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104話 ドアを壊すのが得意なんだ


 “心圧(マインド・プレス)”は精神に圧を掛け、心の機微(・・)を奪う魔法である。


 それにより、“至剣”は常人ではあり得ない驚異的な集中力を発揮していた。


「無駄だ」


 続け様に炎が“至剣”を襲う。“至剣”はそれを結界を用いて危なげなく防ぎ、爆煙が広がった。


 その爆煙に紛れ、シュートは“至剣”との距離を詰める。


 結界に、火傷を癒すための回復魔法。明らかに剣に回す魔力が減少している。


「……やはり、無駄だ」


「それはどうかな?」


 高い集中力を誇る“至剣”は、決して対処を誤らない。故に、爆風に紛れ接近してきたシュートにも、その剣技にも問題なく対応し、二刀により圧倒しつつあった。


 先の攻防で、彼が炎を被弾したのは一騎打ちに集中(・・)し過ぎた(・・・・)ため(・・)


 冷静さを取り戻した彼は、正面突破不可能な技量を持つ“勇者”としてシュートの前に立ち塞がる。


「ジニー!」


 しかしその“集中力”が、


「後ろっ! 避けて!」


 またしても隙を見せる。


「───貰ったわ」


 “鉄壁”の警告の次の瞬間、“至剣”の背後を取ったリアムが一蹴する。


「ぐっ」


 “至剣”の反応は間に合わない。彼はその高過ぎる“集中力”故に、“びっくり(・・・・)できない(・・・・)のだ。


 それは生命維持に欠かせない「反射神経」、「危機回避」の否定。“想定外”に対処できないのだ。


 咄嗟の反応、結界の展開が間に合わなかった“至剣”はリアムにまんまと右肩を蹴り抜かれ、剣を取り落とした。


「君、本当不器用(・・・)だよね」


 二対一。眼前の光景に、“鉄壁”は歯噛みした。


 リアムが何度も炎を打ち込んでくる理由、その目的に気が付かなかったのだ。


 リアムは試していた。飛空する結界群が、反応しないギリギリの角度を。


 そして現状、“鉄壁”は敵二人に攻撃できない。“至剣”に近過ぎて魔法は使えず、また彼らの戦闘に加わるだけの体技が“鉄壁”にはない。


 だから“鉄壁”は、歯を食いしばってその時を待った。


「どけ」


「おっと……」


 そしてその時は意外にも早く訪れた。


「───“業火(デライズ)”」


「任せて」


 シュートは剣を跳躍により回避。その隙を“鉄壁”の火球が突くが、


「……もう、あなたの相手は飽きたのよ」


 リアムが完全に防いだ。


「……役割分担だよ。ちゃんと後ろ守ってね」


「仕方ないわね……あなた、ジーニアスだったかしら?」


 リアムは飛来する飛空剣を結界で防ぎ、対峙する“至剣”へと妖しく微笑む。


「彼、踊って(・・・)くれなかった(・・・・・・)でしょう?」


 話しながら更に結界を展開し、“鉄壁”の火球を防ぐ。


「振られてしまって可哀想。僕が相手になってあげるから、いつでも誘ってね?」


「一人で踊ってろ」


 “至剣”はその超人的な集中力により、飛空剣の維持と身体強化、全身の回復を平行して行う。


「お前もどうせ、シュートの二の舞になるだけだ」


「ふふ。つまり、逃げ切りで僕の勝ちってことね」


 言って、リアムは煙の中に消えた。




☆☆★★☆☆★☆




 リアムを見送った俺はジーニアスと斬り合いながら思考する。


 近接戦闘が得意なリアムは、爆煙に紛れ“鉄壁”に接近するつもりだろう。


───けど、たぶんバレてるね。

 彼女、“鉄壁”のラズベルはジーニアスの背後を取ったリアムを察知して警告していた。何らかの魔法による効果だ。


 恐らくその魔法とは、彼女の異名の所以ともなった結界魔法、その応用。


 そもそも生物無生物問わず強引に探知して受け止めるとか、現代の魔法理論の常識を二、三段階超越している。


───流石、“賢者”ってことか。

 今日何度目だろう、彼女らの偉業を称えるのは。


 彼女があの規格外の結界魔法を構築するに至った経緯、その発端となったイメージ。その根源は恐らく俺達の日常にありふれているもの。


