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第103話 私をスキー合宿に連れてって

~大河view~


 西園高校スキー合宿、その当日がやってきた。

 一学年から募った希望者七十五名に、同伴生として選ばれた四人の三年生、そして主催の生徒会一同を乗せた二台の大型バスが、高速道路を順調に進んでいく。

 朝六時半集合のため朝は眠たげな生徒もちらほらいたが、旅行気分や北へ進むにつれて銀世界に移ろう景色に車内は盛り上がりつつあった。


「うお! あの高い山、真っ白だぞ!」


 高速道路を降りてしばらく進んだところで、俺の後ろの席の一年坊主が感嘆の声を上げている。

 進行方向左手には、俺にとっては見慣れた山体が雪化粧した姿を見せていた。

 浅間山だ。日本でも有数の活火山である。


「あそこで滑るのかな?」


「目的地はそこじゃないぞ。もうちょい先だ」


「あ、そ、そうなんですね」


 知らない生徒相手に思わず口を出してしまった。ここから見て山の裏側にならスキー場があるらしいが、今回の目的地はそこではない。しかし、こんなしょっちゅう火山活動レベルが上がって入山規制されるような山の近くでよくゲレンデなんて営業できるなあ。


「まあ、もうじき到着だから、楽しみにしてな」


 はい、と答えた生徒は路肩に積み上げられた雪に目を輝かせている様子だ。

 実際、俺もわくわくしてきた。先週積もった雪もあっという間に消えてしまった東京から、この銀世界へと変わっていく風景はいつだって心を高揚させる。まあ、豪雪地帯の住民にとっては憎悪の対象かもしれないけどな。



 **



 東京を出発して途中休憩を挟みつつ、三時間半ほどで目的地に到着した。

 ここは群馬県の北西部、パルコール嬬恋というゲレンデが最寄りの宿舎だ。今回はここで一泊二日お世話になる。

 まずは宿舎に荷物を置かせてもらい、早めの昼食をとった。宿舎併設のレンタルショップで各自の用品をレンタルしたらゲレンデへと向かう予定だ。人数が多いので忙しい。


「楽しみですね先輩! 去年は受験で行けなかったので、スキーは久しぶりです!」


「花音はスキースクール無しの予定だったよね。どれぐらいできるんだっけ?」


「私や九音はハの字卒業しかけぐらいって感じですね」


「ボーゲンはできて、シュテムターンがそこそこってとこかな?」


「えっと、たぶんそれです」


 だとするとそんなに滑れる方じゃない……と思ったが、在校生で偏差値を求めたらおそらく上の方だろうか。それだけ滑れればギリ中級者だろうし。

 俺も二年生のときに修学旅行でスキーに行ったが、スキースノボ未経験者のあまりの多さに驚いたものだ。大洋の滑りを見ているせいで俺なんて大したことないと思っていたのに、学年では一番滑れる人扱いだった。こういうところで体験格差が顕在化するのだろう。


「先輩は全部自前なんですね」


 持ち込んだスキー板を準備していた俺に花音が話しかけてくる。


「まあうちの家族は毎年滑ってるし、その度にレンタルなんてしてらんないからね。俺のは中三のときに買ってもらったやつだけど……」


 それまでは中古のものを使っていたが、そろそろ身長の成長も止まるだろうし新品を買ってやると言われて買ってもらったのが今使っているものだ。幸か不幸か、今でも普通にウエアは着れるしブーツも履ける。当面は現役で使えるだろう。


「あたしも自前だよ~」


 泉美も当然一式持参だ。


「花音はレンタル?」


「板とブーツは。でもウエアは今回一式買ってもらったんです! あとで見せますね!」


「おお! 楽しみだ」


 スキーウエア装束の花音。どんな感じになるんだろう。絶対かわいい。

 スキーウエアは萌え絵ではあまり見かけないけど、俺はめちゃくちゃかわいいファッションだと思っている。なんで流行らないんだろう。ボディーラインが完全に隠れてしまうからだろうか?


