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第105話 オンナ十六、いろいろあるわ

~花音view~


 一旦ゴンドラ乗り場まで下った私達は、もう一度ゴンドラで上に戻った後、中腹と頂上を結ぶペアリフトを拠点に滑ることにした。

 ゴンドラ降り場から乗り場までだととんでもないロングコースになり(最長四五〇〇メートルにもなるらしい)、私を含むこのグループのレベルだと一気に疲労してしまって大変だったので、細かく休憩できるリフトのほうが良さそうだという判断でこうなった。


 各々のレベルはというと、スノボ組は二人の男子が突出して高いようだ。すいすい滑ってて、たまにグランドトリックとかいう技の練習をしていた。

 スキー組では泉美が一番上手かった。ただ、本人の体力面はさほどでもないのでスピードではその次に上手い浦野君に軍配が上がっているような感じだった。

 それ以外の面々は、まあ私と横並びってところだ。中の下ぐらい?


 レベル別に分かれようかなんて話も出たけど、上級者組の「このままでいいじゃん」という一声でこのままみんなで滑ることになっていた。転んでも助けてくれたり、滑り方のコツを教えてくれたりと上級者組は面倒見がいい人ばかりで、自由滑走のはずだったのにこちらもスキー教室みたいになった。


「へぶっ!」


「佐々木さんまたなんもないとこでコケちゃってー。起こすよ。よいしょっと」


「ありがとー秋谷ちゃん。……ってあれ? あちゃ~。ここ平らだから進まない……」


「あああ待った待った。バックル外さなくていいからこれ持って。はい」


「おおおお! 秋谷様! またもわたくしめに施しをいただけるのですか!」


「はーい、引っ張るからバランス取ってねー」


 泉美は自分のスキーストックの先を佐々木さんに掴まらせて、自力で進めない彼女をスケーティングで進んで牽引していた。

 泉美はずっとこんな調子でみんなのフォローをしている。彼女の意外な一面を垣間見ている気分だ。


「わひゃっ」


 遠くの泉美たちを眺めていたら、近くで織部さんがイメージと違ってやけに可愛らしい声と共に尻もちをついていた。


「織部さん、大丈夫?」


「あ、うん。大丈夫……。逆エッジだけどゆっくりだったから……」


「起きれる? 手伝うよ」


「……飯山さんは、あれ、できる?」


 あれ、と指差す先には佐々木さんを引っ張って進む泉美の姿があった。


「ごめん。あれは私には無理」


 スケーティングで進むのは、私は苦手だ。平地を進むときは専らストックで漕いで進んでいる。泉美がやってる芸当をするには技量が足りない。


「そう……わかった」


 織部さんはその場で片足の留め具を外して立ち上がり、傾斜のある所まで自分で蹴って進んでいく。

 悪いことをしてしまっただろうか。私も泉美みたいにできたら手伝ってあげられたのに。

 ほんのわずかばかりの自己嫌悪を抱きつつ、皆の背中を追って私も板を滑らせた。


 リフト乗り場まで下りきり、ペアリフトに乗ると奇しくも織部さんと乗り合わせた。


「…………」


「…………」


 ちょっと気まずい沈黙。

 やっぱり織部さんとは会話を続けづらい。なんていうか、壁を感じる。


「あ、あの。織部さん」


「……うん?」


「えと……さっきはごめんなさい」


「……え、なんで……?」


「泉美みたいなことできないから……」


「そんなことで?」


「私、優しくなかったかなって」


「……気に病まないで。できないことを強要なんてしないよ。そもそもワタシを助ける義務なんて無いんだから、気持ちだけで充分だよ」


「そう……」


「そうだよ」


「…………」


 再び、沈黙。

 リフトの稼働音がごうんごうんと聴こえ、滑車を越えるところでガタガタと小さく私達を揺らす。


「ワタシも、ごめんなさい……」


「……え?」


 なんのこと?


「……ずっと謝ろうと思ってて。ケイジのこと」


「ケイジ?」


「ワタシの彼氏。勝山京治。三年」


「勝山京治……。あ、あー!!」


 勝山! サッカー部の失礼なキャプテン!


「木犀祭でケイジを倒したあの男、アナタの彼氏なんでしょ? なんであんなことしたのって思ったけど、たぶんアナタにケイジが何かしたんだよね?」


「ああ、うん……まあちょっとね」


 ハラスメントを受けましたけど!


「やっぱり……。ごめんなさい。彼、そういうとこあって……」


「え……。ああいうの、いつもやってるの?」


「いつもっていうか、たまにっていうか……。ちょっと女の子に対して軽薄なことしがちで……」


「それ、彼女的に大丈夫なの?」


「……あんまりいいことじゃないけど、彼がああなのはワタシのせいでもあるから……」


 どういうこと?


「だから、ケイジが何かしたってわかった女の子には、いつもワタシが謝って回ってるの」


「……よくわかんないけど、謝罪ぐらい本人にさせたほうがいいよ?」


「ううん。これはワタシのケジメ。だから、いいの」


 とりあえず、彼女にもいろいろあるのだということはわかった。


「泉美には謝ったの?」


「うん。さっきリフトで一緒になったときに」


「許してもらえた?」


「うん」


「じゃあ私もいいよ。そもそもあれは先輩が勝って終わった話だったし」


「うん……ありがとう」


 これまでずっとよそよそしかった彼女が、ようやく態度が軟化したような感じになった。

 この様子ならちょっと突っ込んだことを訊いても大丈夫かな。


「ところで、どうして今になって? あれは秋のことだよね」


「それは、その……アナタがいじわるな人かもしれないと思って……」


「…………へ?」


「……あれはちょっとやりすぎだと思う」


「…………」


 思い出すのは先輩の圧勝劇。衆人環視の中で勝山先輩は彼にコテンパンに叩きのめされた。

 元々は手心を加えるはずだったのを、泉美と私のお願いのせいで全力で潰されたのだ。それも、生徒会と実行委員会がグルになってお膳立てまでして。

 そう思うと悪いことをしたかもしれないが、元はと言えば勝山先輩が蒔いた種だし、試合自体はフェアな実力勝負だった。喧嘩を売った相手が悪かったという、それだけの話だ。


「でもアナタはあれだけのことで謝ってくれる優しい人だった。いじわるな人じゃなかった。だからその……謝罪が遅くなってごめんなさい。重ねて謝る……」


「ああ、うん。いいよいいよ」


「それに、あれのおかげでケイジも思うところがあったみたいで、だいぶ丸くなったんだ。いい薬になったよ。だからまあ、ありがとう」


 思いがけず感謝までされたところで、リフトは降り場に到着していた。

 それ以降、彼女から感じていた壁の気配は無くなっていた。


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