔物でもどんと来いだ。


「おはようございますにゃ〜」


 あ、ごめん詐欺師(きみ)はナシ。


「……ルーニアか」


───『……ルーニア?』

 ほんの少し、リアムの表情が険しくなる。


「おはよう。何かしら?」


「にゃはっ! 本当にエルフだにゃ、シュー君も隅に置けないにゃあ」


 ルーニアはリアムの挨拶を無視、その上奴の種族をいじって俺を肘で突いてきた。


───『なるほど……コイツ、舐めてるな』

 リアムの笑みが深くなる。ホラーが過ぎる。


「……シュートが懇意にしてるっていう情報屋、もしかしてあなた?」


「にゃ、そうだにゃ?」


「そう」


 短いやり取りの後、リアムは俺の背を小突く。


───『聞けよ、指輪』

 そうでした。


「そういえばさ、この指輪、“天使の祈り”とか言ってたけど、どんな効力があるの?」


「にゃ、やっと付けてくれたんだにゃ? 嬉しいにゃ〜」


───『良いから効力を教えろ』

 リアムはずっと笑顔だ。怖い。


「効力と言っても、大したものは無かったはずだにゃ? エルフのお嫁さんは何か知らなかったにゃ?」


「いや、リアムもこんな指輪の事は知らないって言うからさ」


「なるほどにゃ〜」


 ルーニアは笑みを深める。


 失言だった。気付いたが、遅かった。


「歳だけ取って学もないとか、それでもエルフかにゃ?」


 ブチっ、と。


 何かが切れた。何が切れたかは考えない事にした。


「そ、そっか……じゃあ俺達これから仕事だからさ、じゃな!」


「待つにゃ。今日はシュー君に、良い依頼を持ってきたにゃ」


「……依頼?」


 嫌な予感がする。


「そうだにゃ。シュー君、ダンジョンに興味あるかにゃ?」


「……ダンジョン、ですって?」


───『……どういう事だ?』


───ごめん俺も分かんない。

 しかしこの指輪、慣れたら意外と便利だな。


「田舎町・レジルに最近出現したのダンジョン、その調査の依頼が出てるにゃ」


 依頼の詳細について、ルーニアはそう語った。


「レジルのダンジョン……聞かないわね。確かな情報なの?」


「にゃはっ!」


 疑問を呈するリアムに対し、ルーニアは得意げに返答する。


「猫は、耳が早いにゃ」


「でも俺達、Eランクだけど?」


 ダンジョン挑戦の要件は、Cランク以上であること。


「“調査”だから、問題ないにゃ」


「なるほど……」


 出現直後の、正式開放前のダンジョンだから、「調査」の名目で非戦闘(・・・)要員(・・)でもぶち込めるって訳か。


「裏技が過ぎるね」


 ワザ○プかな?


「受けるべきですよ、シュートさん」


「ん……? あぁ、シーナか」


 話に割り込んできたのは、ギルド職員のシーナ。


「ダンジョンの難易度調査、良いじゃないですか。その実績をもって、今回こそCランクに捻じ込みます」


「えぇ……君、なんでそんなに俺のランクにこだわってるの?」


 なんか、私情入ってない?


「ふふ。ランクが上がれば社会的地位も向上しますから。Cランクになれば、重婚も認められますよ?」


 え! 重婚(それ)って条件あったの!? いや当然か。


「そう。でも、悪いけど僕達今日は準備が無いの。他を当たって貰えるかしら?」


「にゃ〜……」


───あら珍しい。

 腕を組んだリアムは、強い口調でキッパリと断った。こういう依頼、リアムなら喜びそうだと思ったけど。報酬も高そうだし。


「あたしはシュー君に聞いてるんだにゃ。部外者は黙っててくれるかにゃ?」


 ねぇ君さっきから何でそんな喧嘩腰なの?


「年嵩のエルフは頭が固くて嫌になるにゃ〜」


 おーい! 何煽ってんだー!!


「ふふ……じゃあ、若いあなたはさぞかし柔らかいんでしょうね?」


 まぁ確かに猫は液体と言いますけども。


───『よし……練り込んで造形し直してやろう』

 その腐った性根、叩き直してやるぜ!(物理)


「ま、まぁまぁ、とにかく今回は無理って事で、ね?」


「何言ってるにゃ、シュー君があたしに頼んだんだにゃ?」


「いや嘘吐くなよ、頼んでないよ何も」


「嘘じゃないにゃ。“役に立つ情報が欲しい”って、“金になる話が聞きたい”って言ったにゃ」


「あ、あ〜……」


 そんな話もあったね!


