第0話 プロムナード
私は廊下を歩いている。
――てく、てく。
朝の時間だが、外は雨雲に覆われているらしく薄暗い。雨音も聴こえる。
――しと、しと。
灯りを点ける。
――ぱちっ。
電球色の光が廊下を照らし出す。
同時に、壁に掛かる二枚の絵画がひっそりと浮かび上がる。
それらは黄金の門を背景にした少女の絵だった。いつ見ても嫌味なぐらい美しい絵だ。
二つの絵は鏡写しのような構図で、同じキャンバスサイズで、同じ色使いで、同じ紙に描かれている双生絵だ。にも関わらず、それぞれが全く別物のような存在感を放っている。
……なんて皮肉なのだろう。
この絵を飾ってから早一年。今も“あの日”を克明に思い出す。
“あの日”のことは良い思い出なのか、悪い思い出なのか、今もわからない。どちらでもないのかもしれない。しかし、“あの日”と呼んでしまうほど特別な日であったことは確かなのだ。
絵を見ていたせいで私の足音は消え、いつの間にか雨は上がり外も静かになっていた。
無音の世界で、私の思考は過去へと巻き戻る。
これは、“あの日”に至る物語。
私と彼女と、彼とあいつ。
双子と双子の組曲。
プロムナードから大門まで。
調律が終わり、天使が通り過ぎた静寂の中、運命のタクトが動き出した瞬間へ遡ろう。
はじめまして。るねこ院600です。略してるねこです。
とりあえず0話から3話は本日連続投稿します。プロローグはポエムなので聞き流してください。
以降はストックが尽きるまでは毎日投稿予定です。
お付き合いいただけますと幸いです。
この物語は、ムソルグスキーの調べに乗せてお送りします。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。