芋
翔太が住む街では、年に二度の「収穫祭」が最大のイベントとして開催される。
秋の祭りは「実りへの感謝」と「寒害防止の魔法を施す儀式」が中心で、街中が一丸となって盛り上がる重要な行事だった。魔導士が寒さや害虫から作物を守るための魔法を広範囲にかける儀式が行われ、その費用や供物を捧げるのがこの祭りの大きな目的だ。
祭りまで残された時間はあと数週間。翔太は祭りに向けた準備を進めると同時に、必要な資金を稼ぐため日々奮闘していた。
翔太の「肉巻きライスボール」は、街の人々にすっかり人気となり、常連客も増えてきた。しかし秋の収穫祭は普段とは違う。街には周辺の村々からも多くの人が訪れ、競争が激しくなるため、翔太は追加のメニューを考える事にした。
「手間をかけすぎても時間がないし、屋台でのお手軽さが大事だな。」
翔太は市場でサツマイモを手に取り、思案し始めた。すると、ふと思いついたのは、冬の食糧難をしのぐための料理だ。凍餅なら保存がきくうえ、手軽に提供できる。そして、見た目や味付けを工夫すれば、屋台でも十分に魅力的なメニューになるはずだ。
「これなら、串物にできるし食べ歩きにも便利だ。」
翔太は市場で新鮮なサツマイモを購入し、早速試作を始めた。サツマイモを蒸し、潰して、雪のように白く美しい凍餅に仕上げていく。そのままでも美味しいが、屋台向けには、上から甘辛いタレをかけてこんがり焼いて出すことにした。甘辛い味付けが受けることは、肉まきおにぎりで実証済みだし、団子は食べ歩きにぴったりだ。
「これなら、お客さんもつくかな。」翔太は、凍餅が焼き上がる様子を見ながら、ほっと胸をなでおろした。温かくてほんのり甘い餅は、手軽に食べられて、腹持ちもいい。
そうだ、屋台で干して日持ちするようにした餅を売るのもいいかもしれない。焼き直せば悪くない。
翔太は屋台仲間たちとも協力を深めていた。焼き鳥屋の店主リーザからは炭火の扱い方を教わり、パン屋の職人からは「祭りでは目立つ演出が重要だ」とアドバイスを受けた。
「翔太、ただ料理が美味しいだけじゃダメなんだよ。人の目を引く工夫が必要さ。例えば、派手な看板や飾りを使うとかね。」
翔太はその言葉を胸に、屋台を彩る旗や看板を手作りで準備し始めた。ミーナやエリスも手伝い、徐々に屋台は存在感を放つようになっていった。
祭りが近づくにつれて、村の雰囲気もどんどん活気づいていった。エリスは翔太に、収穫祭が街にとってどれほど重要な意味を持つかを語った。
「寒害防止の魔法がなかったら、この街では冬の食糧事情はかなり厳しいものになる。だから魔導士への感謝の気持ちを込めて、街のみんなでこの祭りを盛り上げるのよ。」
その話を聞いた翔太は、収穫祭がただの商業イベントではなく、街全体の命を繋ぐ大切な儀式であることを理解した。そして、同時に保存食の商機でもあると思った。
「よし、祭りまでに色々保存食の準備をしてみるよ。俺の料理で、冬にも美味しさを届けたい。」
「保存食はやっぱり、干したものばっかりで味気ないのよねー」
食いしん坊ミーナがこう言うのだ、これはいけると期待が高まった。
翔太の屋台はすでに街で受け入れられ、売り上げも順調に伸びていた。新メニュー「凍芋餅」は、試食会の段階から評判で、砂糖はまだ庶民には高価なため、甘味として女性うけも良かった。
祭り当日に向け、仕込みと試作を繰り返す日々
ハードワークで昔を思い出したが、あの日々に戻りたいとは思えなかった。