第42話 オレペーション・ざまあ系
~大河view~
「やっほー兄貴。なんか大変だって九音から聞いたから来たよー」
九音さんに連れられてうちの妹がやってきた。軽音楽部の活動で学校にいたところを捕まえてきたらしい。木犀祭が近いのに練習しなくていいのかお前は。
ちなみに九音さんと泉美は別荘に行って以来呼び捨てで呼び合う仲になったらしい。仲良きことはいいことだ。
「先輩お待たせしました! 実行委員長を連れてきたっすよ!」
「直接お会いするのは初めてですね先輩。お久しぶりです。重松です」
「おう、久しぶり」
武藤に拉致されてきたのは木犀祭実行委員長こと、重松健一君だ。彼とは去年リモート会議で一応顔を合わせている。あの一年坊が今年は委員長かぁ。
「では役者が揃ったところで、さっそく作戦会議を始めます!」
武藤の仕切りで作戦会議とやらが始まる。
「生徒会は今年、木犀祭で競技形式の大会を企画したいと思っている。できれば木犀祭の目玉になるような目立つ企画がいい」
「それはここに来るときに軽く聞いたけど、どんな競技にするつもりだ? 場所はどこを使いたい?」
「競技は今から決める。先輩が必勝のものを選ぶ」
「必勝のものとなると、絵か自転車ですか?」
「絵で勝負は勝敗の決め方が難しいし、勝山先輩が乗ってこない可能性が高い。ここは自転車にしよう」
「待て武藤。今勝山先輩って言ったか? お前らあの勝山先輩と勝負するつもりなのか?」
重松君が鋭く反応する。
「その通りだが?」
「あの人を本気で倒すつもりならスポーツは避けたほうがいい。同じサッカー部だからわかるけど、キャプテンはスポーツの申し子だぞ」
「そんなにすごいんですか?」
花音さんが疑問を投げる。
「サッカー部を関東大会に引き上げただけあって身体能力は抜群だよ。部活はバリバリやりながら毎日自主練も欠かさずやってるし、体力テストは総合で学校内一位。各テスト項目もほとんど一位で、二位だったのは一年の陸上部エースに奪われたって言ってた千五百メートル走ぐらいらしい。それでも四分半を切ってた」
へえ、そりゃすごい。
「先輩は千五百メートルってどれぐらいなんすか?」
「俺か? 今年は計ってないけど、去年は確か五分二十秒ぐらいだったかな」
武藤も重松君も渋い顔になる。我ながら頑張ったタイムだし一般的に見て速いほうだと思うけど、勝山と戦うには足りないと思われてるのだろう。重松君は勝山のことをよく知ってるみたいだから聞いてみるか。
「で、その勝山は自転車やってるの?」
「キャプテンですか? 自転車やってるって話は聞いたこと無いですけど……でも本当にスポーツ何でもできる人ですから、やめたほうがいいですって」
「やってないんだな?」
「まあ、たぶんそうですけど……」
「なら俺が勝つ。勝負にもならん」
「…………」
重松君が絶句している。
同世代で俺に勝てるようなライダーは草レース常連のメンバーなので名前は覚えている。その中に勝山はいない。
伏兵の可能性はあったが、今の重松君の証言からそれもないだろう。
「……先輩、それ本気で言ってます?」
「当然だ。重松君はサッカー部だそうだけど、水球は得意か?」
「いえ、やったこともないですけど……」
「それと同じだよ」
「同じって……」
自転車競技はそこらのスポーツとは違う筋肉特性が要求される。畑違いでも善戦できる競技者がいるとすれば、スピードスケート選手ぐらいだろうか。素人と戦って負ける可能性は皆無だ。
「委員長。心配そうですけど、うちの兄貴を自転車で走らせたらこの学校で勝てる人はいませんよー。そんな先輩ボコボコにしちゃいますって」
「秋谷さんまで……」
「なんかうちの兄貴、ずいぶん舐められてるみたいですけど最強ですから。最近流行りのざまあ系展開がリアルで見れますよ。スカッと爽快なジャイアントキリング!」
「……わかった。そこまで言うなら信じるから」
俺の妹である泉美の口添えで一応納得はしたらしい。
「で、自転車で対決するのはいいが、どうやって競走するんだ? コースなんて用意できないだろ」
俺のひと言に全員が黙り込む。さもありなん。俺だって妙案は浮かんでこない。
「まず学校外周の道路は無理だぞ。交通規制のやり方は知らないが、たぶん警察への申請に近隣への周知、当日の警備までを生徒会と実行委員だけでこなすのは非現実的だ。そもそも動き出すにはもう遅いかもしれない」
「校庭は……」
「論外だ。狭いし砂地だから絶対誰か怪我する。雨で濡れたら俺でも走りたくない。怪我人が出たら責任を取るのは企画者代表の武藤だぞ」
「先輩のためなら、僕は責任だって取ります」