 部屋への人の出入りを可能とし、また招かれざる客の侵入を拒絶する可動式の壁。即ち“ドア(・・)”だ。


 常識はずれの神業故に空想の域を出ないが、彼女はあの結界魔法の展開に際し、最低でも四枚の結界を同時展開している。


 そしてその内、三枚は“実態のない結界”を張っているということだ。


 魔力を固めずに自然のまま使役することによって探知されず、しかし空間に明確な“線”を引いて“内”と“外”を区別する荒唐無稽の離れ業。


 この三枚の実態のない結界を自分を中心とした同心円状に配置。最も外側の第一層目を通過した物体を防御対象とする。


 第二層を通過した際に物体の速度と角度を測定。必要枚数を割り出して第三層の可動式の結界群で防御する。


 そして、第二層に触れずに通過した物は無視するという仕様。


 結界群の内側に引いた第四層の役割は、自身の攻撃の探知。第四層を通過するものは素通りさせる仕様も組み込まれているはずだ。


 じゃないと自分が魔法を使う時に邪魔だからね。


 これらは仮説に過ぎないが、恐らくこれに近い仕様にはなっているはずだ。そしてそれを前提に考える上で、問題点が一つ。


───これ、俺も探知されちゃうね……。

 彼女は俺の天敵。絶対に仲良くしようと決めた。


「考え事か? 隙だらけだぞ」


「まぁね。君は少し、焦った方がいいと思うよ。知ってる?」


 まぁ相手がどんな神技を使おうと関係ない。


「エルフはねぇ、ドアを壊すのが得意なんだ」




☆☆☆★★☆★☆




 一進一退の攻防。形勢は僕優位に傾きつつあった。


 互いに枷を嵌め自由を封じられた冒険者。今までにない緊張感が僕の集中力を底上げする。


 炎を放ち、防がれる。結界を展開し、火球を防ぐ。その一手一手に微かだが確かな手応えがある。


 そして戦闘の中で僕に起きたもう一つの変化。相変わらず魔力操作は手に馴染まないが、分厚いだけの壁を用意するのには苦労しなくなってきた。


 慣れてきたのだろう。


───悪いが詠唱している分、そちらが不利だ。

 試しに僕は手の中に魔力を集める。


 そしてその魔力を結晶化。棒状の(・・・)結界(・・)を形成、それを振り抜いた。


「ふっ」


───悪くないな。

 形の醜い棍棒状の結界は、飛来する結界群を容易く一蹴した。


 長さや強度、様々の不安があったがぶっつけ本番にしては上手くいったようだ。しかし左手で扱う慣れない武器に、こちらの体勢もやや傾く。


───練習するか。

 重量武器もたまには悪くない。


 雑に生成した結界に雑に魔力を纏わせて叩きつける。二、三度それを使って、壊れたらまた新たに生成する。


 そうして前進しながら、目についたそれ(・・)を拾う。


───いい感じだ。

 この調子なら、想像より遥かに早く辿り着けそうだ。


 速度を上げる。こんなつまらない戦いはさっさと終わりにしてしまおう。


「……馬鹿ね」


 爆煙の先、“鉄壁”の周囲で魔力が昂まった。


 彼女は賢者だ。普段なら魔力の揺らぎから攻勢を察せられる事などなかっただろう。


「自分の魔力じゃないのに、探知を考慮しないだなんて悪手だわ」


───少し、翻弄してやるか。

 高速で移動し、敵の背後に回る。しかし次の瞬間、


「っ!!??」


 賢者が放つ強力に圧縮された熱線は、確実に僕を捉えていた。


 僕は体を捻り、魔力を纏わせた結界の棍棒で打ち払う。


「っ!」


 しかし想像以上にその勢いは強く、結界は吹き飛び大きく体勢が崩れる。


 瞬間、頭部でそれがズレた(・・・)


 僕は無意識に手をやって頭部を押さえるが、咄嗟の行動であったために間違えた(・・・・)


───痛っ!

 右手の血でヅラが濡れる。


 しかし、痛みに顔を顰めている場合ではない。


 追撃が来る。ここまで肉薄したなら、後退するよりとどめを刺す方が早いだろう。


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