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25話 大事な用事ほど忘れ物するもんだよね


「この!! 何で、壊せない!!」


 アリエラの結界は相当強力みたいだ。グレイスがいくら剣を浴びせても壊れる気配が無い。


「生捕りをお望みかしら?」


 そんな様子を眺めながら、リアムはアリエラに問い掛ける。


「あぁ。だが、悪い癖が付いている者も多くてな」


 アリエラは美しい表情に冷たい笑みを乗せる。


「多少、手荒でも構わない」


「なら、手加減は必要ないわね」


───本当に全員ぶっ殺してしまいそう。

 リアムの殺気は凄まじい。


「ジーク……」


 次いで、アリエラは結界越しに対峙する自身のボディガードに声を掛ける。


「……頼む」


 悲痛な呟きだった。


「グレイスさん、加勢するぜ!」


 瞬間、後続のマフィア達が押し寄せる。


「“業火(デライズ)”!!」


「アリエラ、こっちだ!」


 俺は複数人から放たれる強大な魔力を察して焦る。


 そして俺がアリエラの手を引き、後方へ下がると同時に結界は破られた。


「リアム!」


「……事情は帰ってから聞くわ」


 すれ違う同居人に目配せして心強い返答を得た。ここは奴に任せて良いだろう。


「おい、戦わなくて良いのか?」


「邪魔になるからね、今は退こう」


 俺の行動に、アリエラは困惑の表情を浮かべる。


 彼女は、今回の最重要保護対象。他の誰が死んでも、彼女だけは生かさなければならない。


 だから一度身を隠す。そして見極めるんだ。


 敵の狙いがエルフか(・・・・)お嬢か(・・・)を。


「……とりあえずここで様子を見よう」


 俺達は倉庫の奥の通路を抜け、階段を上がって二階に身を潜める。


「敵はあの数だ。一人ではすぐにやられてしまうぞ!」


「はは……大丈夫だよ。アイツは俺の知る限り、特に戦闘においては───」


 リアムとの付き合いはまだ短いけど、思うんだ。


「───間違いなく(・・・・・)最強(・・)だからね」


 この大陸に、奴を越える魔力を有する者がいったいどれ程居るのだろう、と。


「へへ、俺はイスタンテ四天王のどわあああ!!」


「俺こそがイスタンテ四天のぐあっ!」


「俺は四天王! 四天王なんだぎゃああああ!」


 吹き抜けになっている倉庫。柵の隙間から戦闘の様子を見下ろした俺は溜息を吐く。


 あれが四天王かぁ……。


「……っ!」


 アリエラは俺を押し退けて何かを短剣で受け止めた。


「お嬢さんよぉ、デートなら俺が付き合うぜぇ」


 “隠蔽”の魔法を使い、人知れず接近してきた男は剣を握り不敵に笑う。


「……女を口説くなら、もう少し男を磨いておく事だ」


 鍔迫り合いのさなか、アリエラの短剣に光る魔石が赤く輝いた。


「なっ!!」


 そして前触れなく短剣から炎が放たれる。


「ぎゃあああああ!!」


 男は至近距離で放たれた炎により、数メートル吹っ飛ばされた。


「やるね」


「……試したか? 次からは自衛しろ」


「いや、必要ないかなと思って」


 言い訳しながら彼女の武器を観察する。


 アリエラの短剣には、二つの魔石が組み込まれているみたいだ。一つはさっき放った炎の魔法だろうけど、もう一つは何だろう。


 炎との相性を考えれば、木とかになるけど……。


「……もったいないね」


「何がだ?」


「君、“応用型(・・・)”でしょ? そんなチープな魔法使わなくともあんな雑魚、簡単に制圧できると思うけど」


「……買い被り過ぎだ」


「居たぞ! こっちだ!」


「二人しか居ねぇ! やっちまうぞ!」


「そっか───」


 更なる敵の接近を察し、俺は持ち物を確認する。


 手元にあるのは、アリエラから貰った名刺と、お飾りの剣、あと天使の何やらが付された指輪……あれ?


 “イカれた悪戯(クレイジー・トリック)Vol.2”は?


