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第五章 3


 夢をみるのだ。


 あの日の夢を。地獄の夢を。

 忘れるものか。あいつらを忘れてたまるか。

 絶対に、忘れてなんかやらない。

 許さない。許してたまるか。

 絶対に、許してなんかやらない。

 そう。

 声が、聞こえるのだ。

 裡から響く声。あの日からずっと。怨嗟を囁く、嘆く声がある。

 なんて言っているのだろう。

 なんて、言ったのだろう。

 ——誰が。言ったのだろう。

 人を殺す霧が広がっていた。呑み込んでいく。町を。声を。人を。命を。

 誰かが囁いた。誰もが叫んだ。


 ——お前らみんな、死んじまえ。


 そう。

 夢を、見るのだ。地獄の夢を。

 体中に激痛が走った。内側から引き裂くような痛み。身体が侵されて、腐って、死んでいく。

 死ぬのだと思った。殺されるのだと、思った。

 それはあの日の追憶。

 憎悪の記憶に押しやられた、けれど確かに心の柔らかいところに刻まれた痛みの記憶。

 エリスは——レン・ファレノシスは、あの日の絶望を覚えている。薄れようとも、上書きされようとも、なかったことになんて、できるわけがないのだから。

 大人たちに囲まれて、何をしているのかなんてわからなかったけれど、自分が殺されようとしていることだけはわかった。

 痛みと、悔しさとで涙が滲む。霞んだ視界に、数人の大人が映った。助けて何てくれない。彼らは何か話している。——笑っている。

 嗤っている。

 嗤っていた男が、そこにいる。

 あれは人じゃない。鬼だ。

 ——お前はさ、恨んでるか?

 恨んでいるよ。憎んでいるよ。だってずっと、叫んでいるもの。泣きじゃくる子どもが、叫んでいるもの。

 なんで。どうして。なんで僕だったの。どうしてあんな目に合わなければいけなかったの。

 この心には、あの日からずっと痛いほどに握りしめて、振り上げたままの刃がある。

 叫ぶ。悲鳴のように。呪うように。

 お前のせいだ。お前たちのせいだ。

 お前たちのせいで、そして。

 ——だから、ねえ、言ったでしょ。

 言ったでしょ、アスタ。

 もし、目の前に現れたら。——僕はきっとそいつを殺すだろうね。

 


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