「大河兄、鼻の下伸びてる」


「いいじゃんべつに」


「この兄開き直りよって……。あ~早く滑りたいな~。洋兄はもう滑ってるんだっけ」


「あいつのことだ。朝イチで着いてノンストップで滑ってんだろ」


 驚いたことに、先週九音さんが大洋をこのスキー旅行に誘っていた。しかも大洋はそれを了承していた。

 当然ずっと混ざって行動するわけにはいかないので、時期が合って居合わせたという格好になる。泊地も別だ。

 逆に言えば大洋はこちらのスケジュールに縛られないので、未明からクルマで家を出てリフトの営業開始に間に合わせて滑りまくっているはずだ。


「ゲレンデに行けば、大洋さんに会えますかね……?」


 若干落ち着かない様子で訊いてきたのは九音さんだ。レンタルしてきたスキーブーツを携えている。


「会える会える。コースの上で突っ立ってれば、わざわざ呼び出さなくても会えるぞ。いつも通りなら食事休憩も無しでヘビロテしてるから」


「休憩なし……?」


「ポケットにチョコとかエナジーバーとか突っ込んでリフトの上とかで食ってるんだよ。時間効率重視だから」


「ほえー……」


「それよりほら、さっさと着替えていくぞ。お前たち生徒会はまとめ役なんだから、先行して動かなきゃだ」


「先輩だって生徒会じゃないですか」


「俺、今回は三年の同伴生扱いで来てるんだけど……。ほら、更衣室行くぞ。泉美は女子の初心者連中誘導してやってくれ」


「あたしは生徒会ですらないんだけど!? まあいいけどさ……。おーい! ウエアの着方わかんない人はあたしんとこ集合~! 手伝ってあげるよ!」


 なんだかんだで手伝ってくれる妹。普段は頼りないけど、本質的には面倒見のいい奴なんだよな。

 あっちは任せて、俺も着替えてくるか。



 **



 全員の準備が済んで、宿舎からは徒歩でゲレンデまで移動する。

 初心者でスキーの参加者はさっそく歩くのに苦労しているようだった。スノボ用のブーツはまだマシだけど、スキーブーツは足首が固定されるので慣れないうちは大変だろう。


「せんぱいせんぱい! どうですか? 似合ってますか?」


「もうバッチリ。最高に可愛い! 今度描く」


 花音のスキーウエアは期待通りの可愛らしさだった。

 大手ブランドのジャケットとボトムスは、スリムなシルエットでスッキリしている。

 それらは淡めの黄緑と青緑のツートンカラーで、雪降る中でも良く目立つだろう。雪と同じ白色や、他のありきたりな色は見失いかねないので助かる。特にこうしてレンタルウエア集団の中だと、マイウエア勢は抜群に目立つ。オシャレを気にする女子からは羨望の目を向けられているようだ。