「報酬、結構高額だにゃ? 生活を変えるチャンスだと思うけどにゃ〜」


 トン、と。背中に硬い感触が当たる。


「ん……ん!?」


 っておーい! 背中に当たってるの、ナイフやないかーい!


 恐る恐る振り返ると、控え目に微笑むエルフが言う。


「で……どうするの?」


───『断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ』

 超速洗脳(スピードラーニング)すな。


「にゃあ、そういう露骨な脅迫やめたらどうかにゃ? 森の賢者が聞いて呆れるにゃあ」


 ねぇ君さ、何でいちいち煽るの?


「脅迫……許せない。シュートさんの優しさに漬け込んで、利用するなんて……!」


 シーナは怒り過ぎじゃない? 何その仇を見るような殺意に満ちた瞳。君のお父さん、リアムに殺されたんだっけ?


「いや別に、利用されてる訳じゃ……」


 ……あるか。


 君は何も知らないのに、ちょくちょく核心を突いてくるから否定しにくいのよ。


「受けて下さい、シュートさん。ここはギルドです。冒険者は、自由に依頼(クエスト)を選択して受けることができます!」


 気持ちは嬉しいけどね。俺に自由は無いんだ。


「そして……その、Cランクになったら……私と……」


「はぁ、何? やけに絡んで来ると思ったら、他人の男に手を出そうって訳?」


「ふふ……どうでしょう」


 シーナは意味深に微笑む。


「あのねぇ、これ、見える? 指輪。婚姻の証よ」


 ちなみに、見えないと思うけど首輪もついてるからね。服従(ペット)の証。


「そうやって見えるものばかりにこだわってると、大事なものを見失うにゃ?」


 お、良い事言うね。そうそう、見た目じゃなくて中身が大事なのよ。人間もそう。


 来世では結婚相手を犬にしない人を選びたいよね。


「大事なのは相性だにゃ。君はシュー君の事、何も知らないにゃ」


「へぇ。じゃあ、貴方は彼の何を知っていると言うの?」


 ルーニアは笑みを深める。待って待って何言う気??


「シュー君を取り上げた助産師の名前、知ってるかにゃ?」


「何それ何マウント?」


 本当君は俺の予想の斜め上を行くよね。何で俺ですら知らない俺の事知ってるの?


「……ギルドカードから出身地を割り出して、誕生日と照らし合わせればきっと特定できるはず……!」


「シーナ、張り合わなくて良いよ?」


 そんな気軽に職権濫用しないで欲しい。プライバシー守ろう?


「で? 知らないのかにゃ?」


「……それを知っていて、何になるの?」


 うん、それで論破だよ。


「シュー君を幸せにできるにゃ」


 遂に……人類はここまで辿り着いたか……!


 1969年、月面着陸の成功。


 2014年、STAP細胞発見。


 同年、STAP細胞研究の不正発覚。


 今日、ストーカーが被害者を幸せにする。


「まぁまぁ、この通りルーニアは何でも知ってるからさ……あんまり揉めると古傷が開いちゃうよ?」


 古傷(黒歴史)。


「だからさ、ダンジョンの調査受け……」


 トン。


「……る訳ねぇだろクソボケがよおおおおお!!」


 前門の古傷(黒歴史)、後門の生傷(ナイフ)


「決めるのはシュー君だにゃ」


「そうね……どうするの?」


 返答に命がかかるなら、疑問系にしないで欲しいです。


「えーとどうしようかなぁ……はは」


 俺が引き攣った笑みを浮かべながら一歩後ずさった時、


「……何だ貴様ら、また揉め事か」


 背後から声が聞こえ、俺は「どうして」と嘆く。


「大人しくしていろと言っただろう」


「レイス……!」


 テメェ、クソみたいなタイミングでカットインして来てんじゃねえええええええ!!


PARMパームPersonal Automatic Recording Machine

みたいな感じで命名しました。自動対人記録装置、的なニュアンスです。伝わりましたかね。


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