2話 この展開、読めたぞ!
「やり過ぎだったと思うよ」
俺達は森での討伐依頼を終え、依頼の成功報告のためギルドを訪れていた。
「相手はならず者だからね。ある程度“脅し”は必要だ」
「そうだそうだ。まぁそれにしても……ぷぷ……アイツら縮み上がってたぜ、ありゃあ傑作だったよな実際」
森で捕らえた七人の野盗は街の騎士団に引き渡した。
道中ちょっとくらい暴れるかなと思ったけど、彼らは大人しかった。
ガッツリ脅したからだ。意外にもフェインが。
『戻ったぜ』
野盗七人を縛った俺とグランは、フェインの元へと戻った。
グランは七人を縛り上げた後、一列に並ばせて一発ずつ殴った。その上で、「逃げやがったらこんなもんじゃねぇぞ」と付け加えたのだ。鬼である。
しかしそれを踏まえても、野盗は驚く程大人しかった。ま、逃げる隙くらい窺うよね。
『やぁ、お疲れ様。よく戻ったね』
そう言って、フェインは俺達を迎えた。見ると、彼の傍には剥ぎ取りの終わったハウンドの骸が積み上げられている。
『二人が招待した“お客さん”というのは、君達かな?』
親しげに話すフェインを見て、野盗の気が緩んだ。
そして連中のそんな雰囲気を、フェインも感じ取ったのだろう。
『僕達は依頼を受けて森に来た冒険者だ。で、冒険者っていうのは他にも色々義務があってね……君達を連行する事もその一つ。そして───』
野盗に言い聞かせるようにゆっくりと話すフェインは、徐にハウンドの骸の山へと手を翳し、
『───“デライズ”』
強力な炎を発する。
『殺した魔獣の処理なんかも仕事だ』
そうしていとも簡単に、全ての骸を一瞬にして消し炭にした。
『ほっとくと疫病なんかの原因になるからね。あ、そうそう』
フェインは終始笑顔である。
『君達は燃やさないから安心してね』
でも、目尻は一ミリも下がっていない。
『君達が、“人間”の“お客さん”でいてくれる間は、ね』
完全に悪ノリだった。
「とにかく、無事に依頼は達成できた……報酬を分配しよう」
「良いねぇ、今回も大漁だったからな」
言いながら、フェインは受け取った報酬をテーブルに置いた。
「報酬はいつも通りで良いね? シュート」
「……助かるよ」
三等分。フェインは人格者だ。俺みたいな雑用にも平等に報酬を分けてくれる。
「あぁ、感謝すんならパーティー入ってくれても良いんだぜ」
「気持ちは嬉しいけどね、足手纏いになるのは嫌なんだ」
「……ま、気長に考えておくれよ。僕達はもう少しここで活動する予定だからさ」
言って、二人は立ち上がってギルドを後にした。
パーティーか。普通に魔法とか使えたら、そういう道もアリかもね。けど、実際問題上位を目指す彼らにとって、俺の存在はいつか必ず枷になる。
やっぱ一人が気楽で良いよね。
「さて……」
一応、帰る前に依頼の張り出された掲示板を見ておく。うん。俺一人で受けられるのは街のトイレ掃除くらいか。
「しょっぱいな」
帰るか……ん?
「割りの良いクエストあったか?」
「いいえ、出ている討伐依頼はどれもランクB以上で……C以下では荷運びや護衛がほとんどでした」
「んだと!? てめぇ、俺に雑用しろってのか!?」
少女がチンピラに怒鳴られている。
───かわいそうに。
その少女を、俺は知ってる。最近ギルドでよく見る顔だ。
この世界では寿命を全うできない人も多い。だから、親と死別したりしたんじゃないかな。
歳は十五、六歳くらいか。まだまだ子供だ。
「すみません……」
「……くそっ、仕事は無しだ。ついて来い」
「はい……」
そして、幸か不幸か“魔法”の存在するこの世界は、子供でも労働力になる。
だから幼くして冒険者になる子は、熟練者の雑用とかして下積みをする。懐かしいね。
そして少女は、その師匠選びで不幸にも“ハズレ”を引いたんだ。
───魔力は君の方が多い。二、三年の我慢じゃないかな。
頑張ってればきっと良いことあるよ。そんな感じで、もし生きてたらご飯奢ったげるねって気持ちで、俺はスルーを決めてギルドを出た。
しかし、
「……いや、待てよ……」
その時、俺は気付いてしまった。
───まさか……。
「あのさぁ」
そして声を掛けていた。
「……あん?」
「指導ってもっと熟達した人間がやることだと思うんだよね」
対峙するチンピラ冒険者は、不機嫌そのものの表情で俺を見据える。
「てめぇ、誰にもの言ってんだ」
「君だよ、馬鹿なのかな? 自分で依頼も選べない低脳は会話も難しいと見えるね」
───さぁ来い! この“展開”、読めたぞ!!
