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第104話 つれてゆこうかこれから、スキー天国へ

~花音view~


 あっという間に連行されて先輩から引き離された私は、今は上へ上へと昇っていくゴンドラの中で揺られている。

 このゴンドラ、関東最長の三一九三メートルの長さを誇るという。なかなか長い乗車時間になりそうだ。


 中上級者メンバーの九人と生徒会の私達二人(会長と内城先輩は初心者の引率等で別行動)の十一人組は、ひとまずは男女に分かれて分乗した。

 女子組のこちらは五人。私と九音と泉美に、D組の佐々木(ささき)さんとE組の織部(おりべ)さんというメンバーで、佐々木さんと織部さんとは初めましてになる。二人はスノーボーダーだったので、板はゴンドラ内に持ち込んでいる。ちなみに私達スキー組の板はゴンドラの外に収納されている。


「女子の中上級者組はこれだけかぁ。ちょっと寂しいね。来年の修学旅行もこのメンバーかな?」


 発言したのは佐々木さんだ。ニット帽から流れる緩く巻かれた黒髪が印象的な、人当たりの良さそうな子。


「一応この合宿は脱初心者応援が趣旨だから、来てない子の中に少しは中上級者いると思うけど……どうかな?」


「そのときになんないとわかんないかぁ。まあでも、来年もこのメンバーは確定だね! 仲良くしよーねっ!」


 うん、よろしく。と他のみんなで輪唱する。

 こういうムードメーカーみたいな子がいると、ちょっと気が楽だ。


「男子組とも仲良くやりたいケド……。やっぱ男子は皆ガンガン滑れちゃうのかな!? うちはギリ無難に滑れるレベルだからついていけないかも……」


「どうなんだろうねー? あたしは家族としか滑ったことないから、同い年のみんながどれだけ滑れるのかちょっと楽しみで来たんだよね」


「秋谷ちゃんも家族としか滑ってないんだ。秋谷ちゃんはガンガン滑れちゃう系?」


「やー。あたしは家族で一番下手っぴで。兄貴達と滑るとトロいってすぐ置いてかれちゃうぐらい。織部さんは?」


 泉美が話を振った織部さんは、金髪のミディアムヘアをしたクールな印象の子だ。顔立ちもやたらと美人で、本当に同い年なのかって思うぐらい。


「……え、ああ。ワタシは上級者コースは無理だけどそうじゃなければ、って感じ……かな」


 ここまでの道中で思ったことだけど、織部さんはなぜか私と泉美に対してだけ微妙によそよそしくなる。原因に心当たりは無いんだけど……。


「コースマップ見ると、このスキー場って広い割には上級者コース少ないんだね。助かるな~」


「私達じゃちょっと無理だもんね」


「うんうん、修学旅行のゲレンデもこんな感じだといいんだけどね。てか、来年の修学旅行はどこで滑るんだろ? 生徒会副会長さんなら知ってる?」


「例年通りならトマムのはずだよ。北海道」


「北海道! なら飛行機か! うち、飛行機乗るの初めてかも」


「へえ、意外。ねえ佐々木さん。飛行機って土禁だからスリッパ必須なんだよ。忘れちゃだめだからね」


「そうなんだ! 気を付けなきゃ。……ってさすがにそれは嘘だってわかるよ! 秋谷ちゃんは意地悪だね!」


「たはは。ごめんごめん」


 泉美と佐々木さん、なんか相性よさそうだな。


「うわ。なんかすごい人がいる」


 突然反応した佐々木さんが示す先を見ると、遠くから激しい雪煙を上げながら斜面をリズミカルな高速ターンで下ってくるスキーヤーが見えた。明らかに他の人より技量が違う。

 ストックは持たず、短い板を履いているようだ。たまーに見かけるやつ。なんて言うんだっけ?


「飛んだ!」


 その人はジャンプ台も無いところで、わずかに盛り上がった雪を利用して宙に飛び出し、水平に一回転して着地を決めた。


「おお〜」


 ゴンドラ内に感嘆の声が上がる。

 その人はそのまま何事もなかったかのように、颯爽と滑って行った。


「……ねえ、九音」


「……なに?」


 泉美が九音と私がギリギリ聞き取れるぐらいの小声で、九音に話しかけている。


「……あれ、洋兄だよ」


「っ!?」


 九音が鋭く振り向いた先には、もう人影も雪煙も残っていなかった。

 えっと、ちょっと想像以上なんですけど……。



 **



 ゴンドラを降り、いよいよ本日の一本目だ。

 今は天気も良くて、目の前には雪化粧した群馬の山々を見下ろせる絶景が広がっている。思わずスマホで写真を撮ってしまった。


「さて、どうしようか。それなりの人数だし、男女で分かれて滑るかスキーとスノボで分かれて滑るかって話してたんだけど、女子的にはどう?」


 という意見を振ってきたのは、おなじみ浦野君だ。

 男子組はスキーが二人でスノボが四人。浦野君はスキーだった。A組の男子は浦野君の他に、スノボの西脇(にしわき)君がいた。それ以外の人とは初めましてだ。


「どうしよっか。佐々木さんと織部さんはどうしたいとかある?」


「うーん……。うちはどっちでもいいけど」


「……ワタシも、どちらでも」


 座り込んで足を板に固定しているスノボ女子組はとくに意見は無いようだ。


「泉美はどう?」


「そうだねー。別に分かれる必要無いんじゃない? とりあえず一本目はみんなで一緒に滑って、多いかなって感じだったらレベル差で分けるのがいいんじゃないかな? レベル差は滑ってみないとわかんないし」


 意外と真っ当な意見が出てきた。

 佐々木さんと織部さんもこれに賛成っぽい。私と九音もこれには異存はないかな。


「なるほど、いいと思う。お前らもそれでいい?」


 浦野君の問いかけに、他の男子も快く了承を示した。

 ということで、全会一致でみんなで滑ることに。なんだかんだでみんな、男女関係なくワイワイ滑りたい気持ちがあったんだろう。


「そういえば浦野君ってどれぐらい滑れるの? なんかすごく上手そう」


 スノボ組の準備待ちの間に、浦野君に近づいて尋ねてみる。


「いや、俺は別にそれほどじゃないよ。爺ちゃん婆ちゃんの家に行ったときにたまに那須塩原のスキー場に連れて行ってもらうぐらいで」


「あ、ハンタマだね! あたしも家族で何回か日帰りで行ったことあるよ! あそこもゴンドラあるよね」


「あ、ああ、うん。泉美さんも行ったことあったんだ」

 

「いいとこだよねーあそこ。あ、そろそろみんな準備できたかな? 早く滑ろう滑ろう!」


 よっしゃ行くか! と言ってボードの男子二人が滑り出していく。結構上手っぽい。

 それに続くように織部さんらが続々と滑っていく。私も行ってみようかな。


 二年ぶりのスキーなので、久しぶりの雪面を感じながら探り探り進んでいく。

 うん、カンは鈍ってなさそう。

 ひとまずはゆっくり、右にターン、左にターン、右に―――


「うわああっとっととお!?」


「ひゃあっ!?」


 背後から突然大声が聞こえたかと思ったら、スノボの男子が私のスキー板を勢いよく掠めていって、バランスを崩した私はあえなく転んでしまった。

 

「ちょっと、花音大丈夫!?」


 すぐさま泉美が傍らに来て、助け起こしてくれた。いつの間に。


「こらー! 西脇ぃ! あんた謝んなさいよー! ……ってアイツも派手にすっ転んでるわ。しゃーない。ドツキついでに助けてやるか」


 泉美は眼下で転がっている彼のところまであっという間に下っていき、急ブレーキでわざと雪をぶっかけながらも彼が起きるのを手伝っていた。


「花音、大丈夫だった?」


 気がつけば、隣には九音と浦野君がやって来ていた。


「ああうん、全然大丈夫。それよりもあれ……」


「あれ、ね……」

 

「……秋谷さん、綺麗に滑るね。俺よりずっと上手そう」


 先ほどの身のこなしに、スノボの男子を助け起こす手際のよさ、そして今まさに安定感抜群のパラレルで雪上を駆けまわる彼女の姿は、私達の中で際立って見える。


「泉美、大して上手じゃないとか、家族の中で一番下手っぴとか言ってたけど……」


「まあ、よく考えてみればあの一家だもんね……」


「あの兄にしてこの妹ありだね……」


 いつだったか、泉美が独白した劣等感のことを思い出す。

 先ほどの大洋さんの滑り然り、先輩の多芸っぷりも然り、泉美を取り巻く環境は特殊すぎた。

 本当は人と劣るところなんて、全然ないのに。

 それにしても、まあ……。

 

「あの兄妹はどうして普段目立たない分野でばっかり活躍するんだろう」


 私のつぶやきに九音も浦野君も概ね同意だったようで、揃って苦笑を浮かべるしかなかった。

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