「───じゃあ、今回は俺が守ってあげる」


「……何?」


 俺は溜息を吐く。思えば今まで、随分と厄介な生活を送ってきたな……。


 魔力が使えないせいで無能の烙印を押されたり、魔法の知識がほとんど無駄になったり、雑用みたいな仕事しかできなかったり。


 そんな中、こんな真面目に生きてるなんて……健気な俺。


 魔法が使えないから、誰もやりたがらない仕事ばかり選んでこなした。


 それでも身の危険は絶えないから、剣を磨いて最低限自衛できるようにした。


 街の人々ともそれなりに上手くやってる。ギルドでは馬鹿にされがちだが、アイツら口が悪いだけで基本は気の良い奴らなんだ。


 だから直接害をなさない限り、殺さ(・・)ずに(・・)……滅ぼさ(・・・)ずに(・・)おいて(・・・)やった(・・・)


「良い事を教えてあげよう。魔法は無限の可能性を秘めてる。でもそれを使役する俺達の寿命……魔力(・・)は、有限であまりにも少ない」


 言って、俺は立ち上がる。


「だから考えた。有限の魔力で、無限に戦う方法を、ね」


「はは……この後に及んで、ふざけてるのか?」


「どうかな、見て判断すれば良いんじゃない?」


 敵は、七人か。少ないな。


「そもそも、俺達に無限なんて必要ないんだ。どうでもいい。全部あるっていうのはその実、何も無いのと同じだからね。だから君も───」


「手柄は俺のもんだ、死ねっ!」


 俺は敵の剣を素手で受け止め、


「───もう少し、自信持って良いと思うよ」


「がふ……ぁ」


 そして男の腹を打ち抜いた。


「何だ……魔力も使わずに……?」


「うん。ちょっとダサいとこ見せちゃうけど許してね。あと一個お願いがあるんだけど、良い?」


「?」


 力は湧いてくるのに、感情が凪いでいく。皮肉だ。


「忘れ物しちゃってさ。終わったら俺のこと、思いっきりぶん殴ってくれる?」




☆☆☆★★☆★☆




「何なんだ、コイツ!」


「……バケモンか?」


 人間とは矮小な存在だ。故に徒党を組んで同調する。


「たった一人相手に……全滅だと……?」


 しかし、それこそが人間の持つ最も恐るべき力でもある。


「ふぅ……残り四人か、少ないわね」


 大陸に現存する七種族の内、個の能力で最も劣るのが人間だ。一方で、大陸の覇権を握る種族もまた、人間だった。


 彼らはその弱さ故に結託し、力を募る。知恵も武器も魔力も。


 それを実現する、他の種族に無い固有の能力。


「コミュニケーション能力、か。恐るるに足りないわね」


 各種族がそれぞれの居心地の良い土地へと住処を分けた現代、種族間の交流は希薄になっているが、それでも人間の都市に住む異種族は少なくない。


───燃え広がる炎。下らない。

 彼らの扱う火の魔力、その魔力特性は“延焼”。享楽的で短命。まさに人間だな。


 他に影響を与えることが得意で、一つのことに拘らない。故に突飛な発明を実現する、摩訶不思議で奇天烈な思考を有する種族。


───だが、それ故に無駄が多い。

 人間は体外に放出する魔力、即ち使役可能な魔力が他の種族より多いのだ。


 しかしその扱いは稚拙そのもの。


 自由な発想を持つために集中できず、制御が困難なのだろう。結果、無駄に消費される魔力の比率が高い。とんだ皮肉だ。


 魔力と人格には密接な関わりがあるという。


 火の魔力を持つために享楽的になるのか、享楽的だから魔力が火に染まるのか……鶏か卵か、どちらが先かに興味は無い。


 それはエルフの緑を焼き尽くし血に染める赤だ。立ちはだかるなら容赦はしない。


「……で? あなたはやらないの?」


 一人、開戦からずっと傍観者の如く壁に背を預けて立ち尽くす男に声を掛ける。


───敵か味方か。それにしても、

 彼は確か、シュートがアリエラと呼んだ女の傍に居た男だ。


───強いな。

 そして、彼の纏う魔力だけは、他の有象無象と明らかに一線を画している。


「……お嬢の言い付けでな」


 男はそれだけ言って、目を伏せた。戦意は無いらしい。本当に何を考えているのか、さっぱり読み取れない。


「……ま、良いわ」


───残念だ。この男が相手なら、良い鍛錬になったのに。

 とはいえ、戦意の無い相手を攻撃するのは本意ではない。


───だからまぁ、見逃してやるさ。僕は(・・)、な。

 視界の端で、僅かに気配が薄まった男を見るともなく一瞥し、諦めて雑魚を掃除する仕事に戻る事にした。


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