第40話 新生徒会始動
〜九音view〜
夏休みが明け、九月になった。学校は後期課程に突入する。
久しぶりの学友との再会、頑張ってやっつけた課題の提出、そんな定番のイベントがある中で、私には定番じゃないイベントがあった。
生徒会役員への正式就任である。
放課後、私は花音と合流して生徒会の初出勤へ向かった。
「ようこそ生徒会へ。これからよろしく」
生徒会室に入ると武藤会長からの歓迎を受けた。室内には内城先輩と大河先輩もすでに控えていた。
「はい。これから一年間よろしくお願いします」
「一年間よろしくお願いします。相談役の先輩も頼りにしてますよ!」
花音が大河先輩を突っつく。夏休みの終盤から、この二人の距離が近くなった気がする。全く油断ならない男だ。
「じゃあさっそく仕事を始めようか。まずは備品の場所から教えるね」
備品の保管場所から始まり、生徒会室の鍵の借り方や定常業務の手順などのレクチャーを受ける。定常業務の手順として渡されたマニュアルは、大河先輩の代が作ったものらしく年季の入っていない小綺麗な冊子だった。
「次は非定常業務についてだけど、まず最初の山場は来月に控えてる木犀祭だ」
木犀祭とは、この西園高校の文化祭の通称だ。これが十月に予定されている。
「僕ら生徒会は、この木犀祭の監督役を務めることになる」
「なんか大変そうですね」
「監督役って響きは重く感じるけど、木犀祭運営に関わる大半の仕事は木犀祭実行委員会がやるから気負わなくていい。生徒会がやることは予算の監査と、消防や保健所との対外折衝、あとイレギュラーなトラブル対応ぐらいだよ」
「なるほど」
「とは言えそれなりの役割を担うから、クラスの出し物とかは木犀祭実行委員と同じように参加免除される」
それは朗報だ。こういうの苦手なのよね。
「去年はバタバタだったけど、今年は余裕がありそうだし生徒会で出し物することもできるよ。何かやってみる?」
「私はやらなくていいと思います」
「私も別に……」
花音も同意見のようだ。
「じゃあそういうことで。もしやりたくなったら来週までなら申請できるから」
「はい」
「まあ差し当たっては今週の木犀祭実行委員会会議への参加だな。顔合わせ的なものだから、一言二言喋るだけだけど」
「わかりました」
「木犀祭実行委員と言えば、泉美も委員だったよね」
「お、あいつをこき使えるチャンスだぞ。恨みがあるなら今のうちだ」
「別に恨みなんてありませんから、仲良くやりますよ」
むしろ彼女がいるならやりやすそうだ。
「木犀祭についてはこれぐらいかな。あとは、そうだな……」
「どうした武藤? 他に言う事あるか?」
悩む仕草をする会長に、大河先輩が声を掛ける。
「ちょっと懸念事項と言うか、まだ先のことですけど、いずれは対処しなきゃいけないことがあるんですよね。うん、せっかくだし、一年生の知恵を借りてみようかな」
「私達の知恵ですか。お役に立てればいいですけど」
「武藤、とりあえず話してみ。何の件だ?」
「スキー合宿の件です」
「だいぶ先の話だな」
「スキー合宿?」
「一年生の手前、イチから話そうか」
武藤会長は居住まいを正す。
「まず前提として、うちの高校では二年生の冬に修学旅行として北海道でスキー研修がある」
「さっきのスキー合宿とは別ですか?」
「別だよ。スキー合宿はこのスキー研修に備えてスキー・スノボを経験しておきたい一年生を対象に企画されるものなんだ」
なるほど。私や花音はスキー経験があるが、東京都在住の私達世代でスキー・スノボ経験者は少数派だ。全く滑れない生徒にはつまらない修学旅行になりかねない。
「このスキー合宿の運営は先生方はほとんど関与しないから生徒会主導でやることになるんだ」
「生徒会で? どうしてですか?」
「この企画の起源は昔の生徒会が公約で掲げて実現させたものだそうで、最初は生徒会の独自企画だったんだ。それが学校公認になって予算がもらえるようにはなったけど、あくまで生徒の自主企画の範疇でという扱いで、そのまま伝統となって今に至るという感じらしい」
「……昔の生徒会は随分とエネルギッシュだったんですね」
「公約を掲げたぐらいなんだから、きっと選挙も盛り上がったんだろうねぇ」
運営を任される側からすればはた迷惑な話だが、参加する側の気持ちを考えると美談なような気もする。
「このスキー合宿の運営も、毎年依頼してるツアー会社さんとか先代から受け継がれてるマニュアルに沿って進めれば概ね何とかなるんだけど……」
会長の声が尻すぼみになる。ここからが本題のようだ。
「補佐の生徒の立候補状況が望ましくないことになってる」
「補佐の生徒……」
