初めての悪意
収穫祭2日目
「私は何度も見たことあるけど、初めてでしょう?モモちゃんと店番してるから、見てきていいですよー。」
「エリス様!お言葉に甘えまして!」
いろんな人に構われてウキウキのモモはちょっと現金だと思う。
魔道士の儀式が始まり、街は静かな神聖な空気に包まれていた。翔太はエリスに屋台を任せ、祭りのクライマックスである儀式に参加することにした。儀式の最中、翔太の頭には屋台のことがちらつくものの、魔道士たちの力強い祈りを感じていた、魔法の力なんて半信半疑だったが、確かに力の波動が染み込んでいくのを感じることができた。
あれ‥?もしかして俺にも魔法の力があったりする?
「ありがとう、魔導士たち……」翔太は心の中で静かに感謝を述べながら儀式を見守っていた。
儀式が終了する少し前、モモの初めて聞く苛烈な吠え声に嫌な予感がした翔太は急いで屋台に戻ると、目の前に広がっていたのは、信じがたい光景だった。
「な、なんだこれは……?」
翔太の目の前にあるのは、あれほど丁寧に仕込んだ商品がぐちゃぐちゃにされた屋台のテーブルだった。保存食として乾燥させたサツマイモの串焼きや、凍餅を串に刺してタレをかけたものが、どれも無惨に潰され、タレが飛び散っていた。誰かが意図的に壊したとしか思えない。
「誰が、こんなことを……?」
翔太はその光景を目の前にして、言葉を失った。あれほど手間をかけ、心を込めて仕込んだ保存食が、このように台無しにされていることにショックを受けていた。サツマイモの串焼きや凍餅は、寒い冬に備え、街の人々に食べてもらうために作った大切な商品だった。それを、こんな無意味な形で破壊されるとは……
エリスがやってきてその光景を見て、言葉を失った。
「翔太、ごめんトイレに行って‥これ……誰が……?」
翔太は静かに首を横に振る。怒りと悲しみが入り混じった感情が胸に押し寄せる。「みんなが儀式に注目してる隙に……」
まだ荒ぶっているモモを撫でながら言った。鼻に皺を寄せて落ち着かない様子だ。
エリスは周りを見回し、翔太の肩を軽く叩いた。「落ち着いて。犯人を探しても逃げてるだろうし意味がない。これからどうする?手伝うから。」
そのとき、昨日の夜ビール片手に一度話したことのある人、焼き鳥屋のリーザと、パン屋のサラサが寄ってきた。
「翔太さん、大丈夫か?」リーザが駆け寄ってきた。「この光景を見て、みんなびっくりしてるよ。でも、何か手伝えることがあれば言ってくれ。」
サラサも駆け寄ってきて、「手伝うから、言ってね。みんなで協力しよう!」と明るく声をかけてくれた。
「ありがとう……」翔太はうなずきながら、心から感謝の気持ちを込めて答えた。「一緒に片付けてくれると、本当に助かるよ。」
昨日話した男女をはじめとする数人の祭りの参加者たちが、翔太の屋台に集まってきて、ダメにされてしまった商品を片付け始めた。潰れた餅を片付け、散らばったタレを拭き取る。あっという間に、屋台の周りが片付いていく。
「もう一度、仕込み直しだな。」翔太は気を取り直して、まだ残っていた食材を整理しながら言った。「残りを売り切るよ。」
エリスも横から手伝いながら、「きっと間に合うよ。みんなで力を合わせれば大丈夫。」と励ましてくれた。
みんなの協力で屋台がきれいに片付けられると、翔太はふと気づいた。保存食が持ち去られている。
お釣り用に置いていた売上金の一部もやられている。昨日分はギルドに入金し、2日目分は大部分を持ち歩いていて急死に一生を得た。危ない、ただの借金持ちに格下げになるところだった。
「ありがとう、みんな。本当に助かったよ。」翔太は感謝の気持ちを込めて、もう一度礼を言った。
「モモ、お手柄だったな。おかげですぐに気がついたよ。」モモがえっへん、どでも言うように体を擦り付けてきた。
その後、翔太たちは再び屋台を開店させ、残った時間で新たなメニューの仕込みを始めた。祭りは続き、若い男女が夜空の下で笑いながら集まり、屋台を楽しんでいる姿が見られる。翔太もその中に溶け込みながら、少しずつ笑顔を取り戻していった。