第44話 宣戦布告
~大河view~
木犀祭の目玉になる『Zフィット大会』の告知は先日行われ、その内容や豪華賞品がすぐに学校中で話題になった。異常にかっこよすぎる告知ポスターも話題になっていたが、あれは九音さんの仕事だ。キャラクターは描かれていないので〈イクス〉の面影は無いが、それでもデザインセンスは高校生離れしていて、作者不明のそれに美術部などでは衝撃が走ったとかなんとか。恐るべし神絵師。
本番までに生徒がスマートトレーナーを体験できるようにと、木犀祭実行委員が確保した第二視聴覚室に俺のスマトレが設置され、昼休みに実行委員立会いのもとで生徒の誰もがプレイできるようになっている。
おかげで俺は木犀祭が終わるまでの間、インドアトレーニングができなくなってしまった。今回の件で後になって後悔したことのひとつだった。
こうしてスマトレを開放している理由はいくつかある。
ひとつは作戦会議で上がった懸念に対してだ。
『先輩が無双しすぎるとチートを疑われるかもしれません』
その懸念はもっともだった。たぶん俺は多少手加減しても無双してしまうだろう。Zフィットに馴染みのある生徒がいるとは思えない。その場合、高確率でイカサマを疑われる。
イカサマはバレなければイカサマではないとは言うが、イカサマしてもいないのにチート呼ばわりされては興が醒めてしまう。
ならば事前に多くの生徒にZフィットに慣れ親しんでもらって、プレイ感覚を養ってもらうべきだということになった。
昼休みに遊べるようにしたZフィットの立会いには、泉美を筆頭に数人の実行委員が買って出てくれた。スマトレ本体のセッティングや、Zフィットアプリの操作などはしっかり覚えさせたし、人に説明できるようにレクチャーした。
そして最も重要な理由が――
「貴方が勝山さんですね」
昼休み。俺と花音さんは第二視聴覚室にやってきた。
室内には立会い役の泉美と、Zフィットを目的にやってきた幾人かの生徒がいた。
その中心でZフィットをプレイしている金髪の男子生徒こそが、渦中の勝山京治だった。
「誰だ、お前は?」
「私は生徒会一年の飯山です」
「生徒会が俺に何の用だ?」
スマトレを回す脚を止めずに、威圧的な台詞を吐く。
「このZフィット体験を占有しすぎではありませんか?」
花音さんはたじろぐことなく言い返す。意外にも肝っ玉の太い子だ。
「生徒会が俺に難癖付けるのか? 別に占有なんかしちゃいない。この場にいる全員が納得したうえでやってるぜ。なあ、そうだろ?」
勝山の言葉にギャラリーが同調する。いや、同調しているのは彼の取り巻きのような面子だけで、端の方に追いやられている生徒は苦虫を嚙み潰したような顔をしている。泉美も無表情だが、俺にだけ伝わる微妙なアイコンタクトを送ってくる。
勝山とその取り巻きはこのZフィット体験を連日長時間占有していた。普通であれば風紀的に望ましくない状況だが、彼を嵌めるのが裏目的であるため今日まで泳がされていた。
「そうですか。皆さんから了承を得ているのであれば我々はとやかく言いません」
「ふん。用件はそれだけか?」
「いいえ、ここからが本題です。勝山さん、スキー合宿の件ですが、こちらの秋谷先輩がスキーに立候補しましたので勝山さんは参加枠から外れることになります」
「なんだと?」
勝山はペダルを止め、俺のことを睨みつける。
「まだあれに立候補するやつが残ってたとはなぁ。よりにもよってパイセンか」
「そうだ、俺だ。悪いけど俺が行かせてもらうから」
「バレーもろくにできねえパイセンがスキーなんて滑れんのか? 遊びに行きてえだけだろ」
「こう見えてスキーは得意でね。ウェーデルンだって楽勝だよ」
「ふうん……」
信じてない顔だ。別に信用させる必要は無いので受け流す。
しばらく俺を捉えていた勝山の視線が逸れ、再び花音さんを捉える。
なんとなく、粘着質な視線に変わっていた。
「なあ、生徒会一年の飯山って言ったっけ。君もスキー合宿来るんだろ?」
「はい。そうですが」
生徒会は主催者なので原則全員参加だ。ただし非正規役員である俺の分の予算は無い。
「スキー? スノボ? スノボなら俺がバッチリ教えてやるよ。やりたいグラトリがあったら言ってみな。マスターさせてやる」
「私はスキーです」
「俺はスキーだって教えてやれるぜ」
「スノーボードで参加申請されているのであれば、スノーボーダーにだけ指導してください」
「だったら俺は今からスキーに申請し直す。君にスキーを教えてやるし、スキー合宿への参加は成績順でパイセンに降りてもらう」
勝ち誇ったように言う。
脅迫のことはさておいても勝山がスキーで立候補していれば良かったのにとはあの日の会議で言われていたが、もはやそういう問題ではない。こいつはスキー合宿に行かせてはならない。
「悪いけど、今スキーに替えたところで降りてもらうのか君のままだよ」
「なんだと?」
「スキー合宿の同伴生は進路の心配がない生徒が優先される。俺は内定取得済みの就職組だから優先順位では最上位だ」
「馬鹿言え! 優先順位は成績順だろ! そんな話聞いたことねえぞ!」
「成績順なんて話自体、生徒会の公式アナウンスには無い」
誰がどう喚こうがスキー合宿の裁量権は生徒会が握っている。グレーゾーンはこちらでいくらでも解釈できるのだ。
「なあパイセン。俺と裏でお話ししねえか?」
スマトレから降りて立ち上がり、ドスを利かせた声で告げてくる。やはり脅迫できたか。
「裏でいいのか? 表でやろうぜ」
教室内にピリッとした緊張が走る。泉美がたじろぐほどだ。
「ほう……いい度胸だな」
指をパキッっと鳴らしてくる。
「おっと暴力はいけないな」
「んなことするかよ。なあ、パイセンは何が望みだ?」
「白黒はっきりつけばいいんじゃないか?」
「ならちょうどいい。これで白黒つけようぜ」
そう言って先ほどまで跨っていたスマトレを叩く。
――掛かった。
「そうだな。それならフェアに戦えるな」
我ながら白々しい発言だった。
「今からやってもいいんだぜ?」
「昼休みだと時間が短すぎる。他にもやりたい生徒だっているんだ。やるなら本戦だろう」
「いいのか? 本戦は大人数の衆人環視だぜ? そもそもパイセンは予選通過できんのかよ」
「できるように頑張るよ。できなかったらまあ、俺の負けだな」
「フン。せいぜい漢気を見せてみるんだな」
「俺が勝ったらスキー合宿は諦めろ」
「くだらん。俺が勝つ」
「ワンチャンあるかもしれないだろ? 約束しろよ」
「ああいいぜ、約束してやる。無駄に終わるだろうがな。あんたが負けたらもちろん降りろよパイセン」
「もちろんだ。そのセリフ、忘れるなよ」
「ふん。帰るぞ」
勝山は取り巻きを引き連れて教室を出て行った。
ようやく教室内を満たしていた緊張の糸が緩む。
「……ふうー。とりあえず言質は取った……」
なんかもう疲れた。とりあえず午後はずっと生徒会室に引きこもろう。あいつと顔合わせたくない。
「…………」
泉美も花音さんも黙り込んでしまっている。
「ごめんな花音さん。少しの間だけどあいつの矢面に立たせちゃって」
「いえ……」
答える花音さんの表情は読めない。
俺の傍らに泉美が近づいてくる。
「ねえ兄貴」
「どうした泉美?」
「あいつ、絶対ボコボコにして」
泉美がキレてる。かなりマジでキレてる……。
「先輩」
「はい……」
怒気を発する妹の圧に当てられながら、もう一方からの声に振り向く。
「あんな人、叩きのめしてください」
俺は初めて、絶対零度の視線で教室の外を見る花音さんというものを見た。
せっかく勝山を釣る大役を終えたのに、とんでもないプレッシャーまで釣り上げてしまったらしい……。
【筆者注】
自由な校風なので金髪の生徒は珍しくありませんという設定。