「三年生から四人集める同伴生か。足りないのか?」
「いえ、一応四人立候補者はいるんですけど、スキー・スノボの割合が一対三になってしまっていて……」
「なるほどな」
「割合が問題になるんですか?」
「同伴生はスキースクールを希望しないで滑りたい生徒の監視とインストラクター役も担ってもらってるんだ。だからスキーとスノボは二人ずつなんだけど……」
「立候補するスキーヤーが他に見つからなかったんですか?」
「いや、元々は二人ずついたんだけど、後からスノボが一人立候補してきて、同時にスキーヤーの一人が辞退したんだよ。噂では、その後から入ってきたスノーボーダーの勝山という生徒がスキーヤーの生徒を脅したらしいとか……」
「えええ……」
高校生にもなってそんなことで脅迫って……。
「脅されたらしい生徒はなんて言ってるんですか? 普通に問題ですよね」
「僕も一応本人に会ってはみたんだけどだんまりで……気の弱そうな人だったし、口止めされてるのかも。こういうのは親告罪だから、本人が被害を相談してくれないことには生徒会も学校もどうにもできない」
「そもそもなんで後から来た生徒はスキーヤーの生徒を標的にしたのでしょう? 脅迫の問題はさておき、スノーボーダー同士ならこちらとしては頭を悩ませることはなかったのに」
「おそらくだけど、標的にされた彼は一番成績が低かったからじゃないかな……。スキー合宿は二月中旬にやるんだけど、ギリギリ受験シーズンだからそれまでに進路が定まる見込みが高い生徒が優先されることになってて、スキーヤーの一人とボーダーの二人は学年トップテンに入ってる生徒だったんだよね」
「…………」
弱肉強食とはよく言ったものだわ……。
「そうは言っても成績順が適用されるのはスキーとスノボの各二人ごとだから、スキーヤーの彼が辞退しなければ勝山先輩は落選だったんだけど……だからこそ追い払ったんだろうなぁ」
「その勝山って生徒はどんな人なんですか? 不良?」
「僕は学年が違うから人づての評判しか聞かないんだけど、運動神経がものすごく高くてサッカー部のキャプテンで、弱小だった部を関東大会まで引き上げた立役者だって話は耳に入ってくる。素行が悪いって話は聞いたことは無い。だから脅迫したって噂は半信半疑かな……」
「いや、たぶん本当だろう」
ずっと黙って聞いていた大河先輩が口を開く。
「それマジっすか先輩」
「勝山はうちのクラスにいるけど、ありゃインテリヤクザだな。授業は無遅刻無欠席らしいし成績も上から数えたほうが早いらしいから教師陣からの評判はいいけど、見下してる相手に対しては威圧的な態度を取ってる。普通の不良よりタチ悪いぞ」
「うーん、なるほど……」
会長は腕を組んで悩み始めた。
「やっぱり他にスキーヤーの立候補者が出てこないのはそれで萎縮しちゃってるせいなのかなぁ……一年生のほうはいい案ないかな?」
会長がダメもとのようなニュアンスでこちらに意見がないか振ってくる。そんなこと言われても、私もどうしたらいいのか思い浮かばないんだけど……。
「簡単な話じゃないですか」
花音が軽い調子で答える。
「簡単? そんないい方法がある?」
「はい。だって大河先輩が立候補すれば解決じゃないですか。先輩、スキーできますし」
ね。と花音が大河先輩へアイコンタクトを投げる。しかし会長が困ったように補足する。
「いや、先輩には前に頼んでみたんだけど断られてるんだよ……」
「え? そうだったっけ?」
「先輩!? 僕、七月に一度聞きましたよね!? とぼけないでくださいよ!」
「いや、マジで覚えてない」
「断られてるから先輩に頼む選択肢を消してたのに……」
「たぶんお前が軽いのが悪い」
「僕のせいにするの卑怯じゃありませんか?」
「そんな深刻な事態になってるならさすがに記憶に残るわ。残ってないってことは、先輩スキー行きませんか~とかさっぱりした聞き方だったんじゃないか?」
「いや、うーん……どうだったっけ……」
会長、そこは自信持って答えられないと駄目じゃないですか……。
「やっぱお前が悪い。はい解散」
「ああもうわかりましたよ僕が悪かったです! 悪かったですから、先輩スキー合宿の同伴生に立候補してくれませんか?」
「えー……まあ行ってもいいって答えてやりたいのは山々なんだけどな……」
ここにきて歯切れの悪い言い方をする。
「もしかしてご用事でもあるんですか?」
「いや、そういうのは無いんだが……」
「では他に問題が?」
「俺が立候補すると、たぶん俺も脅迫を受ける」
「「「「は?」」」」
先輩のひと言に、私たち全員は耳を疑った。
【筆者注】
第五章スタートです。