「軽々しく責任を取るなんて言うな。もし一生残る後遺症を負うやつが出たら、お前はそいつの前で同じことが言えるのか? 半身不随ならお前が一生杖になる覚悟があるのか? カネでも出すのか?」
「…………」
「安全は最優先だ。文化祭ごときで怪我なんて馬鹿馬鹿しい」
「でも、それじゃあ自転車で勝負なんてできませんよ……」
「俺を勝たせるんだろ? 自転車以外でも何か考えろよ。柔軟に思考しろ」
「…………」
沈黙が下りる。
「いえ、やっぱり自転車でいきましょう」
重苦しい空気を破ったのは花音さんだった。頭を抱えていた武藤が反応する。
「安全にって、どうやってやるんだい?」
「先輩のお家に置いてあるアレを使うんです」
「なるほど、スマートトレーナーか……」
考えたな花音さん。さすがは優等生。
「何すかそのスマートトレーナーって」
「スマトレってのはな……」
スマトレを知らないであろう武藤を始めとするこの場の面々に、俺はスマホで動画を見せたりしながら説明してみせる。
「これは面白い! 流行りのeスポーツってやつ? 体育館の舞台でできるじゃないか」
食いついたのは重松君だった。
Zフィットがeスポーツと言えるかどうかは俺にもわかりかねるが、ビジュアル的にはそうかもしれない。というか普通のeスポーツよりもガチな筋肉バトルになる。
「これなら安全だし天気も関係ないし、観客も一箇所に集められる。何より新鮮味と先進性があってウケそうだ。武藤、これを今年の木犀祭の目玉にしよう」
「いいのか重松?」
「どうせならでっかいことをやりたかったんだ。生徒会と実行委員の合同企画ってことなら体育館の使用時間を長く取っても平気だろう。少しクレームは来るかもしれないが、俺と武藤が権力のツートップだから握りつぶしてしまえばいい」
発想がたくましい後輩達だな……。
「その代わり予算は多めに寄越してほしいんだが……」
「敬愛する先輩のためです。限度はありますが、最大限善処しますよ」
会計の内城がきりっとした顔で言う。ほんとにお前らの結束力なんなの。
「ちょっと待て。うちのスマトレを使うのはいいけど、対戦形式でやるならできれば同じのがもう一台必要だぞ。一台だけでもできるっちゃできるが、木犀祭の目玉にするなら二台ないと盛り上がらないぞ」
「えっと……レンタルってできないですかね?」
「……調べてみるか」
スマホで製品名を入れて検索してみるが、ヒットしない。
「やっぱ無いな……あれデカブツだし高いからな……目玉企画にするのは諦めたほうがいいんじゃないか?」
「うーん……」
盛り上がっていたところに水を差すのは忍びないが、無いものはないのだ。
「待ってください先輩。ちょっと伝手に聞いてみます」
「花音さんの伝手? 誰?」
「〈ゼロ〉さんです」
まさかの名前が出てきた!
「は!? え、いつの間にゼロ姐と繋がってたの?」
「コミケの後からです」
俺は天を仰いだ。
マジかよ……よりにもよってゼロ姐とかよ。これもう〈飯山さん〉イコール〈ハナネ〉が他の連中に周知されるのも時間の問題だぞ。っていうか俺と花音さんがツイッターで交わしたやりとり見られるってことじゃん! うっわー最悪だ……。絶対イジられるよ。
「あの……先輩?」
「ああ、いや……気にしないでくれ。そうか、ゼロ姐に相談するってことは貸してもらえそうな人を紹介してもらうつもりなんだな……」
「はい」
「いいアイデアだと思う。そういうことなら貸してくれそうな人を俺が紹介するから、ゼロ姐には聞く必要無いから」
「紹介してくれるんですか!」
「俺がするのは紹介までだから、借りる交渉は花音さんでしてね」
「わかりました!」
後のことを思うと若干憂鬱になる俺と、やる気に満ちてキラキラしている花音さんとはまるで対照的だった。
「えっと、じゃあこのスマトレってやつは二台確保できそうなんすね?」
「まあそういう前提で進めてくれ」
「わかりました! じゃあ残るは勝山先輩を誘い出す作戦だけっすね!」
「どうするのがいいんでしょうか?」
「そこは手っ取り早く賞品で釣るのが王道でしょう!」
「お! 豪華賞品くれるのか? 出来レースだし実質俺のだよな。ちょうどフルワイヤレスイヤホン欲しかったんだよ。一番いいやつ用意してくれよ。四万円くらいのやつ」
期待を込めてうちの大蔵大臣に視線を送る。
「例年より高価ではありますが、通しましょう」
よし! さすが内城。イヤホンは俺のものだ! 重松君まで小さくガッツポーズしている。
「じゃあ勝山先輩をうまく誘い出す段取りを決めましょう。作戦名は『オペレーション・ざまあ系』!」
ノリノリの武藤率いる一同の作戦会議は、その後も下校時間ギリギリまで盛り上がり続けた。
マジで何なの君たち……。
【筆者注】
みんな大好きざまあ系