「調子乗ってんじゃねぇぞ!」
言って、チンピラは拳を振りかぶる。
魔力は感情によって励起される。そうして出力を上げて攻撃するんだ。だから戦闘を生業とする冒険者は直情型が多い。道理だね。
そしてチンピラはステゴロを選んだか。お互い腰には剣を下げてるけど、必要ないと判断されたらしい。好都合だ。俺の剣はただの飾りみたいなもんだからね。
いやしかし……
───単調な動きだね。
如何にも雑魚っぽい。
そんな素人丸出しの拳を、
「オラァ!」
「ぶふぉっ!」
俺は正面から受ける!
「オラオラオラァ!」
「ぶっぐはっほぼぉ!」
そして殴られ続ける!!!
「ぐ……」
やがて俺は崩れ落ちた。だが、まだだ。まだ終わっていない。
「ちっ! 余計イライラしちまったじゃねぇか……よぉ!」
「ぃぎっ!」
地に伏せる俺の右手を、チンピラは踏み抜いた。あ、骨いったかも。
───だが、それで良い!
「“雑用”がっ! イキってんじゃねぇよ!」
───とどめを刺されて、捨て台詞まで言われたよ……そろそろ来ても良いんじゃない……?
「───暴漢が暴れているんです! あそこです!」
「なんだって!? おい君達! やめなさい!」
「……ちっ、騎士かよ! くそ!」
ひとしきり俺をいたぶったチンピラは、駆け付けた騎士にビビって逃げ出した。
───でも来て欲しかったの、騎士じゃないっ!!
演出は良さげだったが騎士はハズレ。
「大丈夫か?」
「はい、おかげさまで……」
右手が逝きました。どうせハズレならもうちょい早く来て欲しかったな。
「……君、冒険者かい? もう少し鍛えた方が良いな。騎士団に来るか?」
「はは、遠慮しておきます。ありがとうございました」
「あぁ、気を付けるんだよ」
言って爽やかな笑みを残し、騎士は去って行った。
「あの……」
「あぁ……ダサいとこ見せちゃったね」
声をかけてきたのはさっきの少女だ。近くで見るとちょっと可愛い。
……いや待て、まだこの子が残ってたな、演出継続ってことか?
「いえ、ありがとうございます」
「良いよ、別に」
───……まだか? もう一押しってことか??
次なる演出の気配。慎重に行動すべきだ。
「そうだ、これ、あげる」
「え?」
俺は受け取ったばかりの報酬を少女に手渡す。
「お金……?」
「うん、奢り。ご飯でも食べると良いよ」
───どうだ! 人助けまでしてやったぞ!!
「ありがとうございますっ!」
頭を下げて礼を言う少女を改めて観察する。うん。あと二、三年ってとこだね。
あとなんか魔力の流れを感じる腕輪をしてるな。魔法が付された道具。
それ売ったら一、二ヶ月食えるんじゃない?
「じゃ!」
俺は可及的爽やかに手を振ってその場を後にする。
───ダメか……。
怪我したから薬も買わないといけないのに報酬は渡してしまったし……あ、腹鳴った。
でもそれ以上に、俺は落胆していた。
───スキル覚醒イベントもバディ結成イベントも来なかった……。
しばらく歩いて、溜息を吐いた俺は周囲を見渡す。少女が追ってくる気配なし。
───……ヒロイン登場イベントも無し、か。
また、今日も何も変わらなかった。
俺は苦笑した。その時だった。
「あの」
「……ん?」
呼び止められて振り返った時、“奴”がそこに居た。
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