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12話 ドリンクバー耐久


 俺達はカフェに移動し、視線を気にしながら話を聞いた。


「きっかけは、ほんの出来心だったんです」


「ありがちだね」


 思春期の非行、その動機の九割五分はそれなんじゃない?


「学校では真面目に勉強をしていました。早く一人前になって稼ぎたかったんです」


 家庭環境とか、色々悩む時期だもんね。貧乏を親のせいにして反抗するとかよく聞くし。


 それをしないだけ、この少年はできた人間という訳だ。ま、流石シーナの弟って感じか。


「そんなある日、聞いたんです。子供でも簡単にできる仕事がある、と」


「へぇ」


 上手い話もあるもんだね。


「話は学校の友人から聞きました。それで僕はすぐに、歓楽街の路地に構える奴らのアジトを訪ねました」


 言って、少年・ルークは憎々しげに腕輪を睨む。


「その結果、この腕輪を付けることになったんです……!」


 被験者(モニター)


 それが彼に与えられたバイトだったのだろう。確かに前世でも治験とかあったしね。


「……触っても?」


「はい、どうぞ」


 許可を得て、俺は差し出されたルークの右腕と腕輪を観察する。


───外側には変わった様子なし。

 紋様……魔法式は内側に書いてあるのだろう。外から見る分には普通の腕輪だ。


 しかし一点、不思議な箇所があった。


───……穴?

 それは小指の先程の、細長い穴だった。


「これ、どんな効果があるの? 魔力の出力が上がるとか聞いたけど?」


「一般に出回っているものは、そうです」


「つまり、これには特殊な効果があると?」


「はい。と言っても、根本の原理は同じなんです。違うのは、目的の方です」


───やはり、か。

 俺は視線で続きを促す。


「これは、“奴隷の(・・・)腕輪(・・)”なんです」


「……前衛的だね」


 聞いて、俺は目頭を押さえた。


───えげつない事に巻き込まれとるぅ……。

 奴隷の腕輪。前世で一部の少年に愛されてたドクロのアクセサリーとか、そういうダークなモチーフのイキリアイテムというものはこの世界にも存在する。俺も一時期愛していたからよく知っているんだ。


 しかし話を聞くに、この腕輪はそういう類の黒歴史製造機ではなさそうだ。


「奴ら、これをばら撒いて人身売買を企んでいるんです……!」


「待て待て、そもそもの話だけど」


 熱くなってやや声量の上がったルークを宥める。


「奴隷とか、禁止されてるよね?」


 人間の隷属など認められていない。少なくともこの国では、奴隷身分などという制度は無いんだ。


 そして人身売買は犯罪。厳罰が定められている。


「その通りです。でも奴らは、その法の抜け穴を潜るつもりなんです」


 ルークの言葉を聞いて、俺は一つの可能性を口にする。


「……“魔力変調”だね」


「! そうです、よく分かりましたね」


 人間は意のままに魔力を操ることで“魔法”を行使する。


 それを逆手に取って、対象の魔力の流れを操作することで意志を操ることができないかというアプローチ。それが“魔力変調”だ。


 付けるだけで魔力の出力を増加させるとか、如何にも胡散臭いと思っていた。


 それはそもそも、長期に渡る鍛錬で少しずつ向上させ、安定させるものだ。


───腕輪……なるほどよく考えられてるね。

 奴隷と言えば首輪だろう。イメージより機能を重視したアイテム。実用的だ、本物っぽいね。


「付けた瞬間にその人の魔力で魔法を発動、魔力を変質させることで意志を制限し操る。で、魔力が尽きない限り半永久的に魔法が持続する、って感じかな?」


 恐らく、反抗や疑念といった意志を奪うことで隷属させることが目的だろう。


 何も疑わず、ただ従順に動く人間。正しく奴隷だ。


「……すごいですね、そこまで分かるなんて」


 ただ、そうなると疑問が残る。


「で、何で君は自由に行動できてるの?」


 腕輪をしているはずのルークは、騎士を呼び、計画を俺に明かした。明らかな反抗だ。


「はい。実は付ける前に、刻まれた魔法式を調べていたんです。それで、一部不可解な魔法式が組み込まれていることに気づいて……」


「っ! 書き換えたの!?」


「声が大きいですっ」


 ルークは慌てて、周囲の視線を探るようにキョロキョロと見回す。


「……はい。愚かな自分は、その魔法式を書き換えることで性能を改善できると思いました」


 モニターとしてはこの上なく優秀だね。


「腕輪の違和感にはすぐに気付きました。外せないことにも……幸い、魔法式を乱したおかげで隷属は免れたのですが……」


「バレたんだね」


 ルークは頷いた。


「奴らは僕を利用することにしました。学生は、現時点では役に立ちませんが、やがて成長すれば様々な要職に就く可能性があります」


「なるほどね」


 つまり、ルークは級友に腕輪を付けて回っていた、ということだろう。


「すると、意志を制限されてる訳でもない君が、そこまで分かってて何で協力してるのかって話になるけど……」


 決定的だ。真面目な少年が犯罪行為に加担する理由。可能性は絞られる。


「人質、とか?」


「……僕が情報を漏らせば、姉を始末する、と」


 まさに悪魔の一手だね。


「解決の糸口は?」


「……正直、僕が関わっているのは恐らく組織や計画の末端です。解決となると……」


「騎士か、それ以上の権力の介入が必要、か」


 正直、だいぶ面倒臭い。


「……手に負えないことは承知です。だから、手を引いて下さい」


「ん? あぁ、大丈夫大丈夫」


 トラブルに巻き込まれる俺を案じたのだろう。自分の方が不味い立場のくせに、泣かせるね。


「一つ試したいことがあるんだ。良いかな?」


 踏み込んだ以上、見極めが重要だ。単純な損得勘定。


「は、はぁ」


 損切りのタイミングを見誤れば、死ぬ。


「あぁそれと……」


 その時、俺の腹が鳴った。何も食ってないんだから仕方ない。水で腹は膨れないんだ。


「君、金持ってる?」


 カフェに入って数十分、店員の視線を無視し続けるのもそろそろ限界だ。



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