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19話 異世界尋問術②「バカは拳で分からせる」


 僕は全身を強化する。キマイラで準備運動を済ませたことで、魔力の馴染みが良い。


 そして一歩の踏み込みでチンピラの一人、その懐に入り込む。


「ふっ!」


「ぐえっ!」


 そして鳩尾(みぞおち)に拳を叩き込み、一撃で失神させた。


───まず、一人。

 話を聞くため、真ん中の一番偉そうな一人は残す。他はどうでも良い。


「なっ!」


「おい何ボサっとしてる! さっさと……ギャっ!」


 混乱する男達を速度で翻弄しつつ、無力化していく。


 大振りの剣を躱し、顔面を殴る。怯んだ他の男に接近し、跳躍。脳天に踵落としを入れ、着地と同時に抜いたナイフを振り向きながら一閃、背後から迫る剣を叩き斬る。


「……へ? あがっ!」


 状況を理解できていないチンピラの顎に空いた左手で掌底を入れる。


───弱過ぎるな。


「がっ!」


「ぐお……」


「な……おい……」


「……残るはあなた一人だけど、どうする? 質問に答えるなら見逃してあげるけど」


「ヒィッ、すみませんどうかい、命だけはっ!」


 手を払いながら告げる。男は恐怖に後退り、震える足をもつれさせると尻餅をついた。


「そう、良い返事ね。質問よ。あなた達は何者?」


「お、おお俺達は雇われの! 末端の構成員だ!」


「……構成員? 何の組織に所属しているの?」


 人間の組織とは、厄介だ。


 人間は他の種族、魔獣と異なり、完全に一つの意志の元に群れを統一することができる。


 それは時に“宗教”などと呼ばれ、おかしな幻想を抱く狂気の集団を形成するに至る。


 そして人間の組織の脅威とは、それ自体が自我を持った一つの“生命体”に等しいという点だ。滅ぼすのは容易ではない。


「い、言えねぇ……それだけは……俺だって、マフィアの端くれなんだよ!」


「そう。あなたはマフィアに雇われているのね」


───また、“マフィア”か……。

 昨日、シュートと共に潰した集団もそれだったはずだ。


 人間社会の“裏”を支配する集団、マフィア……人間は何故表と裏を分けたがるのか。


 金や暴力、性欲、その他根源的欲求を“隠すべきもの”として奥底にしまう習性。


 恐らく、協調する上で邪魔になるのだろう。皆で頑張り、皆で我慢する。人間関係において、欲求を表に出すのは忌避される行為らしい。


 美辞麗句で取り繕わないと団結できない集団に、いったいどれ程の価値があるのか。僕には理解できないが、それが彼らの価値観らしかった。


「……あぁそうだ! こ、これ以上は言えねぇぞ、き気に食わないなら、ころ殺せっ!」


 そうして無言の内に押し殺され、積年降り積もった欲求の受け皿となる組織。


 それがマフィアであり、そこでは暴力も略奪も容認されている。道徳から最も外れた集団だ。


───狙われているのは、果たして()か、それとも僕達(・・)か……。


「質問なのだけど」


 男の目には、何か希望めいた色を感じる。全身の震えからして恐怖を克服したようには見えない。何か、縋るものがあるのだろう。


───少し喋りやすくしてやるか。

 目の前の男は、明らかに小物。尋問など初めてだろうから、早く終わらせてあげることにする。


「あなたの上司、“グレイス”ってそんなに“良い人”なの?」


「……っ!?」


 男は動揺を惜しみなく表情に出した。


 死を目前にした極限状態で、面の皮を厚く保つ度量などない小物。小声で話していたから、僕には聞こえていないと高を括っていたのかも知れない。


「……何が言いたい?」


「だってあなた、助けを待っているように見えるんだもの」


「なっ!」


 男は驚愕する。


───当たり、か。

 素行の悪い末端のチンピラ。恐らく「見張りをつけるからな」とでも念を押されたのだろう。


 今も仲間が見ていると、応援を呼んで駆けつけてくれると信じているのだろう。


 しかし、その可能性は無い。


「言っておくけど、僕の索敵範囲に人の気配は無いわ」


「そんな、嘘だ!」


「残念だけど本当よ。もし嘘なら、覗いてるそいつをまっ先に始末してると思わない?」


 僕の言葉に、男の顔が一気に青ざめる。


「あなた、弱いもの。私がグレイスなら、捨て駒をわざわざ助け出したりしないわ。そのための捨て駒だしね」


「そ、そんな……グレイスさんは、期待してるって……」


「あなた言ったじゃない。俺もマフィアだって。非情な組織が実行犯をどう扱うか、僕でも知っているけれど?」


 言って、男の抱く希望を粉砕する。


 男を見ると、力なく項垂れていた。自身の最期を悟ったのだろう。


「知っていることを全て話しなさい。そうすれば、約束通り解放するわ」


───その後どうなるかは知らないが、な。


「……俺達は、マフィア“エテルニア”の派閥、“イスタンテ”だ……グレイスさんが組織した、ビジネスに特化した組織……と聞いている」


「……そう」


 ビジネス、つまり金儲けを最優先にする組織。しかも犯罪行為を容認するマフィア。


 ロクでもないことを企んでいるに違いない。


「それで? 僕を狙った理由は何?」


 それは恐らく、単純な冒険者狩りではないだろうと考える。


本当に(・・・)エルフだぜ(・・・・・)

 彼らは、相手がエルフだと事前に知っていた。


 エルフの冒険者など少ないだろう。僕以外のそれを見たことがない。


 つまり、狙いは冒険者ではなく僕ということになる。


「……派閥争いに、勝つためと……生かして連れ帰れと、言われた」


───まぁ、その程度しか知らないだろうな。

 彼の言葉に嘘はなさそうだ。魔力を見れば分かる。完全に屈服している。


 つまり、彼が雇われの末端構成員であることも事実。重要な情報を握る役には就いていないだろう。


 問題は、僕のことを“男”と知って襲撃したのか、否か。


 彼らの反応を見るに、僕の正体が割れているとは考え難い。知らないのだろう。


 しかし、“上司”とやらはどうなのか。何を意図しているのか。


───……ダメだ分からん。

 人間の考えなど、僕には難解過ぎる。


 結局、その後も二、三質問し、この男がロクな情報を持たないことの確信を得てから、十人を解放した。

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