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『溺愛以外お断りです!』11



「おはよう、レナード!イメルダ!」

「おはようございます。フェリス王妃殿下」


 両手を振りながら食堂に入って来た王妃は、今日は頭の上に大きな鳥籠を載せていない。聞くと、今朝は元気がないようで、連れ歩かずに部屋で様子を見るようだ。


「貴方達、今日は天気も良いしお茶でもしない?」

「すみません。僕は父と一緒に議会に出席する予定です」

「あらまぁ、残念ね。じゃあイメルダと二人かしら?」

「ごめんなさい、フェリス様……私も予定が、」

「何処へ行くの?」

「孤児院へ行く約束をしているのです」

「そう。それは仕方がないわねぇ」


 悲しそうに下を向くフェリスを見て心が痛む。

 また機会があれば、と言い添えて俯いた。


 朝食を囲みながら、コーネリウス国王と王妃が鳥の具合について話し合うのを横目にパンを齧る。ガストラ家の料理人たちが提供してくれる完璧な食事に感心しつつ、頭の中では父ヒンスのことを考えていた。


(………お父様は元気にしているかしら?)


 タイミングが合わずにしばらく顔を見ていない。

 グレイスの話では仕事が忙しいようだけど。


 色々と落ち着いたら一度家を訪ねてみるべきだろう。しかしながら、帰ったら父に聞かれるのではないか。「ところで結婚の話はまだなのか?」と。私はその問い掛けに笑顔で答える自信がない。



「孤児院には君が一人で行くのか?」


 物思いに沈む頭の上から、レナードの声が降ってきた。


「あ、えっと……いいえ…ミレーネと」

「ならば安心だな。彼女は頼り甲斐があるだろうから」

「ええ、そうね……」


 ドキドキしながら返事を返す。

 バターに伸ばした指先が震えないように願った。


「帰る時間が合えば、夕食は外でどうかな?」

「え?」

「あらあら、それなら近くのミカエラの店を予約しても良いかしら?あそこの鶏のハーブ焼きがとっても美味しいの。コーネリウスも大好物なのよね?」


 満面の笑みで手をパンッと叩いて立ち上がったフェリスに向き直って、レナードは「申し訳ないですが」と口を開いた。


 王妃の隣で国王はがハッとしたように目を開く。

 不思議な間が食事をとる四人の間に流れた。


「今日はイメルダと二人で話したいのです」

「でも貴方達はいつも一緒に、」

「フェリス。レナードがこう言うんだ、身を引こうじゃないか。若い二人で積もる話があるのかもしれない」

「なにが積もるのよ~秘密主義ねぇ」


 ぷんぷん怒る王妃に「その店には私が同伴しよう」と申し出ながら国王はチラッとこちらに視線を投げた。


(………?)


 私はわけが分からずにレナードを見上げる。

 見慣れたエメラルドの瞳に変わった様子はない。


 メイドが食後の珈琲を運んで来たのをきっかけに、一瞬盛り上がった食卓は再び普段の落ち着きを取り戻した。薔薇の形をした可愛らしい砂糖をカップに落として、名前を借りてしまったミレーネのことを思う。


 きっと彼女に言えば反対するのだろう。


 レナードにだって本当のことは言えない。だけど、私だけが無力で何も出来ない臆病者で居続けるわけにはいかない。アゴダ・セイハム大公はきっと、私の弱さを知っている。



 長い朝食がお開きになると、コーネリウス国王と部屋を去るレナードを見送って私も席を立った。その場でもう少しゆっくりお茶を楽しむという王妃に頭を下げて、食堂を後にする。


 自室に戻ると一番地味な色味の服に着替えて、顔を隠せるように大きな帽子を手に取った。鏡の前で自分の姿を確認すると、壁に掛かった時計を見る。


(十一時には間に合うはずね……)


 階段を駆け降りると、すでに頼んでいた運転手が待っていた。簡単な挨拶を交わして車に乗り込む。心臓がバクバクする。


「予定が変わりました。目的地を変更しても?」

「え?ファーロング家からですか?」

「はい。待ち合わせ場所が変わったので」

「承知いたしました。どちらへ?」

「アポイナス修道院へ…向かってください」


 運転手は一つ頷き、車は走り出した。



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