 ふふん。どうだうちの彼女は。いや、羨望の目を向けられてるのは泉美や他のマイウエア勢も同様だけどさ。


「うわ、秋谷っちがなんか格好良いんだけど」


「ね。赤色なのも似合ってるけど上着にワッペン付いてるし、なんか選手みたい。しかもヘルメットだし」


「ん、これ? めっちゃあったかいよ。ヘルメットマジ最強」


 ドヤ顔でヘルメットを見せびらかす泉美。

 ヘルメットもだいぶ普及してきたとはいえ、お財布的にビギナーには敷居が高い。俺はもちろん持ってきてるけど。


「あのっ、先輩もスキーウエア姿、とても格好良いです。似合ってます」


「……なんか照れるね。嬉しいよ」


「お、イチャイチャやってんねお二人さん。ねえ花音。兄貴をイチコロにする方法教えてあげるよ」


「おい泉美、なにを吹き込む気だ?」


「そんな警戒しなさんな兄者よ。ほら花音、手をこう、ピストルみたいにして兄貴に向けてみて」


「えっと……こう?」


 あ、わかったぞ。アレだ。俺達が生まれる前の映画のアレをさせる気だこいつ。


「そうそう。で、バーンって撃ってみて」


「ばーん」


 その声に合わせて俺は大袈裟にすっ転んでみせた。担いでいたスキー板がガシャンと散らばる。ここまでお約束の動作だ。

 てかハートを撃ち抜かれた感じで普通に萌えた。ばーんの仕草だけでこの可愛さはズルいでしょ。


「ほらイチコロ」


「えっ? 先輩、大丈夫ですか!?」


「よかったね兄貴。夢は叶った?」


「ああ。原〇知世も余裕で超えたぜ」


「え、意味わかんないんだけど」


「うん絶対元ネタわかんないよねこれ。この茶番通じるのうちの家族だけでしょ」


 自分でノリツッコミしてしまった。気になる人はわたスキでググってみてくれ。


「まあ冬が来るたびにバブル期の映画を見返す洋兄がおかしいだけか」


「え? 大洋さんどんな映画観てるの?」


 九音さんそこ食いつくの?



 さて、茶番でじゃれつつも、どうにか正午にゲレンデのセンターハウスに到着できた。オンスケでひと安心。

 ここからは班に分かれて行動する。


 まずは最大勢力の初心者。こちらがスキーとスノボ各二十名おり、スキー場が経営しているスキースクールのインストラクターに全員をお任せする。ズブの素人を大勢相手に教導するのはプロのノウハウが必須だからな。

 次に少しばかりの経験だけある初級者。こちらはスキーが十二名でスノボが十四名いて、それぞれ同伴生の三年生が面倒を見る。

 残る九人の中上級者は自由行動だ。ただしある程度の行動制限はあり、変な所へ行かないように生徒会が見回る……ということになってはいるが、生徒会メンバーが毎年あっちこっち滑っていけるような技量を備えているとは限らないので、ここは性善説に頼っているのが実情である。去年までは俺がしょっ引いて回っていたがな!


「……やっぱり先輩と滑りたかったです」


 隣に立つ花音が寂しげに言う。

 そんなことを言われると、俺も寂しくなってしまう。


「俺もだけど、今日は我慢だよ。明日になれば自由に滑っていいんだから」


「はい……」


 今日の俺は初級者達の面倒を、花音は生徒会としてパトロールをする役割がある。百パーセント遊びに来たわけではないのだ。


「明日はずっと一緒に滑ろう」


「……約束ですよ」


「ああ、約束だ」


「はいはい。仲良ししてるとこ悪いけど、兄貴が動かないとあそこで待ってるみんな動けないんだから行った行った」


「ん……。確かに初級者連中を動かすのは俺の仕事か……。じゃあ花音、気をつけてな」


「はい。先輩も頑張ってください」


「んじゃあ花音はこっちね。早く行こ」


「え? ど、どこに?」


「どこって、頂上直行のゴンドラ乗り場に決まってるでしょ。一応あたしたち中上級者組なんだから。ほら、九音も」


「ちょ、ちょっと泉美!? 私たちここは初めて来るんだけど、いきなり頂上行って大丈夫なところなの!? リフトじゃないの!?」


「平気平気。あたしでも下れるコースだし、いざとなったらどっかにいる洋兄呼べばなんとかなるから。さあレッツゴー!」


 泉美に引きずられていく双子姉妹。

 中上級者組のメンツを見ると、何人かは花音と同じように不安げな表情をしているようだ。

 まあ俺や泉美は何度か来てるゲレンデだからわかるけど、それなりに滑ることができるなら頂上からでも普通に下れるコースだ。問題ないだろう。


 さて、名残惜しいけど、俺も持ち場につくかな。



【筆者注】

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

この元旦に、自転車をテーマにしたヒューマンドラマものの短編小説をアップしています。ご興味があればぜひ読んでみてください。


『この広い世界を辿る。タンデムバイクで、母と。』

https://ncode.syosetu.com/n9170jx